第4話 好きって今なら言えるのに…

(…!)

長い、そして、何とも嫌な夢だ。

(今のはすみれか?じゃあ、晴って…俺はハルじゃなくて、晴…って事か?

何だか少しずつ思い出したぞ。言いたかったんだ…すみれに好きだって。贈りたかったんだ…スミレの花束を…)

怖い夢と一緒に明るい未来が見えた。

(ここで好きって言えばいい。そしたらやっと肩の荷が下りる…)



ある休日。

あまり出かけたくない気分のすみれは、ハルと一緒にテレビを見ていた。


「ねえ、ハル」

(なんじゃ?)

「ハルは私の事好き?」

(当たり前だ)

「何も言ってくれないんだね」

(え?)

「言葉にしないのは、晴と一緒だね」

(すごく伝えたかったんだぞ)

「晴も、最後まで好きって言ってくれなかったんだよ」

(……)

「ハルも全然鳴かないもんね」

(鳴く?俺は…)

「ハル、好きな子が出来たら、ちゃんと伝えなさいよ?」

(俺はすみれが好きだ)

「これは私の勘だけど、あの日、私の誕生日、3月15日に、晴が誕生日とホワイトデーで、『好きだ』って言ってくれる気がしてたんだ…。結局聞けなかったけど…」

(泣いてんのか?今だ!好きって言え!)

「……」

ハルは、声が出なかった。

(声が出ないぞ?俺は一体誰に生まれ変わったんだ?生まれ変わったんだよな?人間に…。結ばれるんだよな?すみれと…)



とりあえず、声が出ないから、咄嗟に思いつく動作をした。


頬を流れる涙を手で、ぺたぺた拭いた。

「ありがと…ありがとね、ハル…」



「あ、誰か来た…」

インターフォンが鳴った。

「宅配便です」

「あ、はい。今開けます」

とオートロックのカギを開けた。


扉を開けると、

「すみれちゃん。待たせてごめんね~。迎えに来たよ」

「嫌!!入ってこないで!出てって!出てってよ!」

必死でドアを閉めようとするすみれ。

ずっとにやけたままのストーカー…。


(よくも…よくも…俺の人生終わらせやがって…すみれを傷つけやがって!!)


(うりゃ――――!!!)


ガリガリガリ!!!

「うっうをぉぉぉ!!!」

良く研がれた爪がストーカーの右目にヒットした。片目を押さえ、一歩足が後退した。そしてとどめに、腕を思いっきり噛んだ。

「いってぇぇぇぇぇ!!!」

大に怯んだストーカーをすみれが何とか足を蹴り、ドアを閉める事に成功した。慌ててチェーンロックをかけた。




「あ…ありがと、ハル…こ…怖かったよぅ…」

泣き崩れるすみれに、ハルは心配そうに肩に手を当てた。

(俺は何に生まれ変わったんだ?声が出なきゃ、腕が長くなきゃ、しっかりホッとさせられない)

只々泣きじゃくるすみれに抱き締められたまま、生まれ変わったと知った、ハルでも晴でもないは自分の見た夢を見て、自分が今何なのか、どうして声が出ないのか、眠ってもなお、涙を流しているすみれを救うにはどうすれば良いのか、全然分からなかった。

晴だった頃には出来た事が、今全く出来ない。怒りと無力さでどうにかなりそうだった。

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