第23話 次のデートの約束
結局、マリ先輩にあの小説を書いたのが自分だと告げることなく、解散となった。
シロップになってしまったかき氷をマリ先輩の白い喉が飲み干すと、
「じゃあ、そろそろ解散しようか。ごちそうさま」
そういったマリ先輩の唇はかき氷を食べる前よりも可愛らしいピンク色に染まっていた。
俺とマリ先輩は、ショッピングセンターのカーペットの敷かれた道をのんびり歩く。そういえば、映画のことを全然話せていなかった。
別れる間際、俺とマリ先輩は今日みた映画の話で盛り上がった。話しても話したりないくらい。
夢中になって話しているとき、マリ先輩はふと「あっ、コハルちゃん」とつぶやいた。マリ先輩の視線を追うとそこには見紛うことなく、俺の幼馴染で学園のアイドルといわれている、心陽の姿がそこにはあった。
チョコレート色のジャンパースカートにバニラアイスクリームみたいなアイボリーのニット。耳には大きめの金色のイヤリング。
ちょっとジャイアントコーンみたいでおいしそうな組み合わせの服だった。
ただ、心陽がやるとアイスクリーム風な服装もアイドルがドラマに出るときの衣装みたいでかわいかった。
その証拠にすれ違う男はみんな振り返って心陽をみている。
お母さんに手を引かれた小さな男の子だって、心陽をみて振り返るくらいだ。
「マリ先輩、知ってるんですか?」
俺は思わずマリ先輩に尋ねる。
「知ってるも何も、有名人でしょ。うちの学校に彼女を知らない人なんていないと思うけど?」
確かに。学園のアイドルと呼ばれるくらいなんだからみんな知っていても不思議じゃない。こうやって、心陽のことをみんなが知らない場所に来てもかわいくて目立っているのだから。
一瞬、心陽がこちらを見ていた気がした。
だけれど、そんなことはあるはずがない。
だって、この前、助けたときに俺のことも忘れてしまっていたくらいなんだから。
心陽と俺の住む世界は違うのだ。
俺はそんな思いを吹っ切るように、先輩に笑いかける。
「今日の映画、すっごく面白かったです。また、いい映画あったら一緒に行きましょう」
自分でも言ってから、驚く。これってもろデートの誘いではないか。
偶然、映画館であったからマリ先輩は映画をおごってくれてお茶を一緒にしただけなのに。
なんて図々しい後輩なんだ。それどころか、ちょっとぐいぐい行き過ぎだ。マリ先輩のように自由を好む人にこんなにガンガン迫って許されるのは本当に脈ありの人間だけだろう。
適度な距離を保てるいい関係だと思っていたのに。もしかしたら、もう昼休みにあの場所でマリ先輩と話をする機会もなくなってしまうかもしれない。
そう思うとつらかった。
何気ないマリ先輩との日常の瞬間がすごく貴重なものだったということに気づいた。
せっかく俺の小説をお世辞や気遣いじゃなく面白いと言ってくれたのに。
いつもちょっとお姉さんっぽくふるまうけれど、ときどき見せる子供っぽい瞬間が飛び切りかわいいマリ先輩。
なのに、俺はなんて馬鹿なことを言ってしまったのだろう。
だけれど、マリ先輩は今日一番の笑顔で、
「うん。また一緒に映画いこうね!」
と言ってくれた。
マリ先輩の笑顔は反則級に可愛いかった。
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