袖から何か落ちましたよ?

ある夏の昼下がり

悪夢に目覚めて絶息ぜっそく

ひさしからずそのねばつきの


知らず頭に寄生きせいした、

綿わたかかえるタンポポが、

誤作動ごさどうを赤らめ、

申し送りを吐瀉としゃ排泄はいせつ


遺書いしょ紙片しへん片隅かたすみ

わらいを甘噛あまがみの

あさゆうな、ずっとわらって人心地ひとごこち

うぶ毛で感じる、くちびるの熱

心変こころがわりがめる、突然に

肋骨ろっこつ真似まねをして、楽しげに

アハ、筆圧ひつあつみをつくるの明日あした夕餉ゆうげ


孤独こどくなこころ

頸骨けいこつ嚥下えんげする、

その感覚にとびおきる

脊髄せきずいは、見て見つめ、見損みそこなって、わせ

アハ、ありもしない、臓腑ぞうふる、たなごころ

こどくな心

かたわらにたたずむ、

首振くびふ扇風機せんぷうきを押し倒す

その細首ほそくびと、

やわらかい両掌りょうてのひらが、

柔肌やわはだ柔肌やわはだ」と期待しながらはだわす


ふと気が付けば、

あらん限りの力をこめて、

弛緩しかんしていたらしいんだ、

一昨昨日さきおとといのたんぱく質が


鬱血うっけつ、いいよ、鬱血うっけつ、しっとり

朝粥あさがゆみたいな乳製品にゅうせいひんのすっぱいエキス

酸欠さんけつ、いいの、酸欠さんけつ、しっかり

夕顔ゆうがおみたいな表情筋ひょうじょうきん詮無せんないニヒル


あなたの心をこのままめして、

ひとめにしたい私の心、ひどくふしが鳴る

気泡きほうはじけて骨身ほねみみる、ひとつふしがある


あなたさ、いつだってなく、

首を横に振り続けたな。あなたさ、

あみだくじで、なにするか分からないよ?

あなたさ、ねえ、あなたさ、どこを聞いてる?


耳の穴を充実じゅうじつさせてください

あなたさ、これからずっと、

私だけにひそひそするのが、

いいと思うよ、恋煩こいわずらいの怨恨えんこんなしで


花のしる赤紫あかむらさきなの昨日きのうから

戻したいから、必死にもじもじして、

かげがしてカタツムリにべさせる


色気いろけづいたゆびずかしさをわらうよに、

首振くびふ扇風機せんぷうきはそよかぜを、

水子みずこみたいに流しだす

炎天下えんてんかのあばずれが、

ほくそ算段さんだんを、

ほのめかす、おめかしが、ひどくこのましい


くび柔軟じゅうなん首降くびふ扇風機せんぷうき

二度も三度もくびころされ、

きて嫌気いやけのデタラメが、

イヤよイヤよもスキの内側に、

入りこみ、裸族らぞく剥製はくせいに物申す

自前じまえ毛皮けがわ、だれにわたした、自尊心じそんしん


このたびは、産後さんご雄叫おたけびをはっせられたこと、

まことにハアハアしております、みな一様いちよう

ありがとうはおれいかたまり接着剤せっちゃくざいは空気が大好き


落っこちた心がうなじにただよい、

眼球がんきゅうこぼさぬようにするので、

精一杯せいいっぱいであった、幼年期ようねんき

四分六しぶろく程度ていどのモノゴコロ


スキなココロ

しずかな部屋に、

こだまする


すきまかぜが死んだふり

誰かの気を引きたいあまり、

指折ゆびおりかぞえて花占はなうらな

分針ふんしんが、音もなく抜け落ちる

なまぬるさにじょうじて、

心臓じんぞうまでもがわるふざけを、

し、始める

ときおり、

音を立てて、

息をみながら


今しがた、尾花おばな凝視ぎょうしする、おとなりさんと目が合った

死んだ顔のくくり、誰のはだにもやさしいみたい

イイ気味きみ無意識むいしきで、

無性むしょうかゆくて

死相しそうがいらえた、「きむしるのは、

得策とくさくじゃない、ひとつほほがある」


流しのほうから視線しせんさそ

惰性だせいに顔をうずめてヒトオモイ

瞳孔どうこうがれたまんまるは、

水泡すいほうみたいにヤワじゃない


真水まみずられた金盥かなだらいに浮く、

小太こぶとりの西瓜スイカは、ヒヤリともしない

ただ、白目しろめくように、

ナマナマしく、グチャリと音をたてながら、

キッカリと一回転いっかいてんしてみせて、

ひとつつぶやいた

――アハ。タネだ、ずっとうずいてたのはタネだったんだ――

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