第4話 沼男とさよなら

はたしてどこまでが優しさなのか


え、全然わからんかった。

えーっと、ありがとう。

でも、友達かなぁ。


そっか。

言いづらいことなのにちゃんと言ってくれてありがとう。

でも、まだ好きだなぁって思っちゃう自分がいるから、ちゃんと友達として接することができるようになるまでは好きでいさせて。

じゃあ、切るね。


うん……。ばいばい。


静かに電話を切る。

ちょっと涙が出た。

生ぬるい風が涙に濡れた頬をよぎる。


気持ちを落ち着かせて携帯を見ると、彼からLINEが来ていた。


さっきは電話してくれてありがとう。

嬉しかった。


………?

あれ、私フラれたよね?

返答に困る。


こちらこそありがとう。

長電話になっちゃってごめんね。


いや、全然。

またしよ。


まじか……

これは本当にどういうことなのか……?


まだ未練タラタラで、もう少し、忘れ切るまでとはいかないけど、好きでいるつもりだった相手からのまさかの切り返し。


まさに沼だった。


一度ハマると抜け出せない。

そこから、前よりも気持ちだけLINEの頻度は増えた。

電話も数回して、ほとんどが寝落ち通話。

朝、おはようっていって笑ったのはだいぶ罪だった。私はとても幸せだった。


連絡が増えれば増えるほど、次第に不安になるのは必然だと思う。

一度フラれた身だしね。

この人は何を考えているのか、私は彼にとって何なのか。

自分がメンヘラ化しているのが段々とわかってきた。


そんな自分が嫌になった。


初めは大好きだった彼の優しさが怖くなる。

自分ではない誰かが本当の自分を侵食してきている感覚。

あぁ、こんなのは私じゃない。

私が求める私じゃない。

そう思い始めて、少し病んだ。


これって、恋に恋してるやつなのでは?

と思い始めたのはいつからだったろう。

私は”恋している自分”が好きだっただけで、相手は誰でもよかったのではないか。

現に、メンヘラ化している今の、恋愛至上主義の私を私は嫌いだし。

結局、これは執着で、もう恋じゃない。


彼も彼で、私のことを多分都合の良い存在だと思っていると、私は思ってしまった。

いわゆる、キープってやつ。

意識下でも無意識下でも罪なやつ。

好意を寄せられて、嫌な人は基本的にはいない。

それが許容範囲にいる人かいない人かによって、変わるけど。


一度思いを知ってしまったら、好きでいてくれる存在を手放してしまうのは惜しいだろう。


でも、長い間囚われていた思いを簡単に手放せるなら、もうとうの昔にそうしていた。

そうしていたはずだった。

彼との連絡を切る決心はなかなかつかなかった。

彼からの連絡が途絶えることはなかった。


でも、時はすぎる。

どうでも良い会話になっていたLINEの終わらせ方なんて簡単なのだ。


既読無視

はい終了。


なぜだか涙は出なかった。




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