第21話 あの小説、面白かったよ!

「うーん、最高!」


 マリ先輩は嬉しそうに、かき氷の山を長い銀色のスプーンでを突き崩す。

 別にかき氷って季節じゃないのに、寒くないのだろうか。

 だけれど、マリ先輩のスプーンは氷の山をさくさく音を立てながらあっという間に小さくしていく。


「マリ先輩、もっとゆっくり……」


 そう言いかけたときには手遅れだったらしくマリ先輩は、こめかみに手を当てて目をぎゅっと閉じていた。

 眉間に皺が出来ている。不細工になるはずの表情なのに、その素直さがすごく可愛く見えた。


「あー、キーンってなっちゃったぁ」


 マリ先輩はあははと笑う。ふつう、高校生にもなって早食い勝負でもないのにかき氷で頭をキーンとさせるのはマリ先輩くらいだろう。

 ふと、子どものころ心陽とかき氷の早食い競争をしてよく頭をキーンとさせていたのを思い出す。家で作るかき氷はカルピス味だった。


 今の心陽なら絶対かき氷の早食いなんてしないだろう。なんせ学園のアイドルと異名が付くくらい可愛くて人望がある美少女なのだ。気さくに振る舞うけれど、きっと昔みたいな馬鹿はもうやらない。


 そう思うとちょっとだけ悲しくなった。

 そういえば、まだスマホをしまったままだった。

 イヤホンも外したままだし。

 ずっとアプリの中の心陽と話していたので変な感じだった。


 何も言わずにイヤホンを外しちゃったのはまずかったかなと思いスマホの画面をちょっとだけ確認しようと取り出すと、マリ先輩もスマホを取り出した。良かった。これで一人でスマホをいじっている感じ悪い奴にならない。


「そういえば教えてくれた小説、面白かったよ!」


 マリ先輩はスマホをささっと操作して、画面を見せてくれた。

 カクヨムでの俺の作品ページがそこに映し出されていたのでびびる。ああ、そうだった。俺が昼休みに小説を教えて欲しいと言われて教えたんだっけ。本当は俺の小説なんだけれど。

 俺は思わずにやけそうになった。

 だって、初めて誰かに自分の小説を褒められたのだから。


 ああ、でも何て返事をしよう。

 本当は「ありがとうございます」っていいたいところだけれど、それは変だ。だって、あれは俺が小説であって、俺が小説とは言っていないのだから。

 マリ先輩はきっと僕が面白いWEB小説を紹介してくれたぐらいにしか思っていないだろう。


 ああ、どんな風に面白かったか聞きたい。

「俺が書いたんです」って言っちゃおうかな。

 いや、でも完結もしていない作品だ。この後の展開だってどうなるか決めていないし、未完成なものを自分のだって見せるのはなんか恥ずかしい気がする。せめて完結してから……。

 でも、本をたくさん読むマリ先輩にどんな風に面白いか聞ければ、すごく参考になるし良い物が書ける気がするし。


「ねえ、君もかき氷の一気食いしたの?」


 マリ先輩はクスリと笑って、俺の眉間のあたりを指さす。

 えっと思って、自分の額に触れると、そこには雷型の傷が……なくて、思いっきり眉間に皺が寄っていた。


 どうやら、考えているだけなのに俺は相当酷い顔をしていたらしい。

 俺は必死で自分の手で眉間を隠す。あーあ、変なところみられたかもしれない。

 俺はちょっとしゅんと落ち込む。

 でも、次のマリ先輩の言葉で元気になった。


「ねえ、あの小説の話してもいい?」

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