第7話 ハレノヒ

セットしようと思わなくても体が勝手にやっていたようだ。

目覚まし時計が鳴るほんの少し前に私は起きた。

ジリリリリリリという小刻みな振動を止めて大きく伸びをする。

時刻は午前6時。

カーテンを開け、日光を浴びる。

今日は気持ちのいいくらい晴れている。


小学校の頃、朝の謎の放送があったのをとても良く記憶している。


おはようございます!

気持ちのいい朝ですね。

窓を開け、新鮮な空気を入れましょう。

8時25分から………………があります。


云々云々

毎日気持ちの良い朝なわけじゃないのに、この放送の原稿は全くそれを考慮されて作られていなかった。

当時の私は特に何も気にしていなかったが、今思えば本当によくわからない放送である。


それはさておき、今日の空はそれを思い出すぐらいの気持ちのいい雲一つない綺麗なものだった。


こういう日は、普段使わない女子力を無駄に使いたくなる。

ランニングがてらカフェでモーニングセットでも頼もう。

そう思い立ち、日焼け止めを塗って、薄化粧にキャップ、ランニングウェア、お気に入りのランニングシューズ、お財布とスマホが入る小さいポシェットを装備して勢いよく家を出た。


踏切を超えた先に大きな公園がある。

朝早いから人はまばらだ。

ラジオ体操をしているジジババを尻目に好きな音楽を聴きながら好きなだけ走る。

今日の気分は最近ハマったバンドのデビュー曲だ。

アップテンポで、リズミカル。

ランニング向きこの上ない。

2キロは走ったと思う。

少し休憩かなぁと思った矢先、

お腹がグゥっとなった。


たまたま横に居合わせた人に、私の立派なお腹の虫の鳴き声を聞かれてしまった。

咄嗟のことに、少しはにかみながら下を向く。

どうかそんなこと気にしないようなおじさんとか、おばさんとかでありますように…………

恥ずかしいなぁっと思い、顔を上げて、横を見る。



やばい、めっちゃタイプ………!!

その人は背が高くて引き締まった体をしていて魅力的だった。

サングラス越しにも分かるイケメン具合に、お腹が鳴る数秒前に時を戻したい…と思った。

あぁ、穴があったら入りたい……。


私が数秒の間に1人百面相をしていると、その人が声をかけてきた。


君、たまに走りにくるよね。

朝ごはんまだ…だよね、多分笑

よかったら一緒に食べに行かない?


うぉぉ、チャラい。

品がいいけどしっかり大人のチャラさがある。

この顔に微笑まれたら行くしかない。

よかったぁ薄化粧してて…………!

占いのおばさまもなんかいいことあるっていってたし、いってみようかなぁ


あ、はいご一緒させてください。


公園の向こうまでは私も行ったことがなかった。

その人が行きつけだというサンドイッチが美味しいと評判のお店に連れて行ってもらった。

今度1人でもきてみようっと。

 

カランカラン

  

あぁ、透サン。

いらっしゃいま……って

あれ、珍しいなぁ。

今日は1人じゃないの?笑


うるさいなぁ。

モーニングセット二個ね。


席に座る。

お店は静かな感じで、とても居心地が良かった。


自己紹介が遅れてしまったね。

透と言います。

あの公園の近くに住んでて、週3とかで走りに来てる。

急な誘いだったが、強引に悪かったな。


いえいえ、自分では思ってもみないくらいお腹が空いてたみたいで、、、あはは、、

えっとミツルと言います。

満たすって書いて、ミツル。


軽く自己紹介をしていたらサンドイッチとバターコーヒーが来た。

定番のBLTとツナ、タマゴなど美味しそうだ。

コーヒーもいい香り。

来てよかった!


サンドイッチに舌鼓をしつつ話す。

透さんは私より4歳年上の29歳。

結構いいところで働いてるみたい。

ランニングは趣味で、大学では陸上のサークルに入っていたとか何とか。

私のことは何度か見かけていたみたいだ。

こんなイケメンを見逃すとはなんたる不覚。


俺ばっかり話すのも何だから、ミツルさんのことも教えてよ。


あ、それもそうですね。

私は25歳です。

一応OLです。

気が向いた時に走りたいだけ走りに、よくあの公園に行きますね。

今日はすごい気持ちがいい朝だったので走りたいなぁって思って…

美味しいご飯もひとつ発見できて、今日はいい日になりそうです。


それは何より。

ここ、チーズケーキも美味しいんだ。

もし都合が合えばまた今度食べに来ない?


そうなんですか!

私チーズケーキすごい好きで、、、

ぜひ!また、ご一緒したいです。

じゃあ連絡先でも…


アドレスを交換する。


猫、飼ってるんですか?


あ、ぁぁアイコン?

豆さんか。

うちに来て2年かな。

拾ったんだ。


豆さんっていう名前を透さんがつけたって考えるとちょっと萌えた。


そういうミツルさんのアイコンも猫じゃないか。


あぁ、この子は月って言います。

毛並み黒いけど、目の色素薄くて月みたいに綺麗だから月。

実家から、一人暮らしするってなった時に一緒に我が家にって感じですね。


他愛もない話をした後、お店を後にした。

サンドイッチ代は透さんが払ってくれた。


公園まで戻ってくる。

なんか早いなぁ。


今日は楽しかった。

急でごめんだったけど。


いえいえ、また食べに行きましょ!

すごいおいしかったです。


実は、俺、前から声かけようと思ってたんだ。

ミツルさんすごい、その、綺麗だから。


そんな、綺麗だなんて、、、


やばいこれは完全に落ちてしまったやつかもしれない。そういうことに疎い私でもこれがしっかりと口説かれていることくらい分かる。


じゃあ、都合のいい日あったら連絡して。

また走ってから行ってもいいしさ。


わかりました。

近いうちに連絡します。


占いのおばさま恐るべし。

これは3つの中のどの出会いなのだろう。

まぁ、何でもいいけどハレノヒ最高!!














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る