第18話 ハッピーアイスクリーム
地方のショッピングセンターのコーヒーショップ。もとい、フラペチーノ屋さんは、なぜだかやたらと混んでいた。
マンガやテレビなんかだとさらっと入れるイメージなのに、行列ができている。
おそらく、ショッピングセンターの一画と言うことで場所が狭いのと、本来、駅前などで人がささっと入って休憩して出て行くことがコンセプトの店なのに、車で来てゆったり休んでいく人が多いせいだろう。
これではちょっと休憩の為と思ったのに逆に疲れてしまう。
だけれど、ここで店を変えるのもなんとなくかっこ悪いような気がする。並ぶのは苦痛だけれど、心陽が喜ぶ顔が見たかった。
だけれど列が進まない。
自然とため息がでる。
「ねえ、別なところにしない?」
心陽が俺にそっと囁いた。
ちょっと意外だった。女の子ならここのドリンクを写真にとってSNSにあげるくらい好きなものだと思っていたから。
「いいの?」
コーヒーを飲もうと提案したとき心陽が嬉しそうにしていたのに、その楽しみを変更してしまうのはためらわれた。
「だって、疲れちゃったらデートを楽しめないでしょ。今日一日を一緒に楽しみたいもの。こんなところで疲れちゃったらもったいないよ」
心陽の明るい声が耳に響いた。
優しい心遣いが嬉しかった。
ああ、心陽は昔からこうだったよな。さりげなく気遣いができて優しい。
俺が昔のことを思い出してじーんとしていると、
「そのかわり……」
そういって、心陽は別なお店で休憩することを提案してきた。
ちょっと意外な場所だった。
心陽が提案してきたのは、お茶屋さんだった。
このショッピングセンターには良く来るけれど、お茶なんて買わないので近くに行かないし、たぶん前を通っても関心が無いからとくに記憶にも残らなかった。
だけれど、心陽はそこで休憩が良いというのだ。
心陽がお茶を好きというのはちょっと意外だった。子どもの頃に、抹茶を苦いといって顔をしかめたのを覚えているからどちらかというとそのイメージが強すぎた。
俺は不思議に思いながらも並んでいたコーヒーショップの反対側にあるお茶屋さんに向かう。
緑茶にほうじ茶にやたらと甘そうなお菓子がならんだそのお店は僕たち高校生にはちょっとなじみがないというか、好みとは相反する商品ラインナップだった。
俺が不思議に思っている顔が見えるのか、心陽はいたずらっぽく笑う、その声が子どものころを思い出して心地よかった。
「ここのソフトクリーム美味しいんだよ。ほらあのお店の奥にポスターはってあるでしょ」
言われたとおりに店の奥の壁をみると確かにソフトクリームがメニューとして書かれていた。しかも三百円とやすい。フラペチーノ一杯で二人分買えてしまう。
「お金をはらったら、外のベンチで食べよう」
「そとにベンチなんてあったけ?」
「ふふふ、あんまり知られていない秘密の場所」
そういって、心陽はまた細々と俺に指示をだす。
行ってみると、確かに人気が無いけれど、こぎれいで椅子やテーブルがならんだ広場みたいなバルコニーがあった。
人気はないけれど、田舎の空がどこまでも広く見える。
真っ青な空に遠くに見える畑の茶色と緑。ああ、俺の住んでいる田舎って感じだ。
「こんな場所があったんだ」
「うん、ずっと変わらずにね」
歩いていないのでスマホをとりだすと、画面の向こうでは心陽がソフトクリームを持ちながらこちらに微笑んでいた。
今日の心陽は、やわらかそうなニットのトップスに膝丈のプリーツスカートという優等生っぽい服装だった。ただ、制服を来てるときと違って手首や鎖骨などの華奢な部分が見えて、バニーガール姿とは全然違う清楚な魅力に溢れていた。
「君はさ、覚えてる。私たち小さなころに約束したの」
そう言って、心陽はソフトクリームをぺろりとなめた。
俺もならって、ソフトクリームを一口たべる。抹茶とバニラのミックスだ。抹茶のさわやかな後味が甘すぎなくて美味しい。
心陽との約束はありすぎて、どれのことだか分からない。
俺たちは小さいころから一緒に過ごしていたから、約束は山ほどある。
「「あのさっ」」
被った。
「「ハッピーアイスクリーム」」
言葉が被ったときのお約束だった。
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