第3話 夢であってくれ
「
「おせぇ…」
「もう、少しは広い心が持てないの?」
「30分遅刻してその態度かよ」
喧嘩に聞こえる会話なのに、二人は笑顔で言葉を交わしている。
友達だった事もあり、告白らしい告白もなかった。…のは、晴の方だった。
すみれは、友達だった頃から、晴の事が好きだったから、この友達関係を絶たねば、一生後悔する、そう思ったから、
「ねぇ、晴、私、晴が好き」
「…うん…」
「うん?どっちのうん?」
「うんはうんだよ!」
晴がくるりと半回転して、恐らく赤くなってると思われる顔を隠すように言った、うんを、OKと判断して、付き合い始めた。
「晴!たこ焼き食べる?」
「おう、食う」
「はい」
「サンキュ」
「ここのたこ焼き好き?」
「美味い」
「好きか嫌いか!」
「美味い」
「もう…」
中々引っかからない…本当に気付いていない?晴の態度に、すみれは完璧諦めモードだった。
それでも、2人で過ごす最初のバレンタインデー。一縷の望みをかけて、不器用なすみれは、何とか出来上がった手作りチョコを晴に渡した。
「いつも一緒に居てくれてありがと」
「こちらこそ」
「好きだよ」
「…すみれ、恥ずかしくないの?」
「何が?彼氏と彼女だよ?当たり前じゃない」
「当たり前じゃない人もいんの!」
「え――!」
…けれど、本当は晴が一番、誰より、何より、すみれに好きと言いたくて、一番、誰より、何より、すみれが好きだった。
只、恥ずかしくて、元から照れ屋で、どうしても言えなかった。
それでも、伝えるなら、今日しかない。
そう思える日がやってくる。
3月14日。
すみれの誕生日兼、ホワイトデーだ。
「うっわーこっぱずかしいー…」
スミレの花束を持って、2時間も早く待ち合わせ場所に着いてしまった。
穴があったら入りたい…、そんな気分だった。
しかし、その気分を振り払う気分が頭7割を埋めていた。
この花束を見て、直接ちゃんと好きだと言って、そうしたら、すみれはどんな顔をするだろう?
嬉しいかな?
泣くかな?
イヤ、逆に大爆笑か?
目まぐるしく頭をよぎるすみれの反応と顔を、自分の頭の中のスクリーンに再生して、すみれの笑顔を見たいと言う願望まで混ざった。
その願望が、頭のスクリーンに映し出された時、自分でもびっくりした。
涙が目頭を熱くした。
(うわ!俺恰好わりぃ…!)
花束を隠すように背中側に持ち、目頭を押さえ、もうすぐ来る、人生で一番大切な人を想い、晴の頭の中はバラ色だった。
「晴!晴!晴ぅ!!ヤダ!!死んじゃヤダ!!」
トラックが、思いっきり晴を吹っ飛ばした。
ドラックは盗難車で、晴を吹っ飛ばした運転手は逃走した。
そして、スミレの花束は、もう形を残さず、すみれに届く事はなかった。
救急車の中で、すみれは叫び続けた。
喉はつぶれ、体中傷だらけ、出血も多量だった。
「晴!お願い!起きて!だって今日何の日?私の誕生日だよ?そんな日に、死なないでよ!」
救急車から病院のICUに運び込まれたが、数分で医師が手術室から出て来て、
「私たちにはもう手の施しようがない状態で…残念です」
「嘘……ああああ……嫌――――!!晴ぅ――――――――――!!!」
3か月後、すみれは何とか平常心を保てるようになった。
それまでのすみれは誰から見ても可哀そうだった。
”見ていられない”そんな感じだった。
泣かない決心で晴のお墓に行った。
随分とスタイリッシュで、将来建築士になりたいと言っていた晴を思い出し、やっぱり泣いてしまうすみれだった。
そして、帰ろうと、ゆっくり立ち上がると、墓地の外から、黒いニット、赤いマフラーで、太った感じの30歳くらいだろうか?がポーっとすみれを見つめていた。
(?)
そして、ギリギリ聴こえるように男は言った。
「やっと邪魔者が消えてくれたね…僕がいるよ」
(!)
(あいつだ…あいつが晴を…)
ふつふつと湧いてくる怒りが今にも暴走しそうだった。
しかし、現実問題、女一人で大の大人のストーカー男に勝てる訳もない。
墓地であった事を、警察にも言ったが、
「目撃証言も指紋も証文も髪の毛一本立証出来る証拠がない」
と言われてしまった。
それでも、晴がガードになってくれていたから、何もされなかったが、晴が死んでから、ストーカーはその正体を現し始めた。
「すみれちゃん」
「きゃ!来ないで!!」
「大丈夫。僕といれば幸せにしてあげるよ」
すみれは、こんな事がもう半年続いていた。警察も警告した。それでも収まらなかったから、今の所に引っ越したのだ。
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