第二章 怪人ミス・マッスル

第4話 20年ぶりの再会


 俺はただ走った。裸足で。

 達也の声がする方へ。


 大雨の中、マッチョな銀髪の男が猛スピードで走ってから、かなり目立つ。

 だが、それよりも俺は彼のことで頭がいっぱいだった。

 というか、頭の中に鳴り響く悲鳴が、うるさくて仕方ないんだ。


(うわあああ! や、やめてくれぇ! た、頼むからぁ!)


 達也の叫び声がどんどん大きなくなる。

 きっと、彼に近づいているのだろう。

 それにしても、一体なにをされているんだ?

 酷い拷問にあっているみたいだ……。


『少年。どうやら達也くんが近くにいるようだな。‟縁センサー”が私にも強く感じるぞ』

「なんだその、ダサいネーミング」

『私が今つけた名前だ』

 こいつ、本当にヒーローだったのか?



   ※


 たどり着いたその場所は、俺の通っていた中学校。

 真島中学校だ。


 中学1年生の時に、俺は運動会の練習中にウンコを漏らしてしまい、学年中の生徒たちにからかわれて、いじめられて、不登校になった。

 悪い思い出しかない、いわくつきの建物に近づくなんてな……。

 だが、今の俺は‟変身”したスーパーヒーロー、ミスターサンダーの2代目だ。

 あれ? ミスターサンダーって名前引き継ぐの嫌だな。

 ダサいもん。


『おい、少年。君の思考は私にも伝わっているのだぞ!』


 ヤベッ、激オコじゃん。

 ビリビリおじちゃん。


 俺はとりあえず、正門をひょいっと乗り越えて、校舎に入っていく。

 悲鳴はどうやら体育館の方からだ。

 スーパーパワーを手に入れたと言っても、俺はそんな御大層な志なんて持ってない。

 正直、怖い。

 相手が人間なのか、はたまたテレビで見たような怪人か……。



 体育館の扉を開こうとしたが、手が震えてなかなか動かない。


『少年。大丈夫だ、私がついている。それに君が思っている以上に手に入れた力は、とても強いものだ』


 情けねぇ。こんなオワコンヒーローに気を使われるとは……。


「わーってるよ!」


 俺は勢いよく扉をガンッ! と左右に開いた。

 するとそこには驚愕の光景が……。


「なっ!」


 目も覆いたくなるような悲惨な光景。

 体育館の中には、何十人もの若いピチピチで中性的な美男子が、真っ裸にされて、縛られていた。

 バスケットゴールに吊るされたり、 跳び箱に縛られたり……。

 男の俺からすると、とてもエグい現場だった。


「あらぁ! あなたもなかなかのイケメンねぇ♪」


 そう言って、体育館の中央に立っていたのは一人の大男。

 俺に負けず劣らずのガチムチマッチョで、身長は2メートル近い。

 だが、そんなことよりも気になるのは、彼の服装だ。

 ピチピチのセーラー服を着ていて、しかもミニ丈。

 おまけにニーハイを履いているという絶対領域を展開していた……。

 キモッ!



 こいつは怪人ではなく、ただの変態事案では?


『少年よ。これは間違いなく、怪人の一人だ……気をつけたまえ』

「うそぉ……」



「あっ! ちょうどいいところにきた! 助けてくれぇ!」


 そう叫ぶ男は、俺が唯一、親しい友と言える存在、松田 達也その人であった。

 残念ながら、彼も裸で身体測定機にしばられており、下のタツヤくんがこんにちはしている。

 もちろん、へなちょこ姿で……。

 まさか、20年ぶりに再会した友のおてんてんを拝むことになるとは。

 しかし達也って、割とイケメンなのに、下は低身長なブサメンなのな。


「うふふふ、たっぷりと可愛がってあげるわぁ。た・つ・や・さん♪」

「嫌だぁぁぁ! やめてくれぇ!」



 帰ろうかなぁ。

 なんか来ちゃいけないところに、来ちゃったていうか、俺ってば、お邪魔じゃない。


『少年、ダメだ! ちゃんと戦闘を経験し、捕まった人たちや友人である達也くんを無事に助けるのだ! それが君の初めての救いだ!』

「……はぁ」



 とりあえず、俺は拳を作って、叫んだ。


「おい、その人たちを離せぇ!」


 こんなんでいいのか、ヒーロー業って……。


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「ヒキニートヒーロー ~34歳でチートスキル覚醒~」 味噌村 幸太郎 @misomura-koutarou

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