第109話 錬金狂時代 その5


 今までなんらかの理由で男の子を演じていた、実年齢十四歳の女の子、か。


 僕は軽く目を閉じて、また開く。子どものケンカ場面を見据える。


 親衛隊は自らの主を護りつつも、ルキウス王子――ルキナ王女――どうやら彼らは全員その性別的正体を知っているらしく、エリクサーで身体再生させたこと以外の動揺をまったく感じさせなかった。


 単に僕が知らなかっただけで、いわゆる公然の秘密だったわけか。


 僕は意識を集中させ、全身から両腕へ、そして両手に混沌を集めていく。


「アカツキ、ご苦労さま。現場から離れてください」

「にゃあ、承りっ」


 パッと身を引くアカツキ。


「「こらあっ、ケンカの途中で逃げるな!」」


「選手の交代ですよ。そしてあなたたちはたっぷり叱ってあげます」


「「何を――きゃああああああっ?」」


 僕は視界に左手を入れつつロックオンする。そうして理不尽を発動。距離を無視して双子姉妹をその手の内に捕まえる。


 宙吊りになる双子姉妹。彼女らをうつ伏せにして、僕から見て背後に向ける。


 次いで、旧き良き昭和時代のおかっぱ少女が着るような、赤の吊りスカートをぺろりとめくる。ちなみにこれは右手で、もちろん遠隔で行なう。


「ふーん。スカートの中もちゃんと幼女してるのね。さすがは邪神幼女四姉妹」


 中からカボチャみたいなモコモコの白パンツが御開帳となる。ちょっと可愛い。


「「もおおおおっ! 何するのよ! えっち! すけっち! わんたっち!」」


 ジタバタしている。でも無意味。僕からは逃げられない。というか、捕まえられた双子幼女の罵詈雑言もなんだか昭和テイストなのだけれど。


「そのモッコモコのカボチャパンツも容赦なくずり降ろして、蒙古斑付きの幼いお尻を皆さんに晒してあげますねー。うわー、恥ずかしいなー」


「「やだあぁぁっ。えっちっ。アリスコンプレックスっ。ヨウジョスキーっ」」


「うふふ。そういう減らず口も、これを受けたら何も言えなくなりますよ?」


 右手をふりかぶって――、

 幼女らしい少年みたいな薄い尻を距離を無視して本気でぶっ叩く。


 ――このっ、このっ、このっ! 悪い子たちめ!


「「きゃいぃぃぃんっ! いったああああいっ! お尻をぶたないでぇ!」」


「だが、断るっ!」


 ――悪い子にはっ、おしおきっ、しないとっ!


 バシバシ叩く。全力でぶっ叩く。何、普通なら爆発四散でも神なら大丈夫。

 心を鬼にして躾ける。オイタには物理的な躾を下す。


 体罰問題?

 ここは異世界。そんなもの知らないのである。


 そもそも、相手は人ではなく、神だ。

 人相手なら問題でも、神は殴っても法律上問題ない。

 相手が神ならたとえ殺神さつじんに至っても、罪には問われない。

 罰則を制定されていないから。無法なら好きにさせてもらう。


 千の説得よりも一度の折檻。口で分からないなら、身体で理解させよ。


 その後、口頭でみっちり説教。優しく、SEKKYO!

 もちろん正座させてね。神とはいえ子どもにはこれが一番効く。


 どれくらい彼女らの尻を叩いただろう。初めこそ文句を言っていたのが、わんわん泣き出して、それからごめんなさいを連呼するようになった。


 うふふ、態度の変化、泣きじゃくる表情、ゾクゾクする。

 おっとと、危ない危ない。もう少しで新たな性癖を開眼させるところだった。


 だけど叱られて泣く子どもって、見ていて何か嗜虐心を強く刺激されません?

 いや、僕だけ? いくらでもいつまでも叱ってあげたくなる。


 まあ、いいや。


 そうしてここからは、一変して気持ち悪いくらい優しく口頭で諭すのだった。

 もちろん正座させて自分の立場を分からせて、だが。


 ちなみにこれ、新興宗教の教祖が信者に取る洗脳方式とよく似ている。


 人格全否定から、優しく心を弄ぶアレである。

 神仏のいない宗教は、詐欺である。


「「うう……お尻、痛いよお……」」


「最初に。どうして僕があなたたちを叱るか、分かりますか?」


「「……殺そうとしたから」」


「そうね。それで誰が誰を殺そうとしたのかしら?」


「「わたしたちが、キリウ・レオナ、あなたを」」


「……レオナ、お姉ちゃん、でしょう?」


「「ひっ」」


 叱っている側を呼び捨てにするのはいただけない。

 にっこり微笑んで、強圧をかける。


 ゴゴゴゴッと、どこぞの有名漫画の背景効果音表現みたいな沈黙が落ちる。


 立ち込める濃密な神気に大地が震える。

 何を思ったのか、森の精霊たるトレントたちが両膝 (?)をついて僕を崇め始めた。もしかしなくてもやり過ぎたかもしれない。まあ、いいけど。


「「あっ、あああああぁぁ……」」


 しょわわわわ、といつか聞いたような懐かしい音がする。

 彼女らは、失禁していた。


「それで、どうなのかしら?」


「「レ、レオナお姉ちゃん、です……っ」」


「よろしい」


「「おしっこ……出ちゃった……一杯……全部……」」


「素直にお漏らしたと言いなさい。後でオムツ、履かせてあげましょうね」


「「うう……屈辱ぅ……」」


「でも、心のどこかでは気持ちいいって思っている」


「「そ、そんなことないもん……」」


「オムツつけるときは、飛びっ切り赤ちゃん扱いで甘やかしてあげますねー?」


「「に、にゃあん……」」


 盛大に尿を漏らして悄然とする幼女姉妹、ライデンコンビ。


 ああ、これがレイプ目というのか。瞳から光沢が消えて虚ろになった感じ。

 うーん、良い感じ。やはり叱られた子どもはこうでないとね!


 無邪気という邪悪の矯正のため、あえて僕は鬼となる。


「……それで、咄嗟に助けに入ったルキナ王女殿下を殺しかけたわね?」

「あの、黒の聖女様。できれば外ではルキウスと……」


「失礼を。では、ルキウス王子殿下を殺しかけた。……あなたたち、王子殿下に、何か言わないといけませんね?」


「「ううう……ご、ごべんなざいぃ……」」


「いかがですか、王子殿下?」


「あ、はい。その、神様。ライデン神様。今度からはこういった神々のきつい悪戯行為はやめていただければと……」


「「あい……」」


 鉄は熱いうちに打てという。

 ここから畳みかけるように、説教、説教、優しく説教。SEKKYO!


 神でさえ、心を折ってしまえば、こっちのもの。

 なんと親切にして心折しんせつなのか。うふふ、うふふふ。


 その後は湯を絞った濡れタオルで股間を丁寧に清めてやり、アカツキにも手伝ってもらいつつ、僕のお古のドレスを着せてやる。


 満州族の正装。通称、チャイナドレス。

 竜驤虎視の意匠が映える幼女向け赤と青の二着。


 未だ二人とも、レイプ目なのは御愛嬌としておこう。

 もちろんオムツも忘れずつけている。尻周辺の不自然なモコモコ具合が可愛い。

 撫でると、羞恥に顔を真っ赤にするのだった。でも目は死んでいる。


 せっかくなので記念写真も撮っておく。アカツキも一緒にね。

 良い笑顔で (僕とアカツキ)、良い写真 (レイプ目のオムツ幼女邪神)が撮れた。

 あっはっはっ、これはこれで、酷いくらいの鬼である。


 その後――。


 もうこれ以上幼女はいらねえよ! ヒビキだけで手ぇ一杯やねん! あいつ失禁癖があるからめっさ大変やねん! 構ってやらんと子どもみたいに拗ねるし! と超絶に嫌がるイヌセンパイにこの子たちもあなたでしょと強引に引き取らせた。


 万事、解決である。


 と、思っていたら――。


「レ、レオナ様。役に立たない無意味なわたくしめに、どうか最期の介錯を」


 と、これまで姿の欠片もなかったカスミがスッと現れた。

 手には先日コウタロウさんと試合した際に使った漆黒の日本刀が。膝をつき、頭を垂れて両手で差し出される。


「……えっ。なぜ、どうして?」

「わたくし、護衛としてその任を果たせず恥じるばかりです。わが命より大切なレオナさまを危機に瀕するを防げなかった。ついては、腹を切ってお詫びを」


「やめて。切らなくていいから。どこの侍よ。第一、相手は神様ですよ」

「しかし日本では忠を果たせない場合は腹を切ってしかるべしと」


「鍋島藩の男色手引書でも読んだの? なんだっけ、ほら、葉隠とかいう。武士道とは死ぬことと見つけたりとか。でもあれ、ホモぃ行為の作法書だから。男同士の恋愛指南書だから。ちょ、座って上を脱がないで。抜き身の匕首を出さないで。やめなさい。もう、実力行使しますよっ。むううっ、ダメっ、物凄い力!」


「もはや、死んでお詫びをするしか……っ」


「だから詫びなくていいから! 生きてていいから! 皆さん、彼女を止めて!」


 皆で大騒ぎでカスミの決死の心を、必死で引き留めた。

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