第13話 その服なんとかならない?

「さてと、じゃあ。ワタシのことをどこにデートに連れて行ってくれるの?」


 画面の中の心陽はバニーガール姿のまま上目遣いでこちらをみつめる。心陽のほうが上目遣いになるのせいで、こちらの画面のほうがちょっと上からのアングルになるのか、胸の谷間がよくみえるようになっている。

 本物じゃないからって、ちょっとサービスしすぎじゃないだろうか。


「あのさ、その……洋服って着替えられるの?」

「えっ、着替えるところみたいの? それって裸……のび太さんのえっち!」

「いや、そうじゃなくて。その普通の洋服とか着られないかなって。その格好はちょっとなんというか……」

「気に入らない? 似合わないよね……」


 画面の中の心陽はしゅんと落ち込んでいる。


「いや、似合ってるよ。すごく可愛い!」

「ありがとう♡」


 心陽はお礼をいうと笑った。まるで花が咲いたみたいに、まわりがぱあっと明るくなって春風が吹いたような気分になる。温かくて子懲りよくて、ふわふわとした気分になる笑顔だった。


 学校中のみんなが心陽の笑顔ひとつで動くのが分かる。

 だけれど、この状況はだめなんだ。俺は必死にそのまま心陽の笑顔に流されないように言葉を紡ぐ。


「でも……」

「でも?」

「ちょっとエロすぎるというか……」


 こんなにエロくて可愛い格好の心陽を俺以外の誰かにみられるのは嫌だと思った。


「エロすぎるって、ワタシがはしたないってこと?」

「そうじゃなくて」

「でも、エロすぎるって。心陽のこと痴女だと思ってるの……」

「いや、エロいけど可愛いけど……でも……」


 俺がしどろもどろになる。

 心陽の目をみると潤んでいて今にも泣きそうだ。だけれど、俺はなんていって分からなくて、もごもごと言葉が喉のあたりでつまるような感じがする。


「はいはい、ストーップ!!!!!」


 心陽は口の前に指でばってんを作る。

 さっきまでの泣きそうな姿が嘘みたいだ。

 その態度のあまりの変わりように俺が唖然としていると、心陽はテレビにでてくる予備校の講師のように、ビシッと指を立てる。


 あっ、ちょっと受験前の心陽を思い出す。

 俺に勉強を教えてくれたとき、こんな風にちょっとテレビでやっている塾の先生みたいな感じだった。その真面目すぎるようすがちょっとおかしくて、いつも笑いを堪えるのが大変だったんだっけ。


 それに、実はあの時は俺のほうが勉強は得意だったんだ。

 今は心陽の方が学校の成績はいいけれど、あの頃は俺の方が勉強がとくいだった。

 人に教えた方が勉強とかはできるようになると心陽がどこからかきいてきて、あの勉強会は始めたんだっけ。


「あのですね。女の子の服装を変とかエロいとかそんな単純なことばで指摘しちゃダメなんです。女の子はいつだってお洒落しているんですがら。エロいからその服やめろとかいっちゃダメなんです!」


 人差し指を俺の鼻先につきつけて、びしっとキメ顔をしている心陽。なるほど。確かに。

 言っていることはまともだ。

 でも、バニーガール姿でキメ顔でいうのはちょっと恥ずかしくないのではないかと思うのだが……。


「そう、男の人はこういうところで失敗しがち。無神経に女の子の気持ちを傷つけてしまうのです。そこで、ワタシの存在です。ワタシと会話の練習をすれば心陽さんとの会話の予行練習ができるのです♡」


 なるほど、こうやって練習を重ねれば、疎遠になった幼馴染みの心陽との会話の練習や予測ができて自然に話せるようになる。そうすれば、また前の用に話せる訳になるのか。

 疑問はまだまだ残るけれど、俺は画面の向こうので微笑む心陽に見とれてしまった。

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