020

 昼。

 寮生活ではない人は弁当を持参する人もいるが基本的には皆、食堂へと足を運び昼食を済ませる。


 奏真が食堂へ行った時には既にほとんどの人が昼食を終え、出ていった後だった。


(………レベルは大体理解した。ただあの山中とかいう奴がどの辺の強さかによるな)


 回復仕切った体でカレーをむさぼりながら戦闘を振り返る。


 奏真も勿論そうなのだが、山中も全くといって本気を出していなかった。なので確実な事は言えない。


 カレーを速攻で平らげ、食堂から出る。


 自習ということなのでどこへ行けばいいのか分からない奏真は適当にその辺をぷらぷらして時間を潰す。


 あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。

 そうしている内に広い学院ではあっという間に迷子になってしまう。


(…………ここ何処だ?)


 同じような扉に同じような廊下。

 適当に歩いている内に自分が何処からか来てどこへ向かえば戻れるかすらも分からなくなっていた。


 更に少し奥へと進む。

 すると今度は違う雰囲気の廊下が現れる。


(出口か?)


 そこへ辿り着くと何処へ続いているのかすぐに分かった。


 そこは渡り廊下となっていて、続く先は図書と札が立て掛けてある扉があった。


(………自習だし、問題ないだろう)


 迷いなく一直線に図書へと向かう。


 図書は別棟にあるだけあってかなりの大きさとなっていた。

 円形の形にそって壁面に巨大な本棚があり中央にはテーブル。

 更に二階、三階まで続き、本棚もそれに続いて上へ続く。


(これなら何かしらの情報はあるかな?)


 潜入目的の情報を探る意味で学院の図書を探していたり、何て事も考えていた。


 図書へ入り、奥まで進むとそこに読書用のかテーブルがいくつか備わっていた。

 そこのひとつのテーブルの席に少女の生徒がひとり座って本を読んでいた。


(あいつは………)


 その生徒を奏真は見たことはない。が、その生徒はある人物に酷似していた。


 奏真や学院の他生徒よりも幼さく、制服の上に黒いローブ。とんがりボウシを被り、白銀色の長い髪はポニーテールで薄くあかみがかかっていた。


 その容姿を見て思い浮かぶのは昨日の夜に雪音が言っていた言葉。姉を探していると。

 魔力も人より多い事から奏真の中ではほぼ確定していた。


「…………何かご用意ですか?」


 奏真の視線に気が付いた少女は本を開いたまま奏真の顔をじっ、と見返していた。


「いや、特に用は……」


 目が合って更に気が付いた事だが、瞳の色共に目元も雪音にそっくりだった。


「はあ…………」


 奏真に対する興味も失せたのか視線を本に戻し、ページをめくった。

 本の内容は魔法に関する本のようで奏真の目にもそれが見える。


「勉強中だったのか」


 何もしようとしない奏真に忠告する少女。


「明日も実技ですよ?何も学んでおかなくていいんですか?」


「……何で知ってるの?」


「なぜって………同じクラスだからですよ?私は飛び級なので同じクラスなんです。あなたが山中さんにボロ負けしたところもしっかり見ました」


「ああー、なるほど」


 適当に返事をしながら奏真は歴史関係の本を引っ張り出しながら片耳で話を聞く。


 少女の話を聞いているとそこに丁度に興味深い本の表紙が目に入る。

 その本の題名は、


『ある最終戦争とエルフ族』。


 話には聞いた事がある。もとより雪音を助ける時に領主のおばさんがそのような事を叫んでいた。

 またその他都市伝説や本などもあると奏真は聞いていた。


 ガーディアンの依頼の情報はひとまず、その本を手に取り開いた。その本はストーリーで構成されていた。




――『ある最終戦争とエルフ族』――


 およそ四年前。大陸より西側で、世界にも知られる大規模な戦争があった。


 場所は北端が都市、今は深い渓谷となった今は亡き都市[なぎはらの森]。

 そこは北端でありながら冬が訪れないエルフ族の領地であり、都市だった。


 エルフ族とは、

 人種の中でも非常に稀な存在であり、人々は皆生まれながら高い魔力を保有していた。それもあり、エルフ族は魔法の祖とも呼ばれていた。主な魔法がエルフ族により創られたものと今でも言われている。


 そのエルフ族は国をまとめる政府の一員として国も認めていた。


 そんなある日、エルフ族はエルフ族以外の人間を敵に回した。




 そこまで読んで奏真は本を閉じた。

 そして棚へ戻す。


「………虚実しか書いてない本なんて読む価値ありませんよ」


 奏真の後ろから覗くように見ていた少女。その本を冷たい目で睨み付けるように見る。


「虚実?随分この本が嫌いなんだな?エルフ族に知り合いでもいたのか?」


 奏真はその少女がエルフ族だと知っていてわざと揺さぶるような口振りで少女に喧嘩を売る。

 すると案の定、ムスッとした表情で席へ戻っていく。


「…………エルフ族なんて大ッ嫌いです止めてください」


(…………ほう?)


 その後、少女と口を交わす事は一切なかった。




 夜。

 奏真を含む生徒は寮、若しくは自宅へ戻り翌朝を迎えるまで各自自由時間となる。


 奏真は寮ということで個室でゴロゴロしながら時間が過ぎるのを待った。


 奏真が仮眠を取り、時刻は深夜を迎える。


 以外と奏真を捕まえるように連れてきたわりには錠をするわけでもなく解放的だった。いざとなったら簡単に逃げ出せる事を頭に入れておく。


 皆が寝静まったのを探知で確認してから通信機に手を伸ばす。


『はいはい、どうした?』


 通信にすぐ応答するアサギ。


「今、霧谷はどうしてる?」


『霧谷?もう既に寝てるよ。どうした、寂しくなってきたのか?』


「………まだ確証はもてないが、霧谷の探してる姉を見つけた」


『………ほぉ?』


「外見は瓜二つ。髪色は銀色で少し緋みがある。たまたまエルフ族の事が書かれた本を見つけたから試しに吹っ掛けてみたら案の定、だった」


『案外すぐ近くにいるもんだな。でも何が確証を持てないんだ?』


「本人の名前を聞いてないってのとエルフ族を嫌っている、という事だ。だから霧谷にはまだ言わないでおいてくれ。変に希望を持たせないほうがいい」


『了解。他の情報は?』


「まだ何も。また連絡をいれる」


『おう。霧谷には何もなかったと伝えておくよ』




 翌朝。

 授業が始まるまでは基本的に自由時間。朝食を食堂で済ませるもの、まだ寝ている者、登校する者に別れる。


 奏真はそのうちのどれでもない。ベッドで横になり腕を後頭部に回し、腕枕で天井を見上げていた。

 寝ている訳ではなく考えて事だ。


 ある程度時間が経つと奏真も含めて生徒たちは授業のある部屋へと向かう。

 流れるように沿うように奏真も一緒に移動し場所まで向かった。


 昨日図書で少女が言っていた通り今回もまた実技のようで場所は昨日と同じ。


 昨日の先生が腕を組んで待っていた。


「生徒諸君、お前たちはこれから三人一組でチームを作ってもらい、チーム戦を行う。なお負けたチームには罰ゲームを用意した。皆心してかかれ!」


 ただそれだけ。

 その言葉が合図で生徒たちは名前を呼び合って三人一組のチームを作り始める。


 奏真は誰も知らなければ、奏真のような魔力の少ないやつと組むようなお人好しはいない。誰も奏真の元には寄り付かず、話しかけようとしようものならば逃げられる始末。


(うーむ、最悪一人でもいいか。どーせ勝つきは端からないし)


 むしろ迷惑がかからなくて奏真にとっては好都合だった。

 そんな奏真の元へ一人の少女が寄ってくる。


「やっぱりあなたも一人だったんですね」


 それは昨日図書にてあった少女。

 彼女も誰も組む相手がいないのか奏真と同じく一人ぼっちだった。


「誰とも組まないのか?飛び級するくらいなんだから優等生だろ?」


 奏真と同じクラスと言うのは本当らしく奏真の横に並んだ。

 二人してチームを組む皆を眺めながら話す。


「そうですね。同い年ならば、ですけど」


「どういう意味だ?」


 すると少女は小さく、呆れるようにため息をついた。

 それは奏真に対してではなく皆に対してだった。


「私みたいな場違いはおもしろくなくて組んでくれる人なんて誰も居ないんですよ」


「へぇ~そいつはご苦労人だな」


 奏真は納得いったように頷いた。

 そんな奏真を横目で見る少女。


「他人事のように聞こえますがあなたもでしょう?」


「それもそうだけど。難儀なもんだな。飛び級する程の優等生はつまらなくて、魔力が低ければいらない」


「そうですね。昨日といい、何かの縁です。私と組みませんか?」


「最弱候補の俺とか?」


「候補ではなく事実です。組まない事には参加も出来ないでしょうし…………こんなところで躓いている場合では………」


 途中まで言うが止めてしまう。

 しかしその続きを奏真は何となく、想像が出来た。妹を探す為に……。


「何でもないです。忘れてください。で、どうしますか?組みたくないと言うならばそれでも構いませんが………」


「いや、折角だし組もう………ん?何が不服なんだよ?」


 組むと奏真が言った瞬間に手のひらを返すようなジト目をする少女。


「…………上から言われているようで何か違う気が……まあいいです」


 他の生徒もようやく組終えたようで先生の次の指示が出される。


「前半は各自作戦を立てたり教えあったり自由にしていて構わん。後半から試合を始めるが対戦相手はその時のくじで決める。質問がなければ各自開始!」


 各自生徒たちはチーム事に別れ各々作戦やら技術を話し合う。

 そんな中、昨日会ったとは言え、まだ互いに何も知らない二人は自己紹介から始まる。


「そういえばまだ名前聞いていませんでしたね。私は霧谷緋音あかねです」


「…………そうか、俺は…」

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