人造人間タイガー外伝 〜バイオテックトナカイは吹き荒れる〜
澄岡京樹
バイオテックトナカイは吹き荒れる
人造人間タイガー外伝 〜バイオテックトナカイは吹き荒れる〜
タイガーが〈漆黒動物園〉を破ってから1年後。新たな敵〈ギガダーク〉が出現。彼らの持つ超技術【暗黒属性付与】によって様々なダーク存在が現れてはタイガーと戦い、そして本来の姿へと戻されていった。
タイガーはかつて【
その力は凄まじく、先日神戸大橋に出現したダークランスロットの斬撃を全て回避し、そのまま新形態〈キジトラフォーム〉へと変化、キャットウォーク・タビー・キックによって勝利した。
そんな圧倒的な力を持つタイガーを、〈漆黒動物園〉残党のバイオテックトナカイはビルの屋上から視覚強化によって眺めていた。
あの男は強い。組織を裏切ってからずっと成長し続けている。——どこか焦燥にも似た感情を抱きながら、バイオテックトナカイは今夜も屋上に立っていた。……もっとも、此度彼の瞳に写っているのはタイガーではなかったのだが。
「〈ギガダーク〉に与しなかったが為、お前たちは地に落ちた。タイガーなどという裏切り者さえ出す始末。こちらの戦士も少なくない人数が奴に倒されてしまった」
バイオテックトナカイに話しかける男は、紅き衣装を身にまとい、白い髭を蓄えた老人——だった人物だ。今の彼は刺々しい血濡れの甲鉄に身を包んだ
「……それを俺に言ってどうする。所詮は残党だぞ。どうしろと……?」
バイオテックトナカイの問いに対してサンタカオスは口元を歪めつつ淡々と答えた。
「——手を組もう。そう言っている」
「——何?」
バイオテックトナカイにとってその提案は想定外のことであった。漆黒動物園とギガダークは、互いに世界征服を目論んでいた敵対勢力同士。彼の知りうる限りの情報では、和睦など有り得ざる事態であった。彼の角は超高感度センサーであり、その様な情報があれば即座に察知できたのである。
「バイオテックトナカイ。お前の凄まじきセンサーですら感知できなかったのも無理はない。これは私の独断だからだ」
「……ますますわからないな。ギガダークの幹部であるアンタがそこまでして俺を勧誘する理由が見えない」
「まだそのように卑下するか」
白と黒の混沌とした髭をを触りながらサンタカオスはそう言った。
バイオテックトナカイは、サンタカオスから友好的な意思を感じ取った。
しばし理由を分析するバイオテックトナカイを催促するかのように、サンタカオスはさらに続ける。
「漆黒動物園だけでなく我らの戦闘員すら次々と倒し続けるタイガーから、お前は逃げおおせたのだ。その危機察知能力と判断力を私は評価している。ゆえに、私の元に来ないか? そう訊いているのだ」
「——————」
サンタカオスから手を差し伸べられたバイオテックトナカイは、かつて自身がトナカイであった頃の記憶を取り戻しつつあった。
完全には思い出せない。彼がトナカイからバイオテックトナカイに変えられる際、漆黒動物園によって彼は【判断】の
——だが今、どこか懐かしいその
……もしかしたら、俺はまだ戦えるのかもしれない。バイオテックトナカイは、白薄としていた自我を再び隆起させつつあった。
「……アンタとなら、俺は夜闇を駆ける流星になれるのかもしれない」
「詩的な奴だ。ますます気に入ったぞ」
サンタカオスの腕をがしりと掴み、バイオテックトナカイは
これより二人の騎兵によるタイガーとの最大規模の決戦が始まろうとしていた。
それを、空に浮かぶ月だけが眺めていた——
人造人間タイガー外伝 〜バイオテックトナカイは吹き荒れる〜、了。
〈解説〉
人造人間タイガー、その第一部と第二部の双方でトリッキーな立ち回りを演じたのがバイオテックトナカイである。トナカイが漆黒動物園によって怪人に変えられた存在であり、かつての記憶を完全に取り戻したエピソード『激情の環状線』編はファンの間でもしばしば屈指の名エピソードとして話題に上がりがちだ。
そんな彼がかつて共に空を駆けたサンタクロースと奇妙な形で邂逅を果たす情景が描かれたのが本エピソードである。タイガーとの戦いの末、遠き日の使命を思い出したサンタとトナカイが白銀の空に消える光景は、リアルタイムで読んだ時の感情を今でも克明に思い出せる。それは今夜のようなクリスマスのことであった。
2050年12月某日、都内某所にて。——東雲春也
〈解説の解説〉
人造人間タイガーの本編とかまだ書いてないです。無から生まれたに等しい外伝です。本編どこにあんだよ。
人造人間タイガー外伝 〜バイオテックトナカイは吹き荒れる〜 澄岡京樹 @TapiokanotC
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