第29話 マリ先輩との昼休み

 翌日、学校に行くと心陽は休みだった。

 昨日、コンビニから家まで一緒に歩いたときは元気そうだったのに。

 まあ、噂によると風邪だそうだ。


「なにしてるの?」


 昼休みにはいつもの場所で小説サイトを開いていると、マリ先輩がやってきた。


「いやー、面白い小説ないかなあって」


 本当だ。ランキングトップの小説のあらすじやタグ、タイトルなんかをチェックしながらどんな小説がいい評価がもらえるのか考えていた。

 自分が面白いと思う小説じゃなくて、読者が面白いっていってくれる小説だ。

 もっと多くの人に自分の小説を読んでもらいたいから。

 マリ先輩が面白いといってくれたのだから、今書いている小説はもちろん面白いのだろう。でも、たいしてフォローしてくれる人がいるわけでも星が多いわけでもない。「埋もれてしまっている」という状況なのだろうか。

 もっと、コメントやレビューが欲しかった。

 そうじゃないと、なんだか書き続けるのがつらいというか。


 書くことを決めたときはこうじゃなかった。

 最高に面白い話を思いついたと思っていた。

 現役高校生だから下手な大人が書くよりみずみずしくてリアルな小説が書けると思っていた。

 パソコンを開いたとき、指先がキーの上で踊るとき、もっとわくわくした気持ちがあった。


 だけれど、書いているうちにわからなくなってきた。


 時間をかけたのにも関わらず、ほとんど読まれない小説。


 面白かったはずの俺の考えた物語が何が言いたいのかわからなくなる。

 気が付くと俺は小説を書けなくなっていた。いや、書こうとさえしなくなっていた。


 ここらへんで少し気分を変えて新しい作品を書けば変わるかもしれない。

 たとえば、遠くて俺のことを覚えていない幼馴染よりも、すぐそばで毎日顔を合わせるようなマリ先輩のような存在を描けばもっとリアルいいものが書けるかも。

 そこに今流行しているものを加えれば、もっと読まれる小説が書ける。


 マリ先輩に、新しい小説のアイディアを話してみる。

 もちろん、マリ先輩をモデルにすることは言わずに。

 すると、マリ先輩は時折、相槌を打ちながら真剣な目でこちらを見つめながら一緒に考えてくれる。

 もしかして、今この瞬間を描いたら受けるのではないだろうか。

 カクヨムには作者であると同時に読者であるひとが多いという。

 小説の話をマリ先輩としているこの瞬間、それってすごく理想的でキラキラした青春の一ページに見えるんじゃないだろうか。

 あれ? でも俺、自分で小説を書いているのマリ先輩に話したことあったけ?

 まあ、いいや。カクヨムにのせているなんて話は誰にもしないように気をつけているから大丈夫だろう。


 もしかしたら、今日はいい小説が書けるかもしれない。

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