019
「お、転入生!?」
ある一人の生徒の少年が入ってきた奏真に気が付いた。その少年の言葉に他の生徒も奏真へ振り向いた。
その少年も他の生徒も皆同じく白色の制服を見に纏い剣、槍、弓など武器を手にしていた。
「お前は月影奏真だな?」
現在進行中の授業の担当である先生。鋭い目に、短髪、高身長といった女の先生は奏真を一目見て名前を確認した。
「…………はい」
奏真はキョロキョロと辺りを見渡しながら返事をする。
目に写るのはいろいろな地形。森のような所もあれば岩場に湖。まるで動物園のように区画で分けられていた。
奏真が感心していると先生は急に剣を放り投げ、渡す。
奏真の前にその剣が突き刺さる。
「そんなに気になるのならば試してみるといい。ついでにお前の実力も見せてもらおう」
「…………へ?」
唐突な先生の指示に奏真は困惑した。
「なんだ、もしかして剣より他の武器の方が良かったか?今なら別に取り換えても構わないぞ?」
剣の他に先生は凡庸的なものから何に使うのか分からないようないろいろな武器を用意する。
一体何がしたいのか。奏真は既に予想がついた。ただ、今は全てに置いて最弱を演じきらなければならない。
この世界は魔力が全て。多少剣の腕はあっても戦闘に置いては負けなければならない。
(やれやれ、また負ける演技をしなければならないのか。うっかり倒さないように力加減しないとな)
内心ため息をついて、地面に刺さった剣を引っこ抜いた。
「いや、これで大丈夫です」
両手で握り、適当に構える。
そんな奏真を見てにっ、と笑う先生。
「そうか、お前には一度模擬の試合を行ってもらう。裏では回復魔法のエキスパートが揃っているから安心して戦え」
(やっぱりそうなるか)
奏真の大方予想通り。いきなりの戦闘。
「安心しろ。戦うのは私ではない。お前の相手は………山中、お前が相手をしろ」
「は、はい。分かりました」
山中と呼ばれたのは一番最初に奏真の存在に気が付いた少年。一歩前に出て、奏真の数メートル先で、奏真の持つ同じような剣を構えた。
「他生徒諸君はその場で座り、二人の試合を見ていろ」
生徒たちは先生の指示通り奏真と対戦相手の山中から少し距離を取り、座る。
「さて、月影。地形を変えたければ構わないがどうする?」
「このままでいいです」
(移動めんどくさいから)
有利な地形を選ばせてくれると言うが正直どうせ負けなければいけないので変わりはしない。
めんどくさいという理由でその場で地形を変更はしない。
「どちらかが戦闘不能、もしくは負けを認めた場合を除き戦闘は続行される。いいな?」
「……はい」
奏真に模擬の戦闘のルールを伝え、先生も少し距離を取る。そして、
「では、初め!」
奏真と山中の試合が始まった。
「………あの、すぐ戦力になれる方法ってないですか?」
ガーディアンの最上階で奏真からの指示を待つアサギと雪音。
アサギから貰った魔法の本を一度読むのを止め閉じた。そして、何かを製作するアサギに質問する雪音。
アサギは手を止めて雪音の方を見る。
「すぐに………ねぇ。多少戦闘経験があったり才能があれば無いことにはないけど、何でそんな急に?」
アサギが聞き返すと雪音は下を向いた。
「出来るだけ早く戦えるようになりたくて」
「う~ん、そうだなぁ。魔法は置いといて、剣も体術も奏真の方が上だし。教えられるとしたら…………そうだ!霧谷、弓使ってみないか?」
突然思い出したかのようにひらめいたアサギ。
「弓……ですか?」
「ああ、それなら教えられるし、何より離れた位置から攻撃出来るから危険も少ない。でもまぁ、地味だし強くなるかは別だけど戦うという意味では可能だよ」
そのアサギの言葉に雪音の表情が大きく変わる。
「本当ですか?」
手をテーブルについて身を乗り出しアサギに迫る。目は魔法の書物を読んでいた時のように輝いていた。
「あ、ああ本当だよ。もともとエルフ族は弓のエキスパートって聞くし多分上手く使いこなせるんじゃないか?」
「弓の使い方、教えてください!」
「………やる気十分だな。いいよ、少し待っててくれ」
アサギはまた物を取り出す。今度は細かい部品ではなく、木。切り出された木材ではなくそのままの丸太。
それを一瞬で加工する。
まばたきする間も無く、スパッと綺麗に切れたかと思えば既に弓の原型へと形を変えている。
「!?」
あまりのアサギの早業に雪音の理解は追い付かない。
かと思えば今度はその完成されたと思った弓を高速で描いた魔法陣の中に置き、その魔法を発動させる。
光に包まれる部屋全体。一体どんな魔法を発動させたかと思うと光が消えた後にそれといった変化はない。
「後はワイヤーを付けて完成だ」
何事もなかったかのようにワイヤーを取り付け始める。
「さっきのは一体何を………?」
雪音の目にはただただ魔法陣が光ったようにしか見えなかった。
不思議そうな顔をする雪音に対しアサギは目をそらして頬をかいた。
「あー………気になっちゃう?」
出来れば見逃してほしいなぁー、とチラチラ目でそう念を送るが雪音は「?」を浮かべると何事もなかったように首を縦に振る。
「………はい」
仕方ないのでアサギは直接言うことに。
「あれはね………ズルい技使ってるから、あんまり言いたくないんだよね」
「ズルい?魔法でそんな事あるんですか?」
妙に食いつく雪音。アサギは無理矢理にでも拒否する。
「まあ奏真には負けるけどね。まあ兎に角あまり良いものじゃないから見逃して」
「………はい。分かりました」
渋々という顔で引き下がる雪音。
「ほれ、そんな事よりも出来たぞ」
作り終えた弓を雪音へ片手で投げ渡す。
「わわっ!?」
慌てて両手でキャッチする雪音。
大きさは全長七十センチあり、見た目は純度百パーの木で出来ているように見えるので重いのかと想像する。
両手で抱き抱えるように受け止め、全屈伸を使い重さを軽減した。
「………あれ?」
しかし、その弓は見た目程重くはなく、むしろ通常の棒切れ何かよりも軽い。そもそもアサギが片手で投げる時点でどこかおかしかった。
「材質は木、固さ重さはステンレス。耐熱性もあってかなり頑丈な筈」
雪音は手にもってその弓の弦を引っ張ってみる。撓りは軽く、雪音の腕力でも簡単には引くことが出来るように作られていた。
またしなりから戻る速さも通常の弓より遥かに速い。
「なんか………物凄い性能の弓をいただいたような気が………」
「そう?魔力コントロールが出来るなら威力を調節出来るようにしたり、魔法を付加の効率あげたり………」
「そ、そんなにいっぱい………」
若干雪音はアサギに戦慄する。
アサギはその他いろいろ思い付いては口にしているがその他のは雪音に理解出来ない。
アサギはその後、どこからともなく矢を大量に放出。
「さて、百聞は一見にしかず。まずはやってみよう」
放出した矢を一本雪音へ渡す。
「ここ、屋内ですが………」
撃つのを躊躇う雪音。
「大丈夫だよ。矢を刺しても怒られる事はないから」
「そ、そういう事ではなくて……的とか広さが足りないような」
物が少なく、広い部屋とは言え、多少住めるように造られている。矢を通す為の射線は限りなく少ない。
初めて触るには向いていない。
しかし、アサギは木の板で的を用意しながら言う。
「最初は近くでやるからそんなに心配する事ないよ。それでも、って言うなら屋上でやるけど風強すぎて何にも出来ないぞ?」
「そ、それは確かに………」
的を部屋の対角線上に置き、撃てと雪音に命じる。
「ほれほれ、的は用意したから発射ッー!」
「わ、分かりました」
雪音は矢に手を掛け、弓を引き絞った。
フィールドに鳴り響くは地面を抉る魔法。
奏真はそれからどうにか逃げるように地面を転がり避ける。
生徒の一人である山中と模擬の戦闘を始めてからおよそ三十分が経過。
山中は始まってからその場から一歩も動く事なく攻撃をし、対する奏真は避けて避けての繰り返し。
体力に限界が近付いていた。
「…………はぁ……はぁ」
未だ一度も魔力を使わず、攻撃の隙を見るが明らかに魔法の密度が高過ぎて一向に近付く事が敵わない。
「あいつよく粘るなぁ」
「もう勝機ねぇだろ。ましてあんな魔力で」
見物している他生徒は二人の攻防に飽きてあくびをしたりしていた。確実自主トレしている人もいる。
先生は無言で二人の戦いを眺めている。
(…………流石にそろそろ負けていいか?なかなか疲れたぞ?)
魔法の補助無しに今まで三十分をぶっ通しで戦い続けた奏真。
内心は余裕であるがいつ演技がバレるか分かったものではない。そういう意味での疲れただった。
これ以上は逆に耐えすぎると判断した奏真は見切りをつける。
(そろそろ頃合いだ)
ある程度の攻撃が来たら食らうつもりでわざと誘い込む。
すると案の定、魔法が飛び交った。
(思ったより痛そうだ)
その魔法は岩の塊。
まあいいかとそのまま抵抗出来ない振りをして諸に食らう。
「そこまでッ!」
意識が飛び掛ける奏真。
そんな時に、先生の止めの合図が聞こえる。
吹き飛ぶ奏真は救護班の先生に押さえられ急速に回復魔法を掛けられる。
(流石に………あぶねぇ)
意識が持っていかれそうなのを何とか堪える。回復魔法を掛けてもらい、少し時間が過ぎると何処からか鐘の音が聞こえてくる。
三十分も戦っていた為か授業の終了のチャイムが鳴った。
「今日はこれで終了だ。午後からは自習だ。各自腕を磨くように!」
生徒は各自昼食を取るためにこの部屋から出ていく。
先生は奏真の方まで歩み寄ると先生自らも回復魔法をかけた。
「お前はもう少しここでゆっくりしていろ」
「そうさせてもらいます」
先生がそう言う為、御言葉に甘え大の字に寝転んだ。
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