第5話 きみいろ

 もう一度だけ、目の前に現れてほしい。


 これは私の行き過ぎたわがままだって思ってる。


 いつもいつもいつも、隼人は私のわがままに応えてくれた。


 うれしかったんだ。でも私、素直になれなくて、それでいつも迷惑かけたっけな。ごめんなさい。ごめんなさい......。


 頭だとすぐに出来る、分かっていることだから、想像することは、誰でもできる簡単なことだから。だからまずは、実行しないと。


 だんだん考えて考えていくうちに私が私自身じゃなくなるみたいになって、すごい怖かった。


 朝一に隼人を見かけたら、大きな声でその名前を呼ぶ。


 「隼人ーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


 「ちょっま、おい!!!!」


 「ドンッッッッ!!!」


 隼人は道路に隣接していた池に落ちる。


 「あああーーーーーーーーーーー!!!! 隼人、大丈夫?!」


 落としたのは私なのに。


 「......バカかよっ!!! 大丈夫なわけねーやん」


 隼人は本気で怒っているのかもしれない。でも、どうやって声をかければいかわからない。頭が混乱する。


 「もーーー、本当は怒ってるって見せかけて、照れ隠ししてるのバレバレだから」


 「......」


 「隼人......?」


 隼人の顔が濡れた髪の毛で覆われていて、表情がよくわからない。すると隼人は、濡れた髪をかきあげると、


 「ん、あー何でもないよ。それよりよ、濡れたこの服どうしてくれんだよ」


 怒ってくれた。その態度に、どこかホッとする。

 

 「あ、えーっと、どうしよっか......」


 「そーいえば、家に替えの服あったっけな。着替えていくから、佳奈は先行ってて」


 「いいよ、私も待つよ。それに、悪いのは私なんだし」


 「大丈夫だから......。先、行ってて」


 その時の隼人の表情はとても疲れているようにも見えた。


 私はその顔を見たときに、物凄い罪悪感を覚えた。


 その罪悪感は、今でも心のどこかに残っている。



~あかいろ~



 「っはぁ、はぁ、はぁ、......」


 気を失っていたのか、さっきまで明るかった空の青色は、漆黒の暗闇に変わっていた。

   

 ここはどこだろう、と記憶をさかのぼる。そして、最後に見た逆さに見える木々を最後に、思いが出せなくなっていた。そこで気づく。


 「私、足元がふらついて、道路わきの崖に......」


 あの日、私は隼人に忘れてもらうために、これ以上隼人に会わないために、家を出てきたんだ。


 「これで、いいのかな」


 季節は真冬まっさだ中、夜になれば気温は0度を下回る。体に力を入れようとするけど、上手く力が入らない。起き上がろうにも、意識がもうろうとしていて、下手に動こうとすると視界が歪む。


 「私、ここで死ぬのかな」


 死ぬってこういうものなのかと初めて実感した。体は寒いを通り越して感覚が効かなくなっていた。なにも感じないのが、自分が死ぬのだとより思いさせる。


 悔いはない。と言いきれたら、私はもう死んでいただろう。こんな状況にも関わらず、隼人の顔が脳裏に浮かぶ。こんな状況だからこそなのかもしれない。


 「はやとぉ、あいたいよょぉ」


 もう一度、隼人の色に染まりたい。


 


 

 

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