021
他の生徒たちがチーム戦に向けて作戦を立てる中、奏真と緋音は自己紹介から始まり作戦ではなくどんな魔法が使えるのか、その場に座って互いに確認しあっていた。
奏真は補助系統の魔法(嘘)とその他初級程度の魔法を少々。
緋音は炎に適性があり、その他上級魔法を軽々扱える。
確認し合っていざ、作戦会議とはいかずに緋音の指示で奏真は魔法を学ぶはめになってしまった。
「この魔法ならあなたの魔力でも使えると思うので覚えてください」
覚えさせられる魔法は全て奏真も知っている簡単な魔法。馬鹿にされている事を悟る。
それも仕方ないと割り切ってさも初見であるかのように緋音の教えを熱心に聞いた。
順調に進んでいるように見えたがそこで邪魔が入る。
「へぇ~本当にやるんだね。優等生?」
それは同じクラスの女子生徒。ツインテールの髪をなびかせわざとらしく二人の間に割って入る。
ニヤニヤと笑みを浮かべ、奏真の事はまるで眼中にないのか緋音にだけ喧嘩を売るような言葉を並べる。
「…………」
緋音はそっぽを向いてその女子生徒の話を聞きたくないと言うように無視する。が、それはこういった生徒には逆効果だった。
緋音が反撃してこない事をいいことに腕を肩に回し、もたれ掛かる。それでも緋音は嫌な顔ひとつしないでそっぽを向いたまま何も言わない。
その反応が女子生徒にとって面白くなかったのかわざとらしく浮かべていた笑みが一瞬で消える。
「ねぇ、何で無視すんの?本当に生意気で可愛くないわ」
緋音に回していた腕に力が入る。
ぐっと、じわりじわりと緋音の首が絞められていく。
「…………何が………目的ですか?」
苦しそうに表情を歪める緋音。
その表情を待っていたかのように逆に女子生徒は笑顔に戻る。
「あはは、別に目的なんてないんだけど?」
緋音の表情を堪能すると満足したのか解放してどこかへ去っていった。
緋音は一度大きくため息をついて奏真の方を向いた。
「………あの、少しは見てるだけじゃなくてどうにかしようとしてくれてもいいんじゃないですか?」
「いや、だからちゃんとやってるって。だいたいの魔法は使えるから大丈夫そうだぞ?」
奏真は緋音とその女子生徒のやり取りなど目にもくれず黙々と教えられた魔法を使えるかの実験を行っていた。
出来るだけ魔力が減っていない事がバレないように。
そう言う奏真にまた緋音の目がジト目を向けるが気が付いていない奏真だった。
一方でアサギと雪音は昨日とはまるで変わらない日常を過ごしていた。
朝昼晩とアサギがご飯を作り、少し遅い朝ごはんを食べながらアサギは夜に奏真からあった「雪音に酷似する生徒」について考えていた。
珍しく考え込んでいるアサギを見て、弓の練習をしている雪音は手を止めて覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「ん、ああ。なんか一味足らないなぁって思ってさ」
アサギは自然な振る舞いで出来るだけ悟られないように嘘をつく。
簡単に騙されてくれる雪音は既に食べ終わった朝食の味を思い出す。
「そうですか?十分美味しかったですよ?」
これまでの領主との生活では基本二食でほぼほぼインスタントまたは期限切れの食べ物ばかり。
その時と比べれば雪音にとっては非常に美味しい食べ物だった。
「何でも美味しいって食べるからあんまり霧谷の美味しいは当てにならないんだよなぁ」
嬉しさ半分で笑い誤魔化すアサギ。
上手く誤魔化せたか?とホッとしたのもつかの間、雪音は真面目な顔をしてじっ、とアサギの顔を見ていた。
そして、驚くべき事を口にする。
「何で嘘を言うんですか?」
「………え?」
まさかバレるとは思ってもおらず、予想外の雪音の反応にアサギはそれ以外の言葉が出てこない。
そんなアサギに対して雪音は悲しい表情を浮かべていた。
「私には教えられない事ですか?」
そんな事よりもアサギは雪音に対して大きな違和感を覚えた。
(何で今嘘だって分かった?確かにいつもよりは下手だったかもしれないが、そんなに勘の鋭いやつだったか?)
疑問も浮かぶところだが、バレている嘘をつき続けて不信感を抱かせては面倒になるとアサギは嘘を認めた。
「………ごめん、少し考え事だ。あまり今は言いたくない事だから理由は聞かないでくれないか?」
嘘を認めたとはいえ、奏真との約束を破る訳にはいかない。アサギは正直に言えないと話す。
「そうですか。分かりました」
するとあっさり手を引いた雪音。アサギには何がしたいのか訳がわからなかった。
これ以上見透かされてはいけないと話題を変える。
「それはそうと頑張り過ぎだ。ちょっとは休んだらどうだ?このままの調子でいくと午後まで持たないぞ?」
たった今の会話まで朝起きて一度も休む間も無くずっと弓を引いては的に矢を射て続けていた。
昨日もこんな感じで続けていた。
普段使わない筋肉を使ったりなれない動きをしたりと体にかなりの負担がかかっていた。
その証拠に雪音の弓を持つ腕は痙攣を起こしていた。既に限界は越えている。
「少しでも強くなりたいってのは分かるけど休息も強くなるうちだ。少しは休め」
アサギは言っても聞かない雪音の腕に氷を乗せた。
いきなり乗せられた氷の冷たさにビクッと体を震わせるが止めようとはしない。
「止める訳にはいかないんです。少しでも早く強くならなきゃ………」
「なんでだ?そんなに急ぐ必要はないだろうに………倒したい相手でもいるのか?」
全く聞こうとはしない雪音。
初めて会った時とは見違えるような頑固さに思わずアサギか訳を聞いた。
「奏は私の尻拭いの為に依頼を受けてるんですよね?まだ助けてもらったお礼をちゃんと言えてもないのに………だから、だから少しでも力に………」
「………あのなぁ霧谷、そんな無茶したところで上達するわけじゃない。まして奏真は喜ぶどころか知ったら怒るぞ?」
「…………で、でも」
「霧谷、お前がやってることは奏真の為じゃないだろ?自分の為だろ?」
思い返す雪音は図星なのか、それ以降返事は返ってこない。それどころか下を向いて脱力したように座り込んだ。
「………ごめんなさい」
「いいですか?水魔法は最弱なんですよ?いい加減覚えてください」
奏真は緋音塾のもと、魔法による知識を詰め込まれていた。しかしひとつだけ奏真は覚えないというより、譲らない事があった。
それは四大元素の魔法の特性について。
魔法の属性にはそれぞれ決まった特性が備わっている。
【炎】は主に攻撃力、火力。四大元素の中でも一番威力が高い。四つの中でも最強と言われている魔法属性。
【水】は主に付加や補助系統の魔法。回復系統にも向いている。水だけでは単純な威力がない。四つの中で最も弱い。
【土】は主に防御と攻撃力に優れている。四大元素の中で唯一実態があり扱いは難しいが汎用性が高い魔法属性。
【風】は主に探知と速度が四大元素の中で最も優秀。威力は低いが奇襲、陽動など多くの役割がある。
このようにそれぞれ特性がある。
「いいですか?水は実態がなく、それ単体では威力がないんです。だから最弱なんです。魔法を覚えるなら【炎】もしくは【風】の系統があなたにあっているんです。分かりましたか?」
怒りけ混じりに奏真に説明する緋音。
「俺が使うべき魔法はその二つってのはまあわかるけど【水】が最弱というのは聞き逃せないな」
「別にそこはどうでもいいじゃないですか?今あなたに関係ありません。だいたい教科書にも近年ずっと、昔からそう記されているんです。どこで知ったのかは知りませんがそれは間違いです」
「はあ?ならその教科書が間違っているとは思わなかったのか?」
「そう言ってるのはあなた一人です。多くの人がそう認めてきた事実とあなた一人の意見でどちらが信用に値するかよく考えてください」
もはや奏真と緋音の作戦会議はただの言い合いとなっていた。
その様子を周りで見ていた他生徒たちは二人の間に何が起こっているのか分からずただ頭に「?」を浮かべていた。
前半の作戦会議タイムはやがて終了へと近付く。特に誰も止める事はない。
「さて、そろそろ時間だ。始めるぞ」
あっという間に過ぎていく時間。
一声だけそう言うと作られてあったくじを勝手に引いていく。
「……………一回戦、Aチーム:霧谷、月影ペア。Bチーム:市岡、武内、若月ペア。お前らはフィールドへ出ろ!」
呼ばれた五人は先生の元へやってくるといつの間にか用意したのか、試合用のステージが出来上がっていた。
長方形に枠をとられた淵。その中には森林や岩場、湖がコンパクトに詰められていた。
まるでこの部屋を小さくしたみたいな感じ。
呼ばれた五人は各自配置へとつく。
「まさかいきなり試合なんて………」
不満そうな顔をする緋音。緊張しているのかどこか動きがぎこちない。
それに比べて奏真は特にいつもとは変わらず。他人事のように呟いた。
「何も作戦立ててないな」
「あなたのせいですけどね!?お願いですからこれ以上足引っ張らないでくださいね?」
「………俺まだ何もしてないんだけど?」
そんな下らない話をする二人の反対側にはBチームとして呼ばれた三人がいる。
ステージはかなりの大きさがあるため、また障害物もあって様子は互いに見えない。
(さぁて、どうするか。上手く負けたいところだが露骨に負けるのも何とも………でも粘るのはめんどくさいな)
山中と戦った時と同じく負ける前提での作戦をチームとは別に独自に考える。
それとついでに本格的に情報を探る為にもどうやって情報を手に入れるか、その作戦も並行して考える。
(表の作戦は霧谷姉(仮)が考えるとしてどう負けるか………相手とこいつがどれくらいの腕の差があるかによるんだが)
そんな事を考えていると緋音からはぼー、としているように写ったのか服を引っ張られる。
「ちょっと、作戦考えてます?」
「う~ん、俺はちょっと分からないから任せるわ。頼んだ」
三つ同時に考えるのは無理、という意味もあるが出来るだけただの雑魚でありたい奏真は全て緋音へと丸投げする。
当然全てを任された緋音は不服そうな顔をしている。
「………本当に役立たずですね」
毒を吐く緋音だが奏真は全く聞いていないのか見向きすらしない。
まとまりのない二人に先生は呆れていた。
「おい、お前ら。何を揉めているんだ?準備はいいか?」
二人は真顔で頷いた。
「それじゃ…………一回戦始めっ!」
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