第19話 恋愛映画
「ハッピーアイスクリーム」
二人が同時に同じ言葉を言ったとき、先にこの魔法の言葉を唱えた方がアイスクリームをおごってもらえるのだ。
子どものころの俺たちはしょっちゅうアイスクリームをごちそうしあっていた。
なんせ、毎日一緒にすごして、好きなものやお気に入りのアニメ、流行しているものも一緒なのだ。俺たちはしばしば、同じ言葉を同じタイミングで口にする。
テレビとか見ていて双子が同じように考えるというけれど、それと同じような感じかなと勝手に想像していた。
俺と心陽はあの頃はお互いの考えていることが手に取るように分かった。
いま、この瞬間も同じ言葉を口にしたというのは同じことを考えて、感じていると言うことなのだろうか。
心陽も俺の気持ちを知りたいということなのだろうか。
俺たちはいつのまにか距離を置くようになってしまったけれど、今でもあのときと気持ちが変わらず、あの約束も有効だって確かめたいのだろうか。
そんなことを考えていると抹茶ソフトクリームはあっという間に食べ終わってしまう。
食べ終わって歩き出すと、二人だけのあの時間がすごく貴重なものだったと気づいて愛しくなると同時に残念になる。
そのあとのデートも順調だった。
心陽が楽しげに耳もとで囁く。
女の子とでかけると、洋服ばかりみることになるのかなと勝手にイメージしていたけれどそんなことは無かった。
ヴィレッジバンガードとか、スリーコインズ、フランフランなんかは見ていて「おっ」と思うものも多くて面白かった。
ショッピングセンター特有のあの甘くて爽やかな匂いの正体はラッシュというボディケア関係の商品を置いている店のものらしい。
ただの入浴剤が一個千円近くするのには驚いたけれど、お店のエプロンをした綺麗なお姉さんが泡がたっぷり入ったボールを抱えた姿はなんとも可愛かったし良い匂いがした。
「そういえば、ここ映画館もあるよね」
心陽がそう言い出すので、映画のチケットを買いに行った。
流行の恋愛映画だった。
正直、ポスターからして自分じゃ映画館でお金を払ってみないだろうなと思うテイストの作品だけれど心陽が喜ぶならそれだけで良かった。
いつもなら映画を予約するのだけれど、急に心陽がいいだすので一番近い上映回のものを求めようと映画間に直接いく。
すると、聞き覚えのある声がした。
「あっ、ここで合うのが百年目。お姉さんに映画をおごりなさい。なーんちゃって」
悪戯っぽい口調に振り向くとそこにはマリ先輩がいた。
私服のマリ先輩は制服とは違ってナチュラルだった。
生成りのブラウスにミモレ丈のグレーのスカート。オリーブ色のカーディガン。淡い色のストールがそっと先輩の肩を包んで守っているみたいだった。
お洒落だけれど、肩に力がはいっていない。
どんな年代の人でも着られる服装なのに、すごくマリ先輩らしさを引き立てていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます