第12話 疎遠になった幼馴染と再び仲良くなる方法

「ワタシはあくまで仮想空間上に作られた、心陽さんなのです」


 画面の中の心陽はそう言って、説明を続けた。

 簡単にいうと、今この画面の中にいる心陽は俺の入力したデータによって作られた存在ということだった。


「データなんて入力した覚えがないんだけど……」


 俺が困惑していると、画面の中の心陽は丁寧に説明してくれる。


「うーん。でも、ですね。〈俺〉さんが、アプリをダウンロードされて、データを入力しないとここまで出来ないはずなんですけど。そうだ、ホームにもどって、アプリを確認してみて下さい。ハートのアイコンのやつですから」


 言われた通りに、俺はホームにもどる。すると、確かに見覚えのないアプリが一つ追加されていた。

 このまま、アプリを消してしまおうかと思った。


 だって、変じゃないか。有り得ない。たとえ、俺がなにかしらデータを入力したとしても、データだけでこんなに精巧に再現できる訳がない。


 だけれど、俺はそのアプリを消すことが出来なかった。

 画面の中の心陽があまりにもリアルだった。

 消すことなんてできない。


 俺は再びスマホを操作して、再び画面に心陽を映し出す。


「ね、分かってくれた?」


 画面の中の心陽は腰に手をあてて、得意げだ。

 ああ、子どもの頃の心陽にはこんな癖があったなと思い出してくすっと笑う。あの頃は心陽と毎日一緒だった。

 家が隣で年も同じなら一番の遊び相手は決まっていた。

 家族同士の中も良いし。お互いの家を自由に行き来していた。


 心陽のことは何でもしっているつもりだった。

 なのに、いつの間にか俺たちの間には距離ができていて……。

 しんみりとそんなことを思い出していると、


「じゃあ、はじめよっか♡」


 と心陽は俺をびしっと指さした。


「はじめるって何を?」

「ワタシとのデート」

「デート?」


 どういうことだろう。

 デートって、いくら画面の向こうに大好きな幼馴染みのコピーがいるとしてもそのコピーとデートなんて馬鹿げている。


「もうっ、理解が遅いですね。頭の悪い人はモテませんよ」


 そう言って、画面の中の心陽はため息をつく。ちょっとだけいらつく。

 でも、小学校高学年のころの心陽はたしかにこんな風にちょっとだけ人を上からみる瞬間があったなと思い出す。

 今、思い出すと子ども特有のちょっと背伸びした態度だってことが分かるけれど。


「デートって、君とデートして一体何になるんだ? 所詮、再現された心陽のデータの塊なんだろ」

「ワタシとデートするということは本物の心陽さんと話す練習になるのです。しかも、ワタシ相手なら失敗してもやり直しができるんです。すごくないですか?」

「つまり、疎遠になった心陽と再び仲良くなる手伝いを君がしてくれるってこと?」

「あなたの努力次第です」


 そういって、画面の中の心陽はにっこりと微笑んだ。

 それは彼女が学園のアイドルといわれる要因のひとつである非常に魅力的な微笑みだった。

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