失火立夏日課

おこたるなかれ、忘れるなかれ、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ

聞きらすことのなきように、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ


日課にっかのおろそか日刊にっかん雑誌ざっしがすっぱぬき

三日坊主を三日三晩拷問ごうもんにかけ

へっぴりごしの、そのねばごし弱腰よわごしな根性を

ここぞとばかりにドスコイめし

ド根性と相成あいなりました、季節の初めに縁起えんぎよく

何処どこかぜ似非えせ哀愁あいしゅうは、取り越し苦労ぐろう演技欲えんぎよく


だからといって万事ばんじうまくいかぬのが世のつねの平常心

ほほの肉、千切ちぎれるほどつねろうと、燃え上がる炎は風と共に延焼えんしょう

個々の欲、はち切れるほど満たしても、れ上がる頭は金と共に心中しんじゅう

ほほをえぐり取ろうと、それでも火はまたのぼるたからかにとめどなく

個々を忘れ去ろうと、それでも血はまだ残るカタログにとりあえず


かこみ取材のような町内会の面々は、汗水たらし、米搗こめつきバッタの奇祭きさいあば

火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつで

袋叩ふくろだたきにされて殺された放火魔ほうかまていたらくこの上なしのさらに上

そのほっかむり外すと、どうやら人違いという機運きうんが高まる

あわてふためく町内会、王たる会長の判断くだる夕日とともに


「そうだ、いちゃおう、身元が分からなくなるまで」


その言葉受け、役員やくいん総立そうだちひまわりばたけ拍手はくしゅ喝采かっさいタネ飛ばし

鹿賭場とば行け、年齢制限ねんれいせいげんおしろいだまし、白紙撤廃はくしてっぱいネタばらし


「はい、今宵こよいは大人だけの独擅場どくせんじょうでありまして」

婦人部ふじんぶの方々は子供の夕飯ゆうはんどくるように」

「もしかんのいいのがいるようなら、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつで、ひざをしこたま打って人為的じんいてき成長痛せいちょうつうひき起こし、大人の仲間に引き入れなさい」「今すぐに」「時間差で」「またとなく」「いっそれと」


火のないところにけむりなし、のないところにかげはなし、非のない子供に可愛かわいげなし


王たる会長、心臓発作しんぞうほっさのごとく声を張りあげ、さけさけぶ水無しバケツの底に向かって

血気けっきさかんな若者わかものいずこ、通過儀礼つうかぎれいをさせてやる、このあわれなものをけ、け、き捨てろ、煮焼にやきのように心躍こころおどらせ、大人であるあかししめしてみせろ」


おこたるなかれ、忘れるなかれ、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ

聞きらすことのなきように、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ


世界はまわる、とまらない、の中のかわず、いずれ硫酸りゅうさんで溶かされるさだ

世界はまわる、とまらない、借金苦しゃっきんくで首がまわらないことを開き直り、社会に不平ふへいれる不届ふとどものは、その必要性をかされて、いずれその首を切断されるのがさだめ、運命、運命の赤い糸、首かられ下がる神経しんけいたば、それは切断の如何いかんかかわらず、ずっと社会とつながっている

世界はまわる、とまらない、引っ掛かろうと強引に

世界はまわる、とまらない、邪魔じゃまだてするなら強引に


やがて訪れる、血に染まった消防車の

そこからいずるは、消防団員のれの

体の欠損けっそん誇示こじするように、ぽとりぽとりと落とし物

すっかりげた内臓が、それでも動くせわしなく

鉄の意思、そればかりのために

鎮火ちんかの使命、それたすために


救急車は、それに遅れて二時間後

人手不足のためなのか、ひとり残らず精神錯乱せいしんさくらん

近隣きんりんの住宅に押し入り略奪りゃくだつ虐殺ぎゃくさつ、火を放つ

雄叫おたけびは粉々こなごなに割れて硝子がらすのように

世界の気道きどう確保かくほせよ

世界の血流けつりゅう促進そくしんせよ


テレビ中継見るうちに、自責じせきねんられたる

全国ぜんこく津々つつ浦々うらうらの警察官

ほとんど同時に、自決じけつの覚悟をしたものの

その思いの強さのためなのか、脳髄のうずいの回線が混濁こんだく

その身ほろびるまで殺人を行う鉄面皮てつめんぴい降りる

パトロールのパロディ、パトロールのロールプレイ

仲間内なかまうち敬礼けいれい返礼へんれい撃鉄げきてつ起こし、はかったように指がらめ

治安ちあんのなんたるかをいとも容易たやす

平穏へいおん継続けいぞくのなんと容易たやす


おこたるなかれ、忘れるなかれ、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ

聞き漏らすことのなきように、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ


歓喜かんき歓喜かんき向上こうじょうとどまり知らず

町内会は血の海、火の海、人の海

前々から思っていたんだ、三丁目のやつらはいけ好かないって

け、き払え、野原のはらのお似合いの区画くかくだろうな三丁目

火事場泥棒かじばどろぼうあぶって殺せ、ぎゅういつわり外国に売り払え


領土りょうど拡張かくちょうするべし、いまこそ契機けいき、ふんだくれるだけふんだくれ

隣町となりまち兵糧ひょうろうで、そのとなりさかで、そのまたとなりは見せしめ祭りの会場だ

郵便番号ゆうびんばんごう染めあげろ、バツ、バツバツ、赤、赤々と、真っ赤な色のバツじるし

こぶしこぶし、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ

かかとかかと、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ

鈍器どんき鈍器どんき、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ


保守派ほしゅは脳天のうてんにクリスタルの灰皿はいざらを叩き付けろ、一服前いっぷくまえに済ませてしまえ今すぐに

臆病者おくびょうもの側頭部そくとうぶに置時計を打ち付けろ、時間をとめろ現時刻げんじこくをもって今すぐに

手製てせい爆弾ばくだんこさえてさんぜよ、言われるまでもなく今すぐに

賛同者さんどうしゃ賛同さんどうを、賛同者さんどうしゃをたたえてたたえて賛歌さんかを歌え

賛同者さんどうしゃ賛同さんどうを、讃頌歌さんしょうかでたたえてたたえて参加をうた


火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ、それはもう血みどろで、ヘモグロビンでぐちゃぐちゃで、血で洗ってもそれはもう、血だらけになるに決まってる、さだめ、さだめ、運命、運命のリズム

火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつの、あの、なんかカンカンいうのは、運命の音、運命のさけび、運命の躍動やくどう


おこたるなかれ、忘れるなかれ、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ

聞きらすことのなきように、火の用心で使う、あの、名前は分からないけど、なんか、カンカン鳴らすやつ

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