第4話 スマホでなら幼馴染との恋も書けるかも?
「お礼がしたい」って言いながら、心陽からの連絡はこない。
スマホが何か通知でふるえる度に、心陽からの連絡なんじゃないかって期待してしまう自分が嫌だった。
そして不審なことが一つ。
迷惑メールが来るようになったのだ。
変なサイトに登録したり、あやしいアプリなんていれてないのに。
どういうことなんだろう。
しかも、その文面の言わんとすることはだいたい一緒だ。
『運命の人と結ばれたくないですか?』
『人生でもう一度、やりなおしたいことはありませんか?』
『初恋って覚えてますか?』
なんで、全部疑問系なんだよ。
でも、恥ずかしながら俺はこの疑問系怪メールをみて、心陽のことが頭に浮かんだ。
心陽ともう一度、昔みたいに仲良く出来たら……普段は見てみないふりをしている自分の気持ちを見せつけられているような気分になった。
しかし、俺だって常識がある。
そんな明らかに妖しげなメールはクリックしない。
そんなことを悩んでいるよりも、小説を書かなければ。
最高に可愛い幼馴染がいて、その子を幸せにできる小説を。そんな小説が書ければ、俺と同じような気持ちの誰かを救うことができるかもしれないから。
勇気のない俺と違って、誰かがその小説を読んで一歩踏み出せるかもしれないから。
けれど、俺は結局、その日も小説を書き進めることはできなかった。薄暗い部屋にただパソコンの青い画面の窓がぼんやりと光り続けるだけ。
どうして書けないのか分からない。
本当はもっと書けているはずだった。
俺は自分のことは救えなくても誰かを救える物語が書けるはずだった。楽しくて、誰かに勇気を与える小説。
俺はそんな小説を書くはずだったのに……ふてくされた俺は、深夜、ベッドに潜り込む。
眠いけれど、中途半端に冴えた頭で俺はスマホでの執筆を試みる。
そうだ、最初は幼馴染みになにかメッセージを送るところからはじめたらどうだろう。
そうすれば、みんな慣れているし読みやすいかもしれない。
現役高校生だからこそ書ける物ができるかもしれない。
天才だ。
限りないリアリティー。
そうだ。実際に自分がやりとりしているメッセージをみたらもっとリアルにかけるんじゃないか。
そう思って、俺はいろんなアプリやメールを開く。
ああ、書ける。
俺ってやっぱり才能があるのかもしれない。
もしかして、この処女作で小説家デビューしちゃうかも?
現役高校生作家として有名になっちゃうかも。
書ける、書ける、書ける。
あれっ、パソコンよりスマホの方がこんなに書きやすかっただなんて。
すごい、指がするすると動く。
パソコンの上では亀以下だったのに、スマホだと自分が蛸になったのかといや10本だからイカの方がいいか、イカになったのかと思うほどするすると指先が動き指が物語を紡いでいく。
しかし、自分の指の動きの方が速くて、うっかりと他に開いているアプリなんかを誤タップしてしまうこともあるくらいだ。
というのは夢だった。一点を除いて。
翌朝、俺は『久しぶり』だけ入力されたメモ画面を見て絶望する。
なんだ、小説がすらすら書けたというのは夢だったのか。
俺は、呆然としながらも、まあそうだよね。そんな上手くいかないよねと半ば自嘲しながら、学校に行く支度をしたのだった。
ただ、例の奇妙なメッセージのアプリをダウンロードしてしまったことなど気づかずに。
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