025

 常に増え続ける機械型モンスターは三ヶ所の魔法陣から現れていた。

 昇降口、図書、学院の庭(敷地内)。そして訓練場には四ヶ所目があるがそこは奏真が無力化してきるため現れるのは事前に防いでいた。

 ただ一ヶ所から現れる機械型モンスターの数が膨大であり、学院内(主に昇降口付近)では溢れかえっていた。昇降口は天井が崩れ出口をひとつ塞がれている。また同じように図書も天井が崩れている。


 ガーディアンは事態が起こってからすぐに駆けつけたが既に庭に散らばって妨害されていた。


 その事を知らない学院内の生徒と先生たちは狼狽えていた。また奏真自身も知らず、疑問に思っていた。


(ガーディアンの隊員は何をしてる?)


 切りがないと一度引きぎみに戦うがあまり意味は感じない。押し寄せてくるモンスターたちによりすぐに間合いを詰められた。


 そして第一波、機械型モンスターの襲来から凡そ十分が経過。奏真の予想通り本命と言うべきものたちがやって来た。

 それは同じく三ヶ所からやって来る。

 

「………!?」


 明らかな違和感。異質な魔力をいち早く感知した奏真。やはり分散してやって来る事に疑問を持つ。


(やっぱり集中して現れない。何が目的なのか全く分からないな)


 奏真の考えの中では始めにガーディアンから情報を得たときに占拠し、学院もしくはガーディアンを落とすものだと思っていた。

 しかし、敵の動きや配置的にその思考は消え今は他に目的があると考えていた。


(確認されてるのは三ヶ所、そこに何かがあるのか?)


 一応見て回った事がある場所なので一度よく考えてみるが特に何もない。が、図書はそうとも行かない。


「……待て待て待て、図書には霧谷がいるじゃねぇかよ」


 機械型モンスターの目的に緋音の存在があるのかは分からないが今緋音がいるのは図書である。そうなると機械型モンスターが一番多く流れ込んで来る。


『奏真、本命かこれ?』


 どうやらアサギの方からでも確認出来たようだ。


「断言は出来ないがおそらく。今から出現元スポーンに向かう。狙撃タイミングは任せたぞ」


『了解、一回通信切るぞ』


 アサギの方から通信が切れる。

 それを合図に奏真は移動を開始する。と、言っても迫り来る機械型モンスターたちを蹴散らして行く。行き先は勿論図書。


「くっそ、邪魔くさいな」


 蹴散らしても蹴散らしても次々に涌き出てくるモンスターたち。

 時間をかけてられないと奏真はルートを変更する。

 窓から外へ。しかし当然のように徘徊する機械型モンスター。奏真を認識すると当然のように襲い掛かる。


 奏真は倒す事を止め、出来るだけ回避し図書へ向かう事を優先で進んでいく。そうすると先程よりかなり速く進んでいるがそれでもまだ遅い。


「ああ、めんどくせぇな。この際もうどうでもいいか」


 出来るだけ魔法を使わないのは潜入してる際に最弱としているためその設定を忠実に守っていた為。

 ただ潜入が失敗にしろこうなってしまえばもとも子もないので構わず全力で魔法を使用する。

 早速使用する魔法はただの補助魔法。

 身体能力を大幅強化しモンスターの上を駆け抜ける。


牛蒡ごぼう抜きだ)


 言葉通りの速さでモンスターを通り抜けて行く。が、そううまくはいかなかった。


 奏真が駆け抜けていると突然、目の前に刃が振り下ろされる。


「うおっ!?」


 間一髪体を反って回避する。

 目の前を風を切る刃。

 今までの機械型モンスターは奏真の動きに補助魔法が合わさり、スピードについて来れずに振り切るのは容易だった。

 そんな奏真にドンピシャでタイミングを合わせて刃を振り下ろしたのだ。


 足を止め、その正体を見る。

 目の前にはこれまでの機械型モンスターとは違ったものがそこにいた。




 時間はやや遡る。


 機械型モンスターが現れてから十分。

 図書では緋音が大量の機械型モンスターに苦戦していた。

 留まる事のない放出に緋音に疲れが見え始めている。


「………はぁ…………はぁ、一体どれくらい湧いてくるんですか?」


 一個体が強くなくても圧倒的な数の暴力により相当な体力を消費させられていた。


 一言で表すと絶望的な状況。しかし、更に絶望的な状況が訪れる。


 魔法陣から更なる追加。それも機械型モンスターではなく、。勿論学院の生徒や先生ではない。


「………ほう?学院にこれ程の者が要るとはな。とはいえだいぶ減らされてしまった」


 現れたのはひとりの青年。高身長で細身、この国では見慣れない服装をしていた。ひとりで戦い機械型モンスターを圧倒している緋音の姿に率直な感想を口にする。


 青年の手には三股の槍が握られ、また周りに囲むように魔法が展開された。


 漂う魔法は【汎用型魔法】の【弾丸バレット】系統の魔法。【ボール】よりも小さい劣化版の魔法として扱われているがその青年が展開した魔法は数が膨大。

 属性は氷で水の派生属性。ぐるぐると青年の周りを回り始める。


「少し相手をしてやろう」


 槍の切っ先を緋音に向けるとそれと同時に周りを回っていた【氷の弾丸アイス・バレット】が操られているかのように列になり襲い掛かる。

 また例外なく機械型モンスターも同時に襲う。


 魔力は兎も角、体力的に限界が近い緋音は避ける事を諦め魔法による防御と同時に攻撃の魔法を展開する事で迎え撃つ。

 【障壁シールド】を維持し続け、迫りくる【氷の弾丸アイス・バレット】を防ぎ、四方八方から来るモンスターを【炎の球ファイア・ボール】で相殺、撃ち落とす。


 ジリ貧だった。


 緋音がどれだけ撃ち落としてもモンスターの数は減るどころか増える一方。

 緋音の【障壁シールド】は徐々にひびが入り、その亀裂はモンスターや魔法がぶつかるごとに大きさを増していく。

 それに加え青年には攻撃が来ない。圧倒的な数の弾幕にじわりじわりと確実に削られていた。


 そんな絶望的な中、緋音には勝機がまだあった。


(魔力は圧倒的に私の方が勝っている。このまま凌げばいずれ有利に……)


「いずれ有利が傾く、と思っている顔だな」


 その言葉の直後、いきなり緋音の【障壁シールド】が粉砕する。

 パリンッ、とガラスが割れたような音が響いた。


 青年は緋音の考えを読み、数多くの【氷の弾丸アイス・バレット】の中に貫通力の威力の高い魔法、【汎用型魔法】の【氷の槍アイス・ランス】を混ぜ込んでいた。

 

 当然緋音は気づく事が出来ずに同じようにガードしたところ、まんまと割られてしまった。【障壁シールド】を貫通した【氷の槍アイス・ランス】を反射的に避けた為、体制を大きく崩す。

 倒れ込んだ緋音に迫る青年。


「相手をするとは言ったが手を抜いてやるには限度がある」


 槍による刺突。

 緋音は地面を転がり何とか逃れるがすぐに次の攻撃がくる。


「うっ………」


 常に襲い続ける【氷の弾丸アイス・バレット】を防ぐ術がなく避ける事を試みるが間に合わずに被弾。冷たく重い氷の塊が体に激痛を走らせる。

 だが緋音に寝ている暇はない。

 敵は青年だけでなく未だ湧き続けている機械型のモンスター。それらも崩れた緋音を認識するや否や、波のように押し寄せた。


(……出し惜しみしている場合じゃない)


 追い詰められた緋音は全力を出す事を決意する。

 本来ならばこの後、何が起こるかわからない状況を考えて魔力だけは温存しておきたかったのが本音。しかし、数といい青年の強さたいい、そうとは言っていられなくなった。


 そうと決まれば緋音は出し惜しみ無しで魔力を振るう。

 押し寄せた機械型のモンスターを一瞬で蹴散らした。

 波のように覆いかぶさったモンスターたちは四方八方に飛び散りただの残骸へとなり果てる。


「…………ふむ」


「あなたは一体何者です?学院関係の者ではありませんよね?」


 緋音に対する問いは無視。その代わりにひとつ忠告を促す。


「余裕な事は良いことだが、そんな暇はあるのか?」


 再度【氷の弾丸アイス・バレット】が襲い掛かる。

 一度見て技をくらって学習した緋音は無理に受けることはせずに魔法の反射で対応する。

 反射された魔法は同じ【氷の弾丸アイス・バレット】に当たり相殺。

 機械型のモンスターは自らの攻撃魔法により対処。更には反射する魔法に角度を付けて青年の方へ攻撃にまで転じた。

 

「もう一度聞きます。何者ですか?」


「……面白い。これを凌げたら答えてやろう」


 緋音の堂々とした態度に青年は笑いを溢した。そして指を鳴らす。

 パチン、と音が響くと上から二体の変わった見た目をしたこれまでとは違うモンスターが姿を現した。


 通常の機械型モンスター同様に赤く光る目、筒状のボディに足はなく浮遊する体。四本あった腕は二本に。見た目も小さくなっている。


「さあ、どれほど戦えるかな」


まるで試しているような口ぶり。新たに現れた機械型モンスターを緋音に向けて放った。


 青年の命令を忠実に聞くその二体はこれまでの機械型とはまるで異なる速さで緋音の目の前まで近付いた。


「………!?」


 機械離れした動きに圧倒され言葉も出ずにガードを集中させる。

 とっさの反応で凌いだと思ったが、二体の機械型モンスターはなんとそれを認識してから避けた。左右に一体ずつ別れ腕先のブレードで緋音を攻撃する。


 その速さに着いてこられず、緋音の腹部に直撃した。


「がっ………」


 ブレードの刃の部分ではなく、なぜか峰の部分で殴打され勢いよく後方へと吹き飛んでいった。

 凡そ三メートル程、床と垂直に飛び図書の本棚へ叩きつけられる。その衝撃が本棚へ伝わり棚に並んでいた本が次々に落ちてくる。

 下敷きになった緋音は落ちてきた本に埋まり姿を消した。


「やはり新型には敵わなかったか。死んではいないだろうがもう動けまい」


 その言葉の通り緋音を埋める本の山はピクリとも動かない。

 全ての魔法を解き図書を出ようとすると真横に魔法が着弾する。


 青年が振り返るとそこには新型の一体がボディを貫かれて横たわる姿があった。

 赤く光る目が暗くなり、それが何を意味しているのか理解するのに一秒も掛からなかった。


 埋もれる本と本の間からは手の平を向ける緋音の姿。

 ふらふらになりながらも本の山から這い出て立ち上がる。


「何の……つもり、ですか?………殺せたはずなのに」


 緋音は既に満身創痍。頭からは血を流し、立ち上がるのもやっとで足は震えていた。

 そのまま寝ていれば無事であったにも関わらず、みねうちという手加減がプライドに触り意地で立っていた。

 緋音は鋭い目で青年を睨みつける。


「ふむ、会った当初から薄々感じてはいたが驚異的な魔力だ。戦い方はまだまだ拙いが……」


 倒れる事を必死に堪える緋音の元へゆっくりと歩み寄る。


 近付かれるの嫌った緋音は阻止しようと今出来る全力の魔法を連射した。魔力の消費もお構いなしだ。


 しかし緋音の全力であるその全ての魔法をひとつも避ける事なく相殺し防ぎ、掠りもせずに近付いていく。


 目の前まで来ると緋音の方から魔法を放つのを止めてしまった。

 自分の全力がまるで通用せず、絶望を目に浮かべていた。


 殺される。


 頭の中でそう直感する。

 恐怖で体が勝手に動き後退りをするが本棚によりそれも遮られ逃げ道を失くした。

 膝から力が抜けストン、と座り込む。

 上から見下ろす青年に恐怖を抱き目を瞑った。


「…………っ…」


が、しかし二人の間の床から【弾丸バレット】の魔法が複数突き抜ける。


「……!」


 いち早く気が付いた青年は後ろに飛びそれを回避した。

 ボロボロになった床は崩れその空いた穴からは人影が通過し緋音の前に立ち塞がった。


「初めましてテロリストさん。悪いけどこいつには死なれちゃ困るんでね」


 それは学院の制服からいつもの黒のコートに着替えた奏真の姿だった。

 

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