伝説としてのリアルワールド

臓物ぞうもつのような貴方あなたのかわいらしいゾウさんは、敏感びんかん権化ごんげ様変さまがわりの化身けしん枕詞まくらことばとしての擬態ぎたいきりとしての粉塵ふんじん、まやかしの雨だれ、配偶子はいぐうしのかりそめ。

対外的たいがいてき表立おもてだったそとづらは、明朗めいろうかつ快活かいかつでありながらも、その腹には、胸像きょうぞうのようにはかれない何かをかかえているわね?

貴方は何者?

何故そうも私をだましたいの?

目的は何?

搾乳さくにゅうじみているのは当てこすりなの?

いとも罪深つみぶかき人間の付属品ふぞくひんでありながら、この私という女をどうこうしようというわけ?

そうはいかないわ。私はここに漫談まんだんを打ち立てる。個々ここ尊厳そんげんのためにたたかうわ。私は、私という女は。

勝てる見込みですって? そんなものは煮込にこみうどんの火あぶりよ。煮込んでみるまでは、何が起こるかなんて分かりはしない。

おいしい煮込みうどんができるかもしれない。

煮込みすぎてメンがすべて溶けるかもしれない。

コンロが突如とつじょとして大爆発を起こし、私の肉体を粉砕ふんさいするかもしれない。

家が全焼ぜんしょうするかもしれない。そればかりか、延焼えんしょうにつぐ延焼を起こし、この地球そのものをくすかもしれない。

そんないは魯鈍ろどん愚鈍ぐどんでぐでんぐでんよ。

貴方のねらいは分かっているのよ。

貴方の怪談かいだんとしてのゾウさんは、うぶな振りまたりをしていながら、その内面ひいて内実ないじつは、さもありなんというように狡猾こうかつであるに違いないの。そのたちの悪さはまるで、薄汚うすぎたない抱き合せ商法しょうほうのように、攻撃的でありながらフレキシブルで、徒手空拳としゅくうけんではいっさいない、暗殺術あんさつじゅつとしての組体操くみたいそうじみた、悪い意味での性悪説せいあくせつ邪悪じゃあくそのもの。

そして、そのようなあくたれ小僧こぞう立脚りっきゃくしたうえで、また、早々そうそうに早々することしてなく――つまり、周期的しゅうきてき予兆よちょうをチラつかせる、その『パオ~ン』を、えず沈黙ちんもくに押し戻しながら――、を見るにびん敏感びんかんさに便乗びんじょうするていで、私の妄想世界もうそうせかい電波でんぱジャックしようって魂胆こんたんでしょう? 機内きないモードのようにお手軽てがる気軽きがるに、この私を、小手先こてさき小手調こてしらべのみで籠絡ろうらくできるとでも思っているの?

……読めているわよ。ことはそう単細胞たんさいぼう――それは草履ぞうりのようなゾウリムシなのかもしれない、あるいはそうでなくて、それは緑色みどりいろをしたミドリムシであるのかもしれない――ではないのね?

貴方はさらに狡猾こうかつなのだわ。

きっとかくしているのよ。ふところに、懐刀ふところがたなとしての暗殺剣あんさつけんを。からだという体中からだじゅうに、丁寧ていねい仕込しこんだ仕込しこがたなの数々を。

フェアな立ち合い。それは絵にいたデカダンス。そんなものははなはなからお花畑はなばたけで、どこまで楽しく遠征えんせいしようと、花だらけの理想像的りそうぞうてき理想郷りそうきょうでしかない。花より団子だんご自明じめいことわりだもの。夢は二度寝にどねするし遅刻ちこくするし、あこがれはいずれれるわ。

私は幻想げんそうまどわされるような女ではない。

私は理解している。勝負というのはときうん多元宇宙論的たげんうちゅうろんてき世界観せかいかんにリアルをゆだねるのであれば、それは落下らっかする洪水こうずいとしての時の流れを分かつ、分水嶺ぶんすいれいでありなおかつ霊峰れいほうである山脈さんみゃくの、従業員じゅうぎょういんの誰にも二心ふたごころ他意たいがないにもかかわらず、何故かお客の自然死しぜんし頻発ひんぱつし、周囲から顰蹙ひんしゅく定価価格ていかかかくで買いながらも、『われかんせず、ゆえに我あり』のもっともなモットーでもって、また、はきはきとした被害者ひがいしゃづらを浮かべながら、細々ほそぼそと営業をつづける山荘さんそうのようなおごそかさをゆうした、その荘厳そうごんさだわ。

貴方の先制せんせいパンチ。それはおそらくこうね。狡猾こうかつ逆手さかてに持ちかえ、あえてストレートパンチをはなつ。いわば正攻法せいこうほうのだまくらかし。つまり、何らかのテクニックでもって上手うまいこと持久戦じきゅうせんに持ちこみ、そしてまた何らかのフェロモンをもちいることで、私の精神せいしんを意味不明にしようというのでしょう。

理解していても対処たいしょできないものというのが、この世界にはある。ひざカックンをこの現実世界から完全に消し去ることは不可能よ。

〝ナイスファイト〟。そんな言葉は、勝利の美酒びしゅでしかない。その酒のただひとつの美徳びとくは、それがただ、ただ酒ではないということ、ただそれだけよ。

私は貴方を打ち倒すかもしれないし、あるいはそうではなくて、打ち倒すこと、それがかなわないかもしれない。それはれいによってれいのごとし。つまり、〝煮込みうどんのリアルファイト〟。

たとえいずれせられるとしても、それは仰向あおむけでなくてはならない。してを向けるものですか。私は伝説的でんせつてきおんなよ。して裏返うらがえらないわ。車座くるまざになった悪霊あくりょうたちにかこまれ、『はん』だ『ちょう』だとわめかれようが、サイコロステーキの幻魔げんまがささやこうが、おびただしいめんゆうしほぼ球体きゅうたいである多面体ためんたいが、諸事情しょじじょうにより内心ないしんくさくさしながらも、その生来せいらい薄気味うすきみの悪いことなかれ主義しゅぎ勃発ぼっぱつさせ、その場をまるくおさめることだけを念頭ねんとうに置きながら、私の反転はんてん誘発ゆうはつするべく画策かくさくし、満月まんげつ出来損できそこないのような満面まんめんみを浮かべつつ、生半可なまはんか覚悟かくご半狂乱はんきょうらんになりながら、ドングリが七転八倒しちてんばっとうするかのきょくを、悪夢のような曲調きょくちょうで、私の外耳がいじおよび内耳ないじならびに側頭部そくとうぶに向かって、いつまでもしつこくめげずに歌い、そればかりか、かの曲を世界の終わりまで――たとえおのれ以外の者がすべて、終末しゅうまつほろびの彼方かなたに消え去ろうとも――、ただひとりきりでうたいでいく所存しょぞんであるという、その痛切つうせつな覚悟を告白こくはくし、この私という女のじょうという感情かんじょうに、民事みんじ刑事けいじそのどちらにもうったえるように、両義的りょうぎてきひいては多義的たぎてきに訴えようとも、私は決して裏返らないわ。だだっ子のように軽々かるがるとかかえあげられてなるものですか。私は伝説的な晴れ女よ。これを覚えておきなさい。私は伝説的な晴れ女よ。いいこと? 私は伝説的な晴れ女よ。えづらをかく、そういう存在になりたくないのであれば、次の文言もんごんを覚えておくことね。〝私は伝説的な晴れ女よ〟。胸にきざみなさい。私は伝説的な晴れ女よ。伝説をどうこうできると、貴方は本当にそう信じているの? もしそうであるならばその認識にんしきを、早急そうきゅうにあるいは早々そうそうあらためるべきだわ、いますぐに。そんなことは不可能よ。それがたとえ、何某なにがしかの大物おおもの――ひとつ例をあげるなら、クジラのようなゾウさん――だとしても。ゆえに言うわ。私は言う。私という女は言うわ。私という女という私は、貴方にこう進言しんげんする。〝勝ち負けという概念がいねんをかち割ることね〟。別の何かに価値かち見出みいだすがいいわ。昨日きのうのお天気であるとか。今日きょうのお天気であるとか。明日あしたのお天気であるとか。明後日あさってのお天気であるとか。それはなんでもいい。

私はもうすでに超越ちょうえつしている。勝ち負けの価値なんてものからは。私を見くびらないことね。私という女がいったいこれまで、どれだけの洗濯物せんたくものかわかしてきたと思っているの? ゆうに十億枚じゅうおくまいえているでしょうねおそらく。私は伝説的な晴れ女よ。数々のシャーマンたちをかし、邪悪じゃあく予報士よほうしたちの霊的れいてき予測よそくあらしをいくつもくぐってきたのよ私は。こんな逆風ぎゃくふうなど私にしてみれば、ドライヤーの『じゃく』の吐息といきのようなもの。何度でも言うわ。私は伝説的な晴れ女よ。こわれたテープレコーダーという表現ひょうげんが死んでひさしい昨今さっこんにおいて、いまの私のありさまはどうたとえられるのかしらね? 私は伝説的な晴れ女よ。私は伝説的な晴れ女よ。分かる? 私は伝説的な晴れ女よ。

石臼いしうすじみたイデオロギーがゴリゴリと音を立てながら、イナゴの大群たいぐんのように押し寄せるがごとくの風体ふうたいで貴方が、私のしろとしてのかなりのしろゆうしたけっこういい体の『およしになって』の言葉に耳をさずに、そればかりかその悲鳴ひめいを、無断むだん無銭むせんで『よしなに』へと強引ごういん翻訳ほんやくし、また、『合意ごういのうえでした』などという馬鹿ばかげた後付あとづ設定せっていりこんだうえで、シックでモダンであるばかりか、上等博覧会じょうとうはくらんかいでありなおかつ、下方修正かほうしゅうせいという言葉がおのれあさましさにえかね、腹を縦横無尽じゅうおうむじんひらくかのような、この私のイカした体を放題ほうだいのやりたい放題にするにとどまらず、あの唾棄だきすべきそこなしにいやしいトドのやつのように、厚顔無恥こうがんむち無遠慮むえんりょに、私の心の配電盤はいでんばんをこじけ、中の配線はいせんをこんがらがし、掛かり付けの業者ぎょうしゃさんをばざるをないような状況じょうきょうに、この私という女をおとしいれようとも、それは海底かいてい建造けんぞうするダムのように無駄むだなことよ。そんなのはまったく下駄げたいたハイヒールだわ。背伸せのびという名の下劣げれつ。いいえ、それはただ背伸びを語る、しき邪悪じゃあくわるいところだけを集めた気味きみわるい何かよ。

私はね。私という女はね。私は伝説的な晴れ女よ。私という女という存在はね。私は伝説的な晴れ女よ。私という女という存在という概念はね。私は伝説的な晴れ女よ。いいこと? この言葉を、この事実じじつを、この伝説を、この神話しんわを、はかの中までテイクアウトしなさい。ここほれワンワンの犬畜生いぬちくしょうの、その頭のなかはドックフードまみれだという事実をそっと胸にめつつ、自らの小綺麗こぎれい体面たいめんにご冥福めいふくをおいのりしながら。私は伝説的な晴れ女よ。分かるかしら? 私は伝説的な晴れ女よ。いとも罪深つみぶかき人間でありながら、私は伝説だし、晴れそのものだし、私は伝説的な晴れ女よ。つよがるのは早々そうそうにやめることねいますぐ。私は伝説的な晴れ女よ。この事実からはのがれられない。私は伝説的な晴れ女よ。この真実しんじつるがない。私は伝説的な晴れ女よ。私の鉄面皮てつめんぴ鉄壁てっぺきよ。私は伝説的な晴れ女よ。いいこと。これをおぼえておきなさい。わすれないでいることね。頭の片隅かたすみに置いておくことね。胸にきざむことね。心にとどめておくことね。次の文言もんごん復唱ふくしょうなさい。〝私は伝説的な晴れ女よ〟。徹底的てっていてき反復はんぷくなさい。〝私は伝説的な晴れ女よ〟。〝私は伝説的な晴れ女よ〟。ひまさえあれば口ずさみなさい。〝私は伝説的な晴れ女よ〟。〝私は伝説的な晴れ女よ〟。〝私は伝説的な晴れ女よ〟。

いいこと? たねも、仕掛しかけも、ありはしない。あるのは伝説、それだけよ。これはショーなんかではないの。実生活じっせいかつをおろした天界てんかいのリアルワールドなのよ? 口裏合くちうらあわせはうしなわせるし、ヤラセなんてものは破壊はかいするし、もし何者なにものかがサクラをもうようものなら、その場で即刻そっこく、そのイカれた頭に電子でんしレンジをかぶせて爆発させてやるわ。

つまり、いままでのすべてを分かりやすく要約ようやくするなら、次のように言えるわ。

「私は伝説的な晴れ女よ」

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