第119話 エンディング 黒の聖女様はクセモノ聖女 その2
話は変わって、もしかしたらこの手記を読んでおられる方がおられると仮定して質問をさせていただくとする。
あなたは記憶しているだろうか、筋肉大好きエルフを。
役職は変態――ではなくて、錬金術士。名を、アレフ。
彼は鼻息荒く、僕の元にやってきたのだった。褒美を受け取りに。
確かに僕は古代竜の血を使った疑似エリクサーの制作には決して根を詰めず、三食を必ず摂取し、睡眠は最低でも六時間は取るようにと命じた。そして、すべてをやり切った際には褒美を与えると申しつけた。
授与内容は、効率的で美しい身体の鍛え方、だった。
言ってはなんだけれども、本気でやり切るとは思わなかった。
古代竜の血は並々大抵の量ではなかったから。
けれども交わした約束は必ず守るのが桐生一族だった。
求めに応じて人間工学と科学医療の見地からのボディビルディングの方法を伝授する。一々紙面に図を添えて、事細かく教える。
各種の、本格ジムトレーニング用器具を下賜し、より効率化を推進する。
お勧めの食事と筋肉の友、ソイプロテインを数十キロばかり用意する。乳性のホエイプロテインはたぶんエルフの身体には合わないと思い、大豆由来のものにした。これをトレーニング後、四半刻以内に大さじ三杯を水で溶いて飲む。
一か月後、彼は仕事仲間たちからオーガエルフと呼ばれるまでになっていた。
「うふふ。どぉぴんぐこんそめすぅぷにゃ!」
アカツキの感想で、〆ておく。
勇者ことコウタロウ氏も、僕とグナエウス王と三つ巴に互いを讃え合って目的を果たしていた。改造された黄昏銃 (または黄昏剣)クラウソラスは、元の光の剣には戻さずにそのままアップグレードのままにするとのこと。
どうせならその白いコートアーマーも改造しますか? と尋ねてみたら興味を持った様子でどんな風にするのかと返した来た。
白のベースに合わせてテッ〇マンブレードとか? と答えるとたとえ超強化されても三十分で狂気に孕むようなものは怖いのでやめておくとのこと。
では旧テッ○マンはと提案すると、作品自体は今も大好きだが人生が打ち切りの憂き身を見そうなので遠慮するとのこと。
うふふ、よくわかっていらっしゃる。僕もあの狂気めいた作品は大好きだ。
彼は、僕のお気に入りである。
氏にはぜひとも健康で長生きしてもらいたいので、僕謹製のエリクサーを半ダースばかり褒賞代わりに渡しておいた。
後から聞くに、この一本で大体日本円で六十億円くらいするらしい。
どういう計算かは知らないが――、
一口 (二十億円)飲めばどんな傷であろうと、どんな病であろうと治してしまう。
二口 (四十億円)飲めば身体の大きな欠損すら完璧に癒してしまう。
三口 (六十億円)飲めば若返りの効果まで見込めて結果的に寿命を延ばす。
果たしてこれが安いのか高いかは各人の主観に拠る。自分の命の値段である。
やがて彼は、帰還用魔道具を使って
さて、ようやく、僕について。
ようやっと、およそ考えられる用向きは済ませて帰還の途につきつつあった。
帰還対象者は、僕こと
そして――もう一人。アヴローラ。
戦後の一ヶ月、忙しくしている間に、彼は独自のアップグレードを果たし、とうとうアカツキとは同一でありながらも別存在へと進化してしまったのだった。
こうなってしまっては、どうしようもない。
むしろ可愛い男の娘が一人増えたと喜ぶべきだろう。
アカツキも渋々、認めた。元は自分だし、仕方ないにゃあと。
僕は独立意識と成ったアヴローラに彼のためだけの身体を与え、連れ帰ることにした。性格は以前褒めてやったときの通り、とてもおとなしい。今となっては幻ともいえる絶滅種の、大和撫子を見るような奥ゆかしさをもつアカツキの妹分である。
ちっちゃいおちんちんがしっかりついている、両性具有体ですけれどね。
この世界に残されるゴーレム兵団は、聖女召喚の神具である聖晶石の塔に制御用宝玉を新たに置き、それをもって制御させる運びにしておいた。
宝玉の正体は量子コンピューター化させたフォトニック結晶体で、素材となるのはオパールの凝縮体だった。僕とアカツキとオリエントスターク歴代の王の命令を、今書いた優先順位で命令を受けつけるようにしておく。
ちなみにゴーレムたちは、もう男の娘幼女にはならない。なお、この結晶を破壊または盗もうとする者には、いかなる理由であれ死の呪いが襲い掛かる。
ぶぶぶ、とこの一ヶ月間ちらとも姿を見なかった黄金カブトムシのブロント=サン夫婦が羽音の割に軽やかに舞い降りて、アカツキの右肩口にぴたりとくっついた。
僕たち三人は、謁見の間にある始まりの召喚陣の中央に立っていた。
真向かいにはグナエウス王、オクタビア王妃、クローディア王女が立っている。彼らの後方には王国の主たる官僚たちで鈴なりだった。なぜか上半身裸のままマッスルポージングを取って悦に入っているアレフもいるが、気にしたら負けだろう。
「黒の聖女様、お疲れさまでした」
「王陛下も、お疲れさまでした」
簡潔にグナエウス王と僕は互いを労い合う。
主目的である魔王パテク・フィリップ三世が三百万の軍勢を打ち払い――、
その過程でイプシロン王国を壊滅させてオリエントスターク王国の新領土とした。
もはや自分でも把握し切れないほどの元世界の知識と知恵を与え、クローディア王女を本来あるべき性別に戻し、ついでにオクタビア王妃は若返った。見た目そっくりで、王女と王妃が双子にしか見えないのが微笑ましいやら悩ましいやら。
身を賭して僕を生命の危機から救ってくれた恩人にして初恋の人、ルキウス王子は新領土の運営にかかりきりで持ち場を離れられず、残念ながらここにはいない。
彼女――ではなく彼とは、身体損傷を復活させるために多めにエリクサーを口移しで投与したのは甘酸っぱい記憶として残すことにした。
……男の子の格好をした女の子だったのが、唯一の不満点ではあるが。
やはりあのとき性別も変えてしまうべきだったか。バットとツーボールのおちんちんセットを生やしてやればよかったかなぁと真剣に思う。
未練がましいけれど、これもまた仕方のないことなのだろう。
大体、初恋は実らないとも言うし。
治療の際、慌てたせいで寿命を元世界基準で最低三倍は伸ばしてしまったが、まあこれは許してもらうしかない。僕も必死だったのだ。長生きしてください。
せっかくなのでグナエウス王にも身体が衰えてきたら若返りに飲むようにエリクサーを一本渡してある。老いて後に服用するかしないかは、彼次第となる。
僕は前に進み、グナエウス王とがっしりと握手をする。
彼の後方の官僚たちが盛大な拍手をしてくれた。
そして、僕は召喚円陣の中心に立つ。
アカツキとアヴローラが、右と左で僕と手を繋いでくる。
彼らは二人とも愛らしいチビッ子メイド服を着用している。僕は僕で召喚時に着ていたレオタードベースの黒のドレスを身に纏っている。
この異世界へ来て後、戦争従軍したときを除けば僕は一度たりとも同じ衣装を着なかった。この黒のドレスは元世界での僕の誕生会のために着ていたもので、なるべくは始まりの状態に戻したい気心の表れであった。
アカツキとアヴローラという僕だけの可愛い子たちが加わっている時点で、始まりの状態も何もないのだけれども。
グナエウス王が元世界への帰還のための祝詞を唱え始めた。
はあ、やっと帰れる。
元世界は五百億光年よりも大きい超々巨大ブラックホールの中に存在するため、時間という人間概念での事象の変遷はコンマ一秒たりとも動いていない。
でも、姉さんたち元気でいるかなと思わずにいられなかった。
三人とも盛大に酔っぱらって寝てしまって、風邪引かなきゃいいけれど。引いたら引いたで、看病してあげるけれどね。
僕は目を閉じて、アカツキとアヴローラを抱きしめる形に変更する。
まだかな、帰れるとなったのなら、一刻も早く帰りたい。
と、そのときだった。
がちゃがちゃと金属の擦れる足音が響いた。
「い、い、一大事でございます!」
そんな、切迫した声がした。
うわあ……物凄い嫌な予感がする。
目を開けたくない。耳を押さえて、とっとと帰還したい。
「なんだっ。今は聖女様を元の世界へと御帰還頂く大切な儀式中であるぞっ!」
「――うらぁっ! 結婚んんんんんんんっ!」
「――オトモダチ、オトモダチ! みーつけた! あーそーぼーっ!」
「「――たのもーっ、たーのもぉぉーっ! 構ってくれないと、遊んでくれないと、この国をブッ飛ばすからねっ!」」
うわあー、怖いのが来た! しかもなんか増えてるっぽい!
目を開けたくなかったけれど、どうしようもなさそうなので開ける。
するとグナエウス王一家のそのまた前に――、
幼女の姿をした、二人の魔族が僕の前に立っていた。
それと、悪戯が過ぎて僕にお仕置きされた、混沌の失禁幼女姉妹が。んん、よく見るとお尻の辺りが変に膨らんで……まさか、オムツしてるの?
二人の幼女魔族の片割れ。
魔王パテク・フィリップ三世――らしき女性。
らしきとは、なぜか彼女の姿が十歳にも満たないような幼体だったため。
しかし面影はある。
顔立ちやプラチナライオンヘア、あとは額に三本の鬼角などが。
「せっかく拾った命をフイにするのは、さすがにどうかと思うけど……?」
「やめて殺さないで。ホントお願い。なんでもしまかぜっ」
「しま……? じゃあ、どうして今更になってここに来たのよ……」
「天空城スピードマスター内の手下を全員引っさらって、戦線離脱するのに魔力を限界以上に使ってしまったから反動で幼女化したの。アタシって半分はオーガ、半分は夢魔のハイブリッドだからこういうこともあるのよね。でもでも、十年もあれば元に戻れるから! 腕力は未だ健在だし、大丈夫! 魔王は今日も元気に健在よ!」
「いや、それ、質問の答えになっていないというか……」
「アタシが婚活に失敗して撃退されたという話が自国に伝わって、それで反旗を翻したバカどもをOHANASHI(物理)で解決してきたから時間がかかったのよ。でも魔力が減っても、腕力自体は減らないからね! 全員説き伏せ (物理)たわ!」
何それ怖い。OHANASHI(物理)、怖い。
「それにしても、遠目の術を使った矢先に斬りかかられたりしてものすっごい怖かったけど、あなたって本当に美しいわね。見てるだけでお股がしっとりと濡れてくるもの。色々と捗るわね! はあ、切ない……後でたっぷり慰めてね? ともかく、あなたはアタシに勝った。アタシの婚活を始めとする一連の騒動に、すべてあなたが陰から関わってるのは知っている。大局的に見れば、それはあなたの勝利ということ。婿に来いだなんて言わない。むしろアタシが嫁に行きます。不束者ですが、これからよろしくお願いします。そうすれば、北の魔国はまるっとあなたのモノよ」
「えぇ……いりませんよ……」
「そこをなんとか!」
「だって元世界に帰れば、世界はわれわれ桐生一族のモノですし」
「一族で世界征服済みってスケールデカ過ぎよ……。そりゃアタシじゃ勝てないわ」
「というわけで諦めてください。幼女枠もこの子たちで間に合っていますし」
「女の子枠、満員なの? なら、おちんちん生やすけれど。魔力が減った現状とはいえ夢魔とのハイブリッドだからお好みの姿になれるわよ。ふむ、男の子というか、男の娘が好みなの? ポークピッツみたいな可愛いおちんちんがぷるんぷるんね?」
「も、もうその辺で。それでお隣でニコニコしているダークエルフちゃんは?」
オトモダチと叫んでいたもう一人の幼女は、僕の指摘の通り、一見すればぷにっとちっちゃくて子猫みたいに可愛い、無邪気そうなダークエルフだった。
ただ、一応は種族区分をしたが、しかし見た目通りなわけがなかった。相手は魔族である。ちなみにダークエルフは、厳密には妖魔族に分類されるらしい。
「ああ、こいつね。なんだろうね。途中で一緒になったんだけど」
「にゃあっ! ボクね、ボクね! えっとね、この世界ではね、オーディマー・ピゲルクって呼ばれてるの! ちなみにね、二代目なの! うふふ、先代は降臨した直後に踏み潰しちゃった! だってちっちゃい子の血を吸おうとしてたもん!」
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