024
魔力が流れるそのパイプ。
目でそのパイプを伝っていくと天井付近にまで続いていた。
(…………天井?)
見上げるが見える範囲には天井から釣り下がる照明のみ。下からでは確認が不可能。
それを確認しようと上へ昇ろうとしても昇る方法がない。
ここで引き下がる訳にはいかないので勿論無理矢理にでも昇るつもりの奏真。ただ上に何があるのか分からない為に慎重に昇る。
昇る方法については単純で魔法で強化した体で全力でジャンプする。
重ね掛けをし、あり得ない程のジャンプ力を一瞬だけ手に入れる。その効果時間凡そコンマ四秒。
強化魔法等に関しては重ね掛けをすればするほど効果時間が短くなり、魔力消費のコストも爆上がりする。奏真の魔力量ではコンマ四秒が限界。
それでも一度ジャンプしてしまえばいいだけなのであまり効果時間は関係ない。
天井付近まで来たら適当に照明にぶら下がる。そこでもう一度パイプを確認する。
やはり天井より上に伸び、天井裏へと続いているのは確実だった。
(一体何処へ続いているんだ?)
天井板を持ち上げ、天井裏へと入る。
そこには目を疑う光景があった。
「なっ………………」
思わず奏真が声を出す程に。
目の前にあるのは巨大な光り輝く魔法陣。
それを一目見ただけでその魔法陣の正体が分かった。
(ばかデカイ【立体空間移動魔法】の魔法陣か?何故こんなところに……………)
何もない筈の天井裏。
人が入るよう設計されていないのか屋根までの高さもさほどなく覗き込むので精一杯だった。しかし埃等は綺麗に掃除され、確実に人の手によって手が加えられていた。
光りを放つ魔法陣は今のところ何の動作もしない。
どうやって操作されているのか奏真にも分からず、その巨大な【立体空間移動魔法】を読み解く為に無理矢理侵入する。
背を低くしてしゃがむようにして魔法陣を見つめる。
(…………容量がでかすぎる。何を運ぼうとしている?)
大きさ過ぎるという他に魔法陣に刻まれている内容が奏真の目に止まる。
使用者が誰であるか分からない以上何が目的なのか知るよしもないが、隠されている以上機械型モンスター出現の原因である可能性が高い。
変に刺激すると発動しかねないので遠くから手をかざす奏真。
(ぶっ壊してもいい所だが、学院の何かとも考えられる。工作して使えなくさせておけばいいか)
魔法陣の上書き。
相手の魔法陣に自らの魔力で支配し上書きする。
ただこれをするには膨大な魔力と時間そして元の使用者より、コントロール力が優れていないといけない。が、容易に奏真は上書きを一瞬で成功させる。
(取り敢えずこれで発動の心配はないが一度アサギと確認した方がいいな)
無力化した事を確認して、アサギと情報の確認をするために天井裏から抜け出し下へと戻る。
「結論からいってどうだったんだ?」
録音の為に何が何だったか音のみで認識していたアサギは奏真に何があったのか詳しい情報を確認する。
現在床に道具を広げ静かに作業していたアサギは通信機を片耳に何かを作成する。
「録音の音を聞いた限りじゃあ何があったのか想像もつかなくてな」
『まあそりゃそうか』
「何か見つけたような雰囲気があったけどどうだったんだ?」
録音中に唯一奏真が出した声。その他は少数の物音のみ。その唯一奏真の音声が入ったのは【立体空間移動魔法】の魔法陣を見つけた時のみ。
その音声を元にアサギは奏真が何か異変を見付けた事に気が付いた。
『巨大な【立体空間移動魔法】の魔法陣があった。それもかなりの
「……………そんな物が学院に?」
『目的は分からない。ただわざわざ隠されるようにあった。何か企んでいるのは間違いないと見ていいだろうな』
「………やっぱり黒か」
ガーディアンが睨んでいた通り。
『取り敢えず使用出来ないように上書きにより書き換えたから発動は出来ないだろう』
「相変わらず仕事が速いな」
『そっちの様子は?』
「こっち?」
『霧谷妹の様子だよ』
「妹なら順調だよ。センスもある。後は実戦での経験じゃないかな」
寝ている雪音の姿を見て微笑むアサギ。
日中の雪音の頑張り用を思い出す。初めて扱ったにも関わらず上達がはやい。
『そうか。なら今度の依頼、戦闘になったら霧谷に頼もうか』
「レベル低いやつでやってやれよな?」
テンパって混乱する未来が見える。
『…………どうかな。それは依頼しだいになるんだが。話を戻そう、他教師を軽く調べてみたが今のところは分からん』
「………そっか。用警戒って感じか。こっちはいつでも援護可能だからいつでも言ってくれ」
『おう、ただ出来れば何か起こる前に収束させたいな』
「…………それ、フラグじゃね?」
『…………………』
翌日。
奏真は前日の通信を終え、朝には緋音の言っていた通り座学による授業が始まった。
昨日緋音により奏真も多少教えられてはいるが理解出来るものが限られている。
開始早々に奏真はダウンしていた。
「……………」
授業を行っている場所は黒板を中心に弧を書くように長い椅子が配置され、奏真はその中でも後ろの方で突っ伏していた。
隣に座る緋音はジー、と睨み付けるように見ていた。今は授業中という事もあって何も言わずにただ見ているだけだった。
その間にも授業は進む。
「魔法には属性の他に種類分けがある。主に三つだ。【汎用型魔法】、【特化型魔法】そして【固有型魔法】」
すらすらと黒板にその三つの性質と詳細を記していく。
【汎用型魔法】
基本的にどの属性であっても使える魔法の形。魔法においてド基礎。主な魔法は【
【特化型魔法】
ある属性でのみ、魔力でのみしか使えない形の魔法。主な魔法は【【
【固有型魔法】
今まで正式に発見されていない魔法や自らが造り出したオリジナルの魔法。ある程度魔法に関する知識がなければならない。
「取り敢えずこんなものだ。【固有型魔法】は自分にあったものが造れるがあまりおすすめはしない。まずは【汎用型魔法】をマスターすることをおすすめする。それから……」
そこからはマシンガントーク。
戸切のない先生の話が授業終了まで永遠と続いた。
(ああ、死ぬ。全部知ってるし効率が悪すぎて話にならない)
ようやく終え、ぐったりとしている奏真。昼休みになって皆はそれぞれ昼ご飯を食べていた。
(しんどい、本気でしんどい。寝ようとしても霧谷姉が寝させてくれないし、かといって聞いてたら苦痛だ。結局聞いたけど)
ただひとり教室に残りボー、と天井を見上げていた。
疲れを癒そう。目蓋を閉じ、休憩に一眠りしようとした、その時だった。
時は訪れる。
最初は激しい地鳴りが学院全体を襲った。地震かと奏真も目を開くが、明らかに不自然な揺れが続く。
揺れが続き、何処かで倒壊が始まったのかがらがらと崩れる音が遠くから聞こえる。
途端、奏真が異変をキャッチした。
疲労を忘ればっ、と立ち上がる。
奏真が異変をキャッチしたのは地鳴りや倒壊する音によるものではない。
感じる異質な魔力、そして嫌な予感。脳裏に浮かぶのは昨夜の魔法陣。
「………まさか」
奏真が思う、そのまさかだった。
窓から外を確認する。
窓からは離れたいつも緋音が行く図書が見える。そして倒壊する図書の上層階。
同じくしてすぐ近くの学院昇降口から倒壊が始まっていた。
それだけではない。
窓から見る学院敷地内からは絶望的光景で埋め尽くされていた。
溢れかえる機械型モンスターの群れ。
奏真がガーディアンからの依頼を引き受ける際に確認したモンスターと形状は酷似している。
(これは………使えなくしておいて正解だったな。あの魔法陣はまず間違いなくあのモンスターを呼び込む為のものだった)
時は同じく上層階倒壊が始まった図書。今日も変わらず緋音は勉強に勤しんでいた。
天井が一部落下を始め、緋音は身を低くしてテーブルの下へ逃げ込んだ。
緋音はその時、大きな地震だと勘違いをしていた。
本が、天井が、窓ガラスが降り注ぐ。そして、緋音にとって奇妙なものが現れる。
本や天井、ガラスといったものが落ちた音とは別にまるで何かの機械が着地した、そんな音が耳にはいる。それも一度や二度ではなく他の落下物に負けじと降り注いだ。
「…………え?」
一体何が。
自らので落下した機械音。その正体を知らずに振り返った。
そこには見たことのない奇妙なものが立っていた。
筒状のボディに四本の鋭い蜘蛛のような足と蛸のような腕。その腕の先には一メートルものの長さの刃。そして目のような赤い光るものが緋音を捉える。
次の瞬間、その腕の一本が緋音に向けて振りかぶった。
「まずい、学院が……」
ガーディアン本部、最上階の窓から確認したのは煙が上がり、倒壊する様。
アサギの表情にも焦りの色が見える。
今日も同じく集中して弓の稽古に浸る雪音はアサギの慌てようを見てようやく起きた事に気が付いた。
「これは一体…………」
「奏真が潜入して情報を集める前に始めやがったってのか!?」
急いでアサギは持ち前のリボルバー式拳銃を握る。窓を開け、銃口を学院方面へと向けた。
そこで丁度奏真からの通信が入る。
『アサギ、まだ撃つなよ?』
それはアサギだけではなく雪音の通信機にも聞こえていた。
「奏真!?魔法陣は無力化したんじゃないのか?」
『ああ、したがどうやらひとつではなかったようだ。その魔法陣からガーディアンで見た大量の機械型が流れ込んできた。一体一体はさほど強くはない。未熟とはいえこの力量なら学院生徒先生でも十分に対処出来る』
「目的は学院の占拠か?」
『いや、違うな。杜撰過ぎる。これだけの数だ。ど真ん中に集めて数を集中させた方が落とすに向いている』
「…………なら何が目的何だ?」
『目的は今のところ検討もつかない。ただこいつらは陽動だ。こんな雑魚の為に撃って居場所がバレるとそっちに行く危険性がある。相手の目的、主力が分かってからでいい。今はそこからは見た情報をくれ』
「私は、私は何をすればいいですか?」
一連の事態を聞いて雪音はいてもたってもいられなくなった。
『霧谷………お前は待機だ。アサギの元から決して離れるな』
雪音へ奏真からの指示はそれだけ。
頼られない現実に雪音は下唇を噛んだ。
「それだけ、ですか?何か私にも……」
それでも何かは出来る筈だと食い下がる。
すると奏真は余裕がないのか、一切躊躇せず濁したりもせずに正直な事を伝える。
『………言うのは酷だが、力がないお前が戦った所で何も出来ない。ましてお前みたいな魔力をしたやつが近付けばそっちに向かい兼ねない。霧谷、今のお前に出来る事はない』
「…………!」
奏真の言うことが正論過ぎてアサギも雪音の事を庇う言葉が見つからない。本人の雪音もそれは承知しているようで何も言えずにうつむいた。
自分の無力さに悔しいのか弓を握る手は力が入る。
『勘違いするなよ。期待出来ないと言っている訳じゃないからな』
「………はい」
『アサギ、行くぞ。本命が来たら俺が隙をつくる。タイミングはそっちに任せるぞ』
「了解!」
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