第114話 十七歳の心模様 vs 三千三百歳の焦る心模様 その3
言ってはなんだが、これまでかなり真面目に、来たるべき魔王とその軍勢との決戦のために準備を整えてきた。
まずは食糧問題。次いで避難民問題。
そして兵たちの戦力強化に武器防具を与えて、併せて身体強化を施した。
ゴーレム兵団『アヴローラ』も作った。
五千はイプシロンへ回したが、本来の一万はそのまま王都に常駐させている。
普段は新外壁の警備や、農業に従事させて。
それら準備を、まるでちゃぶ台でもひっくり返すように無に帰す事案が起きた。
そりゃあ魔王パテク・フィリップ三世も勝つつもりでいるから軍勢を率いたのだ。しかし現状では勝利は厳しいと見ると、何らかの対策を取るのが普通だろう。
いくら力こそパワーと言っても、個々の腕力だけではおのずと限界がくる。
ならば、別な力を用意すればいい。
数は力だ。
基本的に戦争は、兵数と最新の兵器の多寡で勝敗を決する。
でもね、三十万の兵数を三百万の兵数に大増量はやりすぎだと思うの。
古代中国の戦争などで兵力百万とか謳っても、実際は十万やそこらである。
日本の戦国時代でも兵数は敵味方とも必ず水増しして書いている。
あんなもの、ぺたんこの胸にシリコン製偽乳房を詰めてブラで固定した程度の増量具合だとは思わないだろうか。
胸など、ちょっと女性ホルモン量を増やせば男の娘でもDカップである。
それでもペタンコというならイソフラボン入りのサプリメントと、大豆プロテインと、豆乳を過剰に飲めば確実に胸は大きくなる。たとえ男でも大きくなるので注意。半年もあれば余裕でツーサイズくらい大きくなるから。
……最近コッソリ気づいたことに、アカツキに乳を揉まれたせいかさらに大きくなっている気がする。Eカップも、もうすぐそこか。全然嬉しくない。
話がズレたので戻すとして、人間の悪癖なのか物事をすぐに誇大化させる傾向がある。美食は万里を超えても良いが、ほら吹きは遠慮したいものである。
というのも、やっぱり兵数の十倍増量はどうかと思う。何をしてくれてるの。
そんなわけで、僕としても対策の変更を余儀なくされたのだった。
試合形式とはいえ、せっかく打ち倒して連れてきた勇者も意味がなくなった。
まあ、コウタロウ氏と僕は妙に気が合うので彼が勇者という認識はほとんどなかったりするのだが。というのも僕の中での限定で、勇者と言えば『狂人』の代表のようなものだった。または、バカとも言う。
一番きつくて、一番人がやりたがらないことを率先して行なうのが勇者。
いくら魔王に特効能力があるからと言っても、単騎または少数で魔王と戦うなど勇者ならではの狂気としか言いようがない。
基本的に王や皇帝と呼ばれる存在は、多数の家臣や兵団に護られてるものだから。まして魔王など。それらを切り抜けて決戦。自殺志願者の所業だった。
ついでにここでもう一つ書いてしまおう。
食事の合間にコウタロウさんから聞いた、秘された話がある。
勇者とは、世界に一人だけの存在ではないのだという。
これは、聖人や聖女も当法則に準ずる。基本、この世界での彼らは召喚者、つまりは異世界人だった。この世界におけるなんらかの条件を満たした、特異点。
だからなのか――、
彼ら勇者は、最後はとびきりの不幸に中てられて死ぬ場合が多い。
役目を果たした勇者・聖者・聖女はもはやその国では持て余す存在となる。
国体を脅かすほどの強大な力や名声や権勢、何よりも戦闘に関する絶大な能力を持つ存在など、支配者層がそれを良しと見逃すはずも無し。
うん、知ってた。
特異点とは、そう言う意味合いでもあるのだから。
フラグ・イベント体質というか。
この世界の用向きが済んだら、一刻も早く元世界へ帰りたい理由がこれ。
ともあれ。
本来、勇者とは狂人である。
無理も無茶もどんどん無視してしまう。だから、すぐ死ぬ。
そして最終まで生き残れた強くてしかも運の良い狂人が――、
某ドラゴンなクエスト級の勇者となれる。
「なぁ、レオナちゃん。文部省推薦図書って、なんでクソつまんねーんだろ?」
ざわめく宮殿内で、事態を把握したゆえに焦りを見せるコウタロウ氏が何を血迷ったかこんな問いかけを僕に投げかけてきた。
どう考えても勇者とは思えぬ、突飛な現実逃避である。
この人、やっぱり面白い。
狂人の代名詞たる勇者にしておくのが惜しい。死なせたくない。
なので、彼の期待に応えるべく、歯に衣着せぬ偏見に満ちた答えを述べる。
「それはまず、読書後に感想文を書かねばならない場合が多いからでしょう。しかも少々口が悪くなりますが、こんなもの読むだけ時間の無駄だから焚書にしたほうが良いなどと、順当で素直な感想は絶対に受けつけてくれないからでもあります。そんなことすれば、もれなく書き直しでしょうね。教師らが求めるのは『そういった事実』ではなく、欺瞞に満ち満ちた無味乾燥の『その歳頃の、子どもらしい感想』ですから。次いで、物語そのものにも欠点が。面白味の核心となるセックスと暴力が、非常に薄い。もちろんセックスと言っても直接的なものではなく、恋愛とかそういう好いた惚れた的な展開が。異性、同性、異種族。誰かを好きになる、恋をする、素敵じゃないですか。そもそもセックスは人類繁栄の根幹部分です。ごちゃごちゃいうヤツはお前は女のどこから生まれ出たか、そして母親は父親と何をした結果でお前がいるのか問い質せばいいのです。どこぞのN作家サイトの、血の通わないAIみたいな運営にも聞けばいいですよ。あなた方は、木の股から生まれたのですか、ってね」
「お、おう。まるでマシンガンのような毒舌の乱射」
「暴力は、単純に殴り合いを見るのもまあ楽しいですが……スポーツなんてのもあれはルールに基づいた力のせめぎあいですからね。国家間の勝負ともなると、血の出ない戦争とも言いますし。勝つためには国家主導でなんでもやらかしますし。そういう暴力成分が極限まで薄められているから、つまらないんですよ。人間の歴史は闘争の歴史。戦い、奪い、殺すのは人の本性。自然の在り方。……そうでしょう?」
「あ、ああ。そうだねー」
「最後に、ああいう文部省推薦図書って、道徳を説こうと無理やり物語に組み込んでいるでしょう? あれが実に説教臭くてつまらなさを加速させる。モラルは本を読んで学ぶものではなく、親や兄弟、もしくは社会の目上の人間を見て学ぶものではないでしょうか。さて、昨今の犯罪の若年化はなぜ起こるのでしょうね? 見て学んだから、でしょうかね? はてさて、いかがなものか。……とまあ、以上です」
「ご教授、ありがとうございました……?」
「うふふ。僕の偏見に満ちた回答を聞いて、どうでしたか?」
「あ、うん。なんか知らんが妙に頭が冷えて落ち着いた。レオナちゃんパネェ」
さすがはコウタロウ氏。これで落ち着くか。
僕は僕で毒舌を好きに吐けて気持ちが少しスッキリした。
「では、スッキリしたところでお仕事です。お互いに高め合うのでしたよね」
「おう。んで、どうすればいい? さすがにあんな数に
「あなたの役割は兵の士気を煽る、です。戦いはしますが接敵戦闘は行わない」
「んん? 意味は分かるが、イマイチ意図まで繋がらないというか」
「その光の剣をアップグレードするのですよ。それで、細工を施す間に好みの銃火器について考えていてください。もう僕が何をさせたいのか分かるでしょう?」
「えっ、まさか剣を銃火器に? んなことできんの?」
「できますよ、もちろん。聖女の祝福は理不尽なほど万能です」
「そ、そうか。で、銃を撃ちまくるのか。確かに突っ込むばかりが戦闘じゃねえ」
「武器を手にして『
僕は賢者の石を掌に二個ばかり取り出した。
「賢者の石っ。レオナお姉さまぁ、にゃあも欲しいーっ。賢者の石欲しいーっ」
おとなしくしていたいたアカツキが、突如、ぴょんぴょん跳ねてのおねだりが。
この子はこの石が大好きだ。僕と交わすキスの味らしいですよ、うふふ。
「じゃあ、いつものようにお口に入れてあげましょう。はい、あーん、してね」
「ぴよぴよ、ぴよぴよ。あーん、なのっ」
取り出した賢者の石とは別の、銀河級の熱量を秘める真なる賢者の石を、彼の可愛いお口に入れてやる。口内でそれを転がすその姿は飴を舐める幼女そのもの。
「にゃあっ、ぺろぺろぱくぱくごっくんなのっ」
「な、なあ……それって……」
「真なる賢者の石が内包する魔力的熱量を知りたいですか?」
「あーあー聞こえなーい。それ絶対やべーやつじゃん。聞きたくないぞーっ」
「あはは」
僕は彼の光の剣クラウソラスの柄部分に手をやった。
目を閉じる。
そして内部構造を把握する。
なるほどと小さく頷く。
微弱中強凶恐狂の七段階で見れば強の最上位、凶の最下位と言ったところか。
人が扱い切れる、限界の強度になっていた。
ここに賢者の石を一つ投入。内部構造に手を加えて行く。
ついでに微妙に強化する。先ほどの強度七段階で言えば、凶の中位に。
コウタロウ氏は勇者でありながらも、勇者特有の無茶振りな狂気に呑まれていない。なので彼なら、強化した遊びの部分をきちんと把握して有用に使いこなすだろう。もちろん先に説明は十分にするが。さて、剣の方はこの辺で良いだろう。
「好きな銃火器を思いつきました?」
「俺、ターミネーターって映画の、シュワちゃんのあの武器が好きでな」
「ハンドガンはあり得ないので、ウィンチェスター1887でしょうか? またはМ79グレネードランチャー? もしくはММ1グレネードランチャー? あとは……総重量が百キロ近いМ134ミニガン?」
「……ミニガンってそんなに重いのか」
「本体重量が十八キロ。それに大量のNAТO弾と駆動用バッテリーが別途に加わります。当初は軍用ヘリに積むМ61A1バルカンを小型軽量化させただけで、個人運用のために開発されたわけではありません。映画のアレは携行カスタムされている設定ですけれど、ね。別名無痛ガン。被弾したら痛みを感じる前に死にますから」
「ウィットの利いたソルジャージョークが無駄に酷いな。よし、そいつで頼むわ」
「では、剣を抜いて銃火器を黙想してください。大まかでいいですよ。細かいところは僕にお任せを。合図するまで黙想で。形になったら、それを固定します」
「わかった」
コウタロウ氏は言われた通り剣を抜き払って目を閉じた。
するとほぼ同時に光剣が幻のように揺らめき始める。僕はそのあやふやな状態の剣の柄に手を置いてミニガンへと変化させて行く。
銃身は六本。毎分三千発の弾丸を発射可能。電動式ガトリンクガン。
本体は剣だけなので、足りない部分は賢者の石の力で魔装変換処置をする。そのための一つ目の石である。
重量は基本的に光の剣だけなので本来の物とは比べ物にならないほど軽い。弾丸は二個出したもう一個の賢者の石を利用する。
この石から魔力を抽出して精製、遅延型爆裂弾として連続発射させる。対象に撃ち込まれてから一瞬間を置いてボンッと爆発である。
その威力、弾速も加わり一発につきC4爆弾一キロ相当。ミサイル並みの威力。
まさにソルジャージョークたる『無痛ガン』である。
「……というわけで、出来ました」
「お、おう。見た目はしっかりとミニガンなのに、想像以上に軽いな。え、これヤバいだろ。取り回しが良過ぎて。しかも威力が……マ、マジかよ……」
カタログスペックを解説すると――、
なぜかコウタロウさんはドン引きしていた。なぜに……?
「ここで試し撃ちしちゃダメですからね。宮殿が瓦礫になりますので」
「やらねえよ。怖くて絶対できねえ。……正直、聞きたくないけどそういうわけにもいかないので尋ねるが、弾丸に使用した賢者の石の魔力はどれくらいなんだ?」
「だいたい消しゴム十個分でしょうかね?」
「そっか。消しゴム十個かぁ……って、嫌な予感しかしねぇ。それってアレだろ、逆換算でエネルギーを物質化させたときの質量とか、その辺だろ? となれば」
「ええ。消しゴム一個を全エネルギー化で、十万トンタンカーが積む一隻分の石油熱量ですね。それを十個ばかり使っていると考えてもらえれば」
「うわぁー。だから聞きたくなかったんだぁ。レオナちゃん規格外過ぎんだよぉ」
「撃って撃って、撃ちまくってください」
「うわぁー。全部で十万トンタンカー十隻分の熱量とか、歩く火薬庫じゃんかー」
「かつてのバルカン半島並みに喜んでいただけて何よりです」
「うわぁー」
武器の改良も済ませて良い感じに士気も上がっただろう。
僕はコウタロウ氏に勇者として働いてもらうべく、アカツキと一緒に彼の背中を押して宮殿正面口へと連れて行く。
「黒の聖女様。こちらの準備は整っておりますぞ」
「僕の方も勇者にお仕事を発注したところです。彼に任せれば大丈夫でしょう」
宮殿を出たところで、親衛隊と共に完全武装のグナエウス王が待っていた。
「勇者タカムラ・コウタロウ殿。兵への鼓舞、よろしくお願いしますぞ」
「あらん限りを尽くしましょう。レオナちゃんの期待を裏切るほうがずっと怖い」
「ではコウタロウさん、ここで一旦別れての行動です――っと、忘れてはいけませんね。これ、ヘッドマイクです。これをつけて兵の士気を鼓舞してください」
「お、おお。これ、魔道具に接続可能なのな。すまんな」
「指揮権の一部は勇者であるコウタロウさんに移譲されます。煽って撃ってまた煽ってと張り切ってください。弾は使い切ってもいいですよ。後日補充しますので。では王陛下、参りましょう。アカツキ、木星大王を呼んでね」
「うむ、共に征きましょうぞ」
「にゃあ。承りっ」
「コウタロウさんは馬車でお願いします。僕たちも士気の鼓舞を補助しますので、大船に乗った気持で。そう、タイタニック号とか」
「処女航海で思いっきり沈んでんじゃねーか。洒落にならねぇ」
「うふふ、ノリツッコミができるくらいなら大丈夫ですね」
「なんつーか、魔王軍が可哀そうなことになるのが目に見えそうだな……」
「桐生の一族、その係累に喧嘩を売る自体が超悶絶級の死亡フラグですからね?」
劇場観客参加型魔王軍討伐作戦、状況開始。
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