第5話 情報登録

 奇妙な夢をみた。


 真っ白な四角い部屋の中にいる。

 そこで、どこか作りものめいた女の子の声が話しかけてくるのだ。

 俺はその質問に無意識に答えていく。


 ――あなたは好きな人がいますか?

 ――あなたの恋愛対象は?

 ――あなたは気になる人がいますか?

 ――あなたの初恋の相手を覚えていますか?

 ――好きな人の年齢は?

 ――好きな人の住んでいる地域は?

 ――好きな人の趣味は?

 ――好きな人の部活は?

 ――好きな人の得意科目は?

 ――好きな人の出身校は?

 ――好きな人の身長は?

 ――好きな人は誰に似ている?

 ――好きな人の血液型は?

 ――好きな人の将来の夢は?

 ――好きな人のあだ名は?

 ――あなたの好きな人の名前は?

 ――あなたが愛しているのは〈心陽〉さんで間違いありませんね?

 

 もっと他の質問もされたが書ききれない。

 なんて、現実なら絶対に誰にも答えなような質問が矢継ぎ早に浴びせかける。というか、普通ならたとえ好きな人がいたとしても相手の情報をこんなにたくさん全て知っている訳ないだろう。

 だけれど、俺は答えることができた。


 だって、心陽とは子どものころから一緒に育っているし、心陽のようにまっすぐで芯のある女の子の夢や嗜好はそんなにすぐに変わってしまう物ではないから。

 質問に答えるのはたやすかった。


 それにしても変な夢だ。

 夢をみるということは記憶の整理をしているらしいけれど、俺は心陽についての記憶を整理する必要なんてあるのだろうか。


 それとも、久しぶりに心陽と言葉を交わしたのに、心陽は俺のことを忘れてしまっていたことにショックを覚えたせいなのだろうか。


「以上で、登録は完了しました。これからサービスが利用できます。お疲れ様でした」


 ピロリンッ♪


 そんな言葉と電子音で俺は目を覚ましたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る