第14話 だからデートするんでしょ?

『「変じゃない……?」


 心陽は不安そうに俺をみつめる。

 今日は二人の初めてのデートだ。幼馴染みなのに初めてだなんて変な感じがする。子どものころはいつだって一緒にすごしたし、休みの日には買い物にも一緒に行っていた。親もいたけれど。


 だけれど、今日こうやって二人でデートするっていうのはなんだか変な感じだ。

 家が隣同士なのだけれど、なんだか気恥ずかしくて俺たちは家から一緒にでかけるのではなく、駅前で待ち合わせをした。


 待ち合わせってデートっぽい。

 そして、今日の心陽はすごくかわいかった。


 白の透けるような生地のミニワンピースだ。靴とバッグは赤。唇もそれにあわせて赤だった。普段学校でみる桜色の唇と比べると大人っぽくてドキッとした。』


「ダメですね」

「ダメか?」

「全然ダメダメです!」


 画面の中の心陽は手元の原稿用紙を見つめながら、俺にだめ出しをした。今日の心陽は紺のタイトスカートに白いブラウス。そしてメガネという女教師スタイルだ。


 今、画面の向こうの心陽は俺の書いた小説を読んでくれていたのだ。

 驚くべきことに、この画面の向こうの作りものの心陽はメールまで対応しているらしい。


 昨夜の会話のあと、アプリの中から何度もメッセージがきて発覚した。しかも、こちらもかなり自然に長文メールを送ってくる。


 人工知能ってこんなに発達しているのだろうか。


 そう思いながらも、作りものの心陽と何度もメッセージをやりとりした。

 最初は違和感でいっぱいだったけれど、だんだん慣れてくる。

 友だちに送るみたいに気軽に文章が書けるようになる。

 少なくとも画面の中の心陽に話しかけるよりはずっと気楽だった。


 その中で俺が趣味で小説を書いていると言ったら、心陽が(アプリの中の偽物だけれど)読んでみたいと言ってくれたのだ。

 正直、俺はめちゃくちゃドキドキした。

 バニーガール姿で胸の谷間が見えかけた時よりも。


「すごく面白い! ぜひ、出版社に送って本にしてもらうべきだよ。きっと大ベストセラー間違いないよ!!!!」


 心陽にそんな風にキラキラした目で言ってもらう瞬間をそうぞうしたのだ。たとえ、コピーだとしても本物に似せてあるのだから、きっと本物も気に入るはずだ。


 そしたら、前みたいに、いいや本を読むのが好きな心陽のことだ。前よりも親しくなれるかもしれない。

 そんな期待と興奮でどきどきした。

 しかし、画面の中の心陽のコピーときたら。


「全然ダメダメ!」


 と宣うのだ。

 大絶賛が来るかもしれない、いや、大絶賛と感動の嵐のはずだと思っていた俺はその冷たい反応にがっくりとうなだれる。


「いったい何がダメだっていうんだよぉ~」


 情けない声がでて自分でも嫌になるが、俺は画面の向こうの心陽に問う。


「まず、服装。ぜんっぜん、リアリティーがない。白い透ける生地のミニワンピ? アダルトビデオの撮影にでも行かせるつもり?」


 あ、アダルトビデオ!? 俺は本物の心陽の口からは一生聞くことがないであろうと思っていた単語を聞いて驚く。

 それに、白い透けるミニワンピのなにがおかしいんだ?

 だけれど、画面の向こうの心陽はまだまだ俺の心をぐさぐさと刺し続ける。


「それに、赤の靴に鞄。センスがない。口紅はそうね、赤でもいいけどバラのような紅とかもっとお洒落な感じがいいな」


 そういって、ほらと、自分の唇をそっと指先でなでる真似をすると、心陽の唇は本当にバラの色になった。薔薇色に染まった唇は想像していたよりも大人っぽくて艶っぽかった。

 こういうときに、仮想空間って便利だなと感心する。


 そのあと、心陽は俺の小説のなかで描いた初デートの服装を再現する。

 確かに、白くて透ける素材のミニワンピースというのは以外とエロいけど下品だし。真っ赤なバッグと靴をあわせると確かに無理矢理もたされているような不自然さがあった。


 たしかに、俺の文章にはリアリティーというものが、自分で思っているほどないのかもしれない。


「ほらね」


 と心陽は得意げに笑うけれど、その勝ち誇った顔は可愛いけれどムカついた。

 だけれど、女の子の私服にそんな詳しくないし。デートだって、俺は心陽一筋だから分からない。

 俺がそう愚痴ると、画面の中の心陽は


「だから、ワタシたちデートするんでしょ?」


 といったのであった。

 画面の向こうの心陽は優しいのか残酷なのか俺には分からない。

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