あ。

あ。どうも。

ぼくはストイックおじさん。

え? なんだって? ぼくの成り立ちを知りたいって?


いいのかい?

そんなことしたらきみは、

精神的せいしんてき近眼きんがんになってしまうよ。

そしたらばきみは、ぼく固有の、つまり、ぼく由来の固有種になってしまうわけなんだな。


ふー。分かったよ、そこまで言うのなら、ふー。教えてあげるよ、ふー。

ああ、きみの意思決定の音がこのましいよ。ノンストレスなのどごしは、それはぼくの前頭葉ぜんとうようをゆさぶるわけだ、ふー。

きみのその、柔軟じゅうなんな学び態勢しせい、とてもエアリアルで、ふー。素敵。好きだね正直に言っちゃえば。ふー。好き。ふー。


ささ、さぁ、ほら、見てごらん、肉眼にくがんで、ふー、脳からの指令が、ふくらはぎのなかで躍動やくどうしているね?

ぼくのなかの鍋奉行なべぶぎょうが、きみの味覚に興味を示しているんだ。伝令と言いかえれば別テイストな味わいになるよ、試してごらん。


さあ、もっと近くに来てごらん、おぞましくないから。大丈夫だよ、少しもおぞましくないから。

……まったく、これだからダンディズムはやめられないよ。ふー。


ん? むむ? ぼくの心にすみずみに、探求心が行き渡っているのは何故かって?

いいかい、それはね。太古たいこの民族たちの遠征えんせい由来の造形物ぞうけいぶつが、ぼくたちのまわりを取り巻きながら、じっとこちらを見ているからなの。いいね?


さぁ、これからが答え合わせだ。おそらくきみは、瞳をとじたことさえ後悔してしまう。だから、まばたきをするなら今なんだな。

事前告知じぜんこくち

ぼくの本音ほんね構文こうぶんが、何の抵抗もなく口からこぼれる。


『きみには、好きなだけ準備体操をしてほしいんだな』


いくらでも待つから大丈夫。そのあいだにぼくは、「あいうえお作文」をむさぼりつくして時間をつぶすから。


あ。再試行さいしこうおとずれ。

ディアノーバディ、新しいタイプのきみ、新しいきみの眼差まなざし。

きみの認知にんちの変化にまどい、ぼくだって姿形を変えざるを得ない。

手間暇てまひまをかけた丁寧ていねいな変身。

浮かぶ、ぼくの頭に、朝霧あさぎりれるダンゴムシの群れが、地平線からせまり来るイメージが。朝日と虫の相性の良さといったらないね。

固唾かたず呑まざるを得ない光景。それは遅筋ちきん速筋そっきんり成すグラデーション。

自分自身のことなのに、思わず手に汗にぎっちゃったよ。

びに、照れ笑いを三つ重ねてきみを見るね。いくよ?


――きみの顔――

――きみの表情筋ひょうじょうきん――

――きみの頭部のなかで起こっていること――


分かるよ、だからぼくはしっかりとうなずく。

うん。うんうん。うんうんうん。


視線を上に移してほしいな、見てよ、ぼくの指の、このフォーメーション、ふー。

いやらしさとはいっさい無縁むえんのうごきは優秀で素敵なんだな、すごく。

食指しょくしがうごく、うごくうごく、きびきびうごく、しているあいだきびきびと。

いやらしさ抜きの官能かんのううごめいている、きみとぼくのひたいのうらがわで。ふ ふ ふー、ひたいのうらがわ同士がふれあう歓喜かんきは、それはもう最高なんだな、ふー。


きみの目の付け所、それはもう抜群ばつぐんさ。寄り道なしの直通だから、ぼくは受けとめるだけで精一杯だよ、ふー。

きみのその、無きにしもあらずの微笑ほほえみが、ぼくの産毛うぶげ逆立さかだてるんだな。それがすごくいい。

同期しているね、連動しているね、ぼくたちは常に運動しているんだね。


引き締まったふくらはぎ。これって言わば、歩いて歩いてつちかった、躍動やくどうの歴史なわけ。

視線が真正面からぶつかり合う高揚こうようおどいのようなきみの眼差まなざし、こんなにフレッシュなことってあるんだね。

つい今しがた、きみと目を合わせた思い出、それはいつまでもマッスルでどこまでもマッシブで。

うん、それはね、鳥の胸肉をむさぼうよろこび、忘れられない表情筋ひょうじょうきんの疲労感、ふー。


分かるよ分かる、きみの理解の貪欲どんよく食指しょくしが。分かるんだ、きみの臓腑ぞうふかわきのなげきが。

あ。 感じるきみの変化を。ふー。

「もりもり食べて、自己じこ研鑽けんさん

「もりもり食べて、自己じこ研鑽けんさん

「もりもり食べて、自己じこ研鑽けんさん

あ。 もう実地じっちは充分なんだね。ふー。

分かっているよ、精神論せいしんろんがいいって言うんだろう?

……すぅー……、……ふー……。


ぼくの心は水面みなもに浮かぶ水死体のように瑞々みずみずしいだろうね?

照りつけるあたたかな太陽。

ぼくのボディーをつつみ込むのは、きよらかな泉の静けさ。

ときおり行う寝返りはスムーズながら、

その音だけは抵抗感に満ちて生々しいのさ。それは転じてとてもセクシーで、不可思議ふかしぎだね?


今この場のリアル、それがファンシーに置き換わる。

ぼくが視線を向けるそのたびごとに、男性カマキリが女性カマキリに食べられていく。

ふ、筋繊維きんせんいの断ち切れる感覚、ふ、その断面だんめんが触れ合う感触、ふ、腹筋後の心地ここちよい疲労感、ふ、何とも言えない幸福感、ふ、ほどよいストレスの潮騒しおさい、ふ、メトロセクシャルな事後じごの達成感、ふ、熱々の筋肉のよろこび、ふ、ふ、ふー。


ああ、ぼくは幸福なのね。リリカルです。

しどけないきみの眼差まなざしがこのましくてならない。とてもリリカルです。

極まってしまっていけないね、震えてくるよボディーが。きみのリリックがぼくの背筋せすじいずりまわるのさ。


……ぅあ……! ……香りのいい石鹸せっけんで手を洗うよろこびがすごくてゾクゾクする……!!


見て、見て、ほら、ぼくの、指、指、指。

突っ張った五指ごしはまるで、アメンボの脚のようだよ。ふー。ふー! ふー!!

あ。思えば五指ごしたちは、さりげなく互いを愛撫あいぶしているじゃないか。どうりでゾクゾクするわけだ。


ぼく在ってのきみ。

きみ在ってのぼく。

これって何ものにも代えがたい状態だね。


†ぼくはこれからずっと きみの脳みそのなかでみゃくちつづけるからね ふー†

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