第17話 口癖が『にゃあ』な可愛いゴーレムちゃん。その2
必要とする材料が減れば楽になる。
ええ、そう思っていた時期が僕にもありました。
材料は減っても、その分の数を揃えないといけないので、想像以上に手間のかかる作業になった。いやあ、当たり前なのに、意外と見落とすものですね。
しかもこれらすべてに量子コンピューター制御の人工知能を搭載するので、かなりの大きさを必要とする。
まさか分隊長レベルでも数百トンもオパールが必要になるとは。
最終的には超圧縮をかけて、見た目通りの十グラム程度のクルミ大にする。もちろん重力制御をかけて、すべてを丁寧にあつらえるのである。役割により色合いと輝きが明らかに変わるのでどれがどれかなどまず間違えない。
こうして、僕を君臨者と仰ぐ、指揮者のアカツキから上位下達するゴーレム師団の根底の根底、
目指すは、君臨すれども統治せず、である。
いずれアカツキに与えた処理能力なら京や垓タスクに分けても余裕だろう。
上位者は、仕事を下位に割り振りという名の丸投げするものなのだ。
と、開き直ったところで、一度オパールコアをインベントリに納める。何やら思念が頭にがんがん響き、お姉さまお姉さまとにゃーにゃーうるさいのだった。
「ああもう、作ってあげるから。身体が欲しいのでしょう?」
『――はいにゃあ!』
変な語尾だけど可愛い返事だな、と思う。声色も女の子っぽいし。
でも大丈夫なのだろうか。僕が作ろうとしているのはゴーレムである。いわんやロボットアニメに出てくるような、巨大な鋼鉄の戦士である。
具体的にはレイバーとか、モビルスーツとか、オーラバトラーとか、スコープドッグとか。あんな感じのモノを欲しているわけで。
それでいかにもな巨大ロボの姿でその喋り口だとシュールだよなぁ、と思う。
さて、どうしたものか。いくつかの案を考えに浮かべる。
ロボットというかゴーレム部分を後付けにして、コアを囲む素体ボディを作るというのはどうだろう。要は、素体ボディがゴーレムパイロットになるような。もしくは変身からの蒸着のような。もちろんそれはコンマ秒で行なわれるとする。
うんうん唸っているうちに、歴代の聖女たちの話が頭をかすめた。
なるほど、ゴーレム体を後付けにするのなら、まずは素体ボディのキャラメイクをしてやらねばならなかった。どうせなら可愛い子がいい。海外産テレビゲームでよく見るメスゴリラみたいな吐き気のするブサイクには絶対にしない。
美醜は時代や地域によって評価が変わるが、普遍的な美は永遠である。
普遍的な美とは、自然世界に寵愛されたものを指す。
一人は幼女の聖女。もう一人は異世界の男の娘で、聞けば亜人種のエルフだという。前代の聖女は僕と同郷世界のタイ王国よりやってきたニューハーフだった。
人のことなどさらさら言えたものではないが、わりととんでもない組み合わせというか、なんというか。このお歴々に僕という半女性化の男の娘が加わる。
目を閉じて思索にふける。うーむ。真剣と書いてマジと読むくらい悩ましい。
「――さま、レオナさまっ」
珍しく、というよりも初めて聞くようなカスミの焦った声だった。
目を開ける。
うわっ、と思わず声を上げてしまう。誰、この子?
年嵩は十歳未満。ピンク髪のおかっぱ頭。エルフの尖り耳。全裸。華奢。
「にゃあっ! レオナお姉さまっ!」
女顔。イカ腹。つるぺた&ぷにぷに。股間にプチおちんちんがついている。
「にゃあを蘇らせてくれて、ありがとうにゃあ!」
叫んでこちらに抱きつこうとする。が、足をもつれさせて転んだ。
「あっ。だ、大丈夫?」
「うんっ、レオナお姉さまっ!」
僕はなんだかわからないまま膝をついて、彼を起こしてやる。
すると、今度こそという感じで、ぴょんと抱きついてきた。
ちっちゃな両腕を回し、顔をグリグリとこちらの首元に押し付けてくる。
うわ、どうしよう。このショタっ子、めちゃくちゃ可愛いのだけど!
「そ、それで。誰なの、この子?」
女顔のショタっ子に抱きつかれたまま僕はカスミに問いかける。すると陽炎が揺らめくように、僕のすぐ傍の空間から彼女は姿を現すのだった。
「はい。レオナさまが最初にお造りになられた宝石が、こう……どう申しましょうか、ありのままをお伝えするに、突如、受肉をいたしました」
「えっ、このピンク髪エルフの男の子って、まさか僕の
「にゃあっ。レオナお姉さま、大好きぃ!」
「はい。いと美しきお姿であらせられます。ショタっ子、ハァハァ」
うわあ、となる。
でも、可愛いのは間違いない。子どもって、ぷにぷにしていて最高だなあ。
頭を撫でてみる。触った感じ、完全に普通の髪質感だった。ピンクなのがとある単語を想起させて若干いただけないが、それでもさらさらと気持ちがいい。
特徴的なのは耳だ。細く長く尖った耳をしている。ファンタジー系の物語に出てくるエルフ族の耳にそっくり。この耳、僕は憧れるんだよね。
続けて身体を撫でてみる。無難に背中を。触感は完璧に人の身体だった。それはいかにもゴーレム然とする、ゴツゴツした身体ではないということ。
最後に、男の子だから構わないだろうと思い、彼の胸に手をやる。トクントクンと、心臓の鼓動のようなものを感じる――生きて、いる!
「人族の心臓の場所に、にゃあの大切な
言ってアカツキは、僕の手を大事そうに両手で
「と、ところで。その姿ですが……アカツキはエルフが好みなのですか?」
「にゃあはレオナお姉さまの希望に沿わせたの。幼女で、男の娘で、お耳がエルフで、身体は人間で。全部合わせたらこうなっちゃった」
「なんと禁断の全部盛りとは。うん、とても良いと思いますよ」
「これで、レオナお姉さまは、にゃあを愛してくれる?」
愛か。このゴーレムは愛を語るのか。
それだともはや、この子はゴーレムではなく、一人の人間みたいではないか。
利己と利他の狭間に人の愛が存在し得るというなら。
いや、結論を急ぐのは良くない。
僕は黙ってアカツキの頭を撫でてやった。さらさらとして気持ちいい。
彼女――否、彼も気持ちよさそうに目を閉じている。
「……アカツキは僕に愛されるためにいる」
「にゃあ。うん、そうなのっ」
「僕の愛を得ると、あなたは三つの立場を同時に得ることになります」
「にゃあ?」
「一つ、
「にゃあっ。あくせぷとするのっ」
「
「契約のためにお姉さまとちゅーするのっ」
「では、キスを。……まるで、結婚式の誓いみたいですね」
「にゃふふっ。健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、なのっ」
健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときもこれを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか? だったか。
出会っていきなりクライマックス。そんな思いが脳裏を駆け抜けていく。
僕とアカツキは、見つめ合って、互いに唇を交わした。
目の色を紫に染めつつも、拍手で祝福するカスミ。
土の無限権能を使って作り上げた、アカツキ。
蘇ったとかどうとか言ってはいるが、とりあえずは横に置く。
性別? 男の子? ちっちゃな子に性別なんて関係ありませんよ?
別にいいじゃないのさ。可愛いは正義である。
僕とアカツキの『愛と主従と親子と戦士の』契約は無事完了する。
となれば、一先ずは服を着せてやらねば。
見た目が十歳児くらいとはいえ、裸は宜しくない。
ただ、さすがに想定外過ぎて何を着せるべきか戸惑ってしまう。
有名ラノベの、ロードスなファンタジー小説のエルフっ娘みたいに緑を主軸にした上下に皮鎧、武器はもちろんレイピアなどはどうだろうか。
……各方面から鬼のような苦情が寄せられそうなのでやめておこう。
「そうね、僕のお古を着せるのが無難かな」
「レ、レオナさま。卑しきわたくしめの提案をぜひ」
「聞きましょう」
「いつか十歳くらいの可愛い男の子を攫って、土下座してお願いしてでも着せたいと思っていた、こ、この女児用メイド服を……ッ」
ばさりとカスミは衣装一式を取り出して僕の前にかしずいた。
「あの、いつか十歳くらいのって。子どもを攫ったら逮捕事案ですからね?」
「今もイクほどわたくしめの心を捉えて止みませんが、そうであるからこそ、十二歳のころのレオナさまと出会いたかったです。うっ、興奮して鼻血が」
「大丈夫? ティッシュ鼻に詰める? 落ち着いてくださいね?」
欲望の闇が深すぎる。ダメですからね、誘拐とか略取とか。
しかしわが子にして同時に使役対象なので、メイド服を着せるのも悪くない。
おお、かく言う僕も、大概闇深い。これは人のことを言えない。
「では、カスミの提案を取り入れて、アカツキに着せてやってください」
「は、はいっ。ありがとうございますっ。……そ、それではアカツキちゃん。お姉さんと一緒にハアハアしましょうね……ッ」
言っている内容がどう考えてもアウトではあれど、まあ良しとする。
アカツキは不安気にこちらを見るも、僕が大丈夫と頷くと満面の笑みでカスミにされるがままになった。
まずは白のガーターストッキングを履かせ、次いで女児用ショーツを。胸部下着にキャミソールを忘れずに。ちなみにどれもが最高品質の絹製だった。
紺色のメイドワンピースを着せて、フリルが過剰気味な白のエプロンを着用させる。小振りのヘッドドレスもちゃんとつける。
最後に黒のエナメルシューズを履かせて、ラブリーショタメイドの出来上がり。
「思った以上に似合っていて、とっても愛らしいですね」
「にゃあんっ。褒められると嬉しいっ」
「ハアハア、ウッ、しばし
「……行ってらっしゃい」
この宮殿内でクセモノに襲われる可能性はかなり低いだろう。むしろ僕たちの方が明らかにクセモノだ。あはは、笑うしかない。
「あ、あの、黒の聖女様……」
グナエウス王が控え目に話しかけてくる。うん、確か後で用事があると僕は言っていた。というよりも一部始終を見ていたよね。あえて書かなかったけれども。
「聖女レオナさま、その子、誰? すっごく可愛い衣装を着てるのっ」
おっと、クローディア王女もついてきていたのか。
僕は二人に微笑みつつこちらへと誘う。二人はテラスから降りてくる。
「この子はアカツキ。僕の愛しい子にして城壁強化計画の中核となるゴーレム、いや、アンドロイドかな? いずれにせよこの子がその後に僕の作るゴーレム師団の総指揮者となります。大丈夫。見た目は幼い女の子エルフっぽいですが、中身は比類なき者。例えるならば
なんとなく口に着いたセリフに自分でも気になる部分があるが、それは置いておく。大切なのはそこではない。アカツキがどういう役割を持っているか、そして、僕の寵愛を受けているということ。これを知らせるのが第一となる。
「可愛いーっ。……ねえねえ、キミも、オトコノコなのかな?」
クローディア王女はアカツキに遠慮なく抱きついた。
そして小声で、ある意味で核心となる爆弾部分を彼に尋ねてくる。
「にゃあはどちらにでもなれるの。両方ついてるから」
「えっ、アカツキは
思わず僕は口を挟んだ。
「にゃあ。幼女で、男の娘なの。それで、エルフで、人間なの。うふふ」
「ああ、あれはそういう意味だったの」
『にゃあはレオナお姉さまの希望に沿わせたの。幼女で、男の娘で、お耳がエルフで、身体は人間で。全部合わせたらこうなっちゃった』
少し前にアカツキが話した、この部分である。
アンドロギュヌス、またはアンドロギュノスといえば、まず出てくるのがギリシア神話だろう。ニンフのサルマキスに好かれて、何を思ったのか強制的に両性具有にされたヘルマプロディトスの話などが有名だ。
また、哲学者プラトンはこの両性具有を題材に男女の愛の形を説いた。
「だからにゃあはレオナお姉さまからどんな形でも愛し、愛されるの。うふふ」
「わあっ。なんだかわからないけど、愛し愛されるのは素敵だよねぇ」
と、ここでくるりとクローディア王女はこちらを見、そしてアカツキを抱きしめつつもするすると身を寄せてきた。
そしてじっと僕の股間部に目をやり、ひそひそと尋ねてくる。
「聖女レオナさま。おちんちん取り外したの? どうやって取ったの?」
思わず苦笑する。ぽふぽふと緩やかなウェーブを持たせた赤毛頭を撫でてやる。
確かに今日のドレスは股間部を隠すスカートがなく、それでいてすっきりとYゾーンを保っている。一物を取ったのかという疑問は確かに思うところだろう。
クローディア王女は数えで十歳。実年齢で九歳。無邪気で可愛いものだった。
「タック、という隠蔽術を使っているのですよ」
「……それを、したら、オ、オンナノコになれちゃったりする?」
あれ、と思う。予想外の反応。
そして気づく。なるほど、これは好奇心だけではない。
「裸体でも立っているだけなら、外からの見た目は女性のようにはなりますよ」
「ねえ、詳しく教えて。聖女レオナさま」
僕は『王女』の前にしゃがみ、顔を寄せて耳に密やかに囁いてみる。
「これは武術の心得がないと危ないのでお勧めできないのです。そもそも王女殿下は女の子じゃありませんか。ふふふ。ならば知らなくても問題ありませんよ」
「そ、そっかぁ。ボク、女の子だもんね。そうだよね」
「ええ、そうですよ王女殿下」
もう一度緩やかなウェーブの赤毛頭を撫でて、そうして立ち上がる。
「さて、本題にかかりましょう。……王陛下、計画のため、なるべく高い場所へと案内をお願いいたします」
「あ、うむ。そうでしたな。では参りましょうか」
移動する。
手洗いを済ませてきたカスミが、背後で満足気に息を吐いていた。
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