033
ガーディアンに着いた奏真たちがする話の内容は主に本部と支部での違い。
そもそもガーディアンという組織は基本的に上層部からの命令で動き、それ以外は特に仕事はない。その命令というのが都市の防衛だったり、街や村に派遣されたそこの防衛だったりと基本やることは同じ。
奏真がガーディアンへ入隊するのを断る理由のひとつは自由きままに旅をしたいというのがあり、ガーディアンに入るとそれがきかなくなるからである。
そこで話に出たのが支部。支部は本部から離れた位置にありそこ周辺を防衛する云わばガーディアンの縮小版。ただしアサギの支部だけは特別でほとんどの命令が回ってこない。またその周辺に街や村はなく防衛などもない。それでも支部として成り立っているのは特殊な命令のみがくるからである。それもだいたい辺境の地だったりと通常の隊員ではカバーしきれない範囲を担当する。
まさしく奏真が請負人としてやっていたように。つまり奏真に適任な支部である。
そして新たに奏真とエルフ二人が加わることを条件にガーディアンが請負人のスポンサーのような形で保証するという。簡単に言うならばガーディアンに贔屓することを前提に今まで通り請負人の活動が出来るというもの。
この話は奏真にも利があると条件付きで承諾する。その条件とはエルフ二人の権利及び安全を保障する。
この条件にガーディアンとしても貴重な戦力であるエルフを敵になる真似はしないとその場で条件を本田自らが承認。その後も詳しい入隊など話は続いた。
そして再度、今度こそ都市[アレクトル]から出る。
依頼がない以上、行先は特に決まっていないので奏真が何となくで決めた北へ向かうことになった。ここから一番近いところは十五キロほど進んだところにある小さな村。まずはそこを目指す。
「二人は本当についてくるんだな?」
後ろを振り返る奏真。そこにはエルフ姉妹の雪音と緋音の姿。アサギは兎も角、雪音は姉が見つかった今、これ以上ついてくる理由はない。その雪音の横に立っている緋音に関しては、もはやなぜいるのかすらよく分からない。
「雪音がついていくと言うので。私も最初学院にいたのも最終的には妹を探すためですし、個人的に気になることもあるので……」
奏真の考えていることを察してか答える。
「気になること?」
「学院での曲がる魔法について、です」
それは対ガーディアンの刺客、学院の図書にて敵である青年と戦った時の魔法。通常の【
「あー……」
その光景を思い出しているのか奏真は空を見上げる。
「あの、私も気になります」
「俺も興味あるな。使えるならマネしたい」
緋音につられて雪音、そしてアサギまでもがその魔法に興味を持つ。もともと雪音もアサギも魔法には興味を持っていたのでどうせ聞かれるのだろうと思っていた。
「それなら移動しながら説明しよう。それとまだ調整中だから詳しくはまた今度な」
森の中、移動しながら奏真による魔法の解説が始まった。
「【
「はい、確か人や魔法の魔力を探る時に使う、とアサギさんから教わりました」
頷く雪音の隣ではドヤ顔のアサギが胸を張っている。勿論奏真はそんなアサギに構うはずもなく話を続ける。
「ほう、なら話は早い。その【
「「「?」」」
そう言われても奏真以外には難しい話でピンと来ていない。
そもそも【汎用型魔法】の【
「とは言っても実物があるわけじゃないから魔法陣にしてそれを行うんだが……まだ試作品で欠点だらけなんだ」
「待ってください。そもそも【
待ったをかけるのは緋音。さすが学院の優等生ということもあり、いろいろと鋭い発言をする。雪音は兎も角、アサギは特にその辺の細かいことは気にせずそういうものなんだと勝手に解釈していた。
「まあ待て。その前にもう一つ前提知識が必要だ。魔法の技術にタイミングを遅らせて放つ技や数多く魔法を展開しても一度には放たず時間差をつけるだろ?」
その時緋音に思い浮かぶのは、奏真が敵の青年と戦っていた時にやった時間差での攻撃。
既に展開されている魔法を任意のタイミングで放つ技術。使われる魔法にもよるが基本は奇襲などに使われるため使用魔力の少ない【
「それの【
すっ、と当然のように現れた【固有型魔法】であろう魔法が流され緋音の顔は理解が追い付かないと少し奏真を引いた目で見ていた。
「…………」
「【
もはやこの話をしっかりと記憶するものはいない。緋音は次元の違いに理解を諦め雪音は話が全く分からず、アサギに至っては初めから聞いちゃいない。
「………あの、詳しいことは分からないのでは?」
最後まで話を聞いている雪音は初めに奏真が言っていたことを思い出す。
「ああ、そうだよ。なんせ属性が付けられない、魔法陣による展開しか出来ない、射程が心もとないと言った実戦で使える段階じゃないしその原因も分からないんだ。今のところただの張りぼてだよ」
「な、なるほど」
何がなるほどなのか。全く理解していない雪音。しかし奏真の言葉に噛みつくものがいた。
「ちょっと待ってください。今実戦で使えないって言いましたか?」
「ああそうだよ?」
「嘘つかないでください。学院での際には使っていたじゃないですか!?」
「実験にな」
「実験て………」
もう言い返す言葉も、気力もない。緋音はそんな奏真と話しているのがバカらしくなってきたのかそれ以上は諦めた。
ようやく奏真の解説が終了し、アサギが話の根幹を言う。
「それでその魔法はどうやって使うんだ?」
そんな時だった。いきなりそれはやってくる。
一番初めに気が付いたのは雪音だった。異変に気が付いた雪音はただ一人足を止める。
「………え」
何を見たのか、青い顔をして絶句。そのまま立ち止まった雪音に三人が気が付いたその時には呼吸を乱して座り込んでいた。その様子を見て緋音は雪音に駆け寄る。
「雪音?………雪音!」
緋音が近くで何度も名前を呼ぶが聞こえていないのかまるで反応がない。それどころか雪音の体調はみるみる内に悪化していく。
奏真は異様な事態に思考を巡らせる。敵による攻撃か?しかし辺りにその気配はない。その他頭の中に多数のパターンが思い浮かぶがどうやらそうではないようだ。突然思考をかき消すような異臭が奏真の鼻に入る。
「っ……なんだこの臭い?」
嗅いでいて気持ちのいい臭いではない。刺激臭に近いその臭いに奏真は鼻を手で覆う。その臭いは奏真だけではなくアサギ、緋音にも届いた。二人も奏真と同じように鼻を覆った。
「うっ……!?」
「キツイ臭いだな」
この臭いに奏真は毒性のガスを想像するがそうでもない。何となく、この臭いに想像がついた。それはアサギも同じようで表情を曇らせていた。
「一度ここから離れよう。アサギ、風向きは分かるか?」
「ついてきてくれ」
奏真は動けなくなった雪音を担ぎアサギの案内に従って一度この辺りから離れる。
しばらく森を歩いて臭いがしないところまでやってくる。そこでようやく雪音が落ち着きを取り戻し、呼吸を整え始める。そこで何があったのか慎重に話を聞いてみると雪音は驚くべきことを話し始めた。
「……村が…壊滅した村が見えました。それと……それと……人の……」
次第にまた顔色が悪化し始めたのでそこまでで聞くのを止める。
介抱は緋音に任せ奏真とアサギはその不可解なことに答えを導き出すために互いに考えを述べる。その上で、雪音が言いかけて止めた言葉の先。これについては容易に想像がついた。それはその時に感じた異臭にも関係している。
「異臭、そして雪音が見たという村の壊滅。少なからず何かがこの先にあることは間違いないが、それよりもなんで雪音はそんなことを知っている?アサギは何か見えたか?」
「いや、何も。村があったとしてもまだ離れてると思うが……」
異臭を感じたあの瞬間、周囲は森のみで村など確認は出来なかった。それは雪音を除いて例外ではなく誰も村を視認していない。
雪音のおかげですぐに異臭の原因は分かったが疑問も増えた。なぜ雪音はその光景を知ったのか。しかし疑いようがないくらい異臭の原因としては適している。それに雪音が嘘をつく意味がない。
「当然ながらいい予感はしないな」
ひとまず雪音が見た理由は置いておき、異臭についての解決、究明に乗り出す。
「魔法を教わるのは今度にした方がいいな。で、どうする?様子見てくるか?」
雪音以外にまだ状況を確認できていない。本来ならば余計なことに首を突っ込みたくない奏真だが今回からはガーディアンの名前も背負っている。何か事件だとしたら本部に報告しないわけにはいかない。
アサギが率先して行くというので奏真はその言葉に甘える。
「ああ。そうしてもらえると助かる。言うまでもないと思うが警戒して極力隠密行動で頼むぞ」
「了解、十分くらいで戻ってくる」
そうしてアサギ一人で先にある村の様子を見に行くこととなった。
そこには想像以上の悲惨な光景が広がっているのだった。
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