誰もそこにバラエティを求めてはいない

 ジンキ達は連日、休みも挟まずにD級の依頼を受け続けた。

 D級依頼は採取依頼と配達依頼が主な仕事だ。

 とはいえC級以降の依頼もそう大した違いがあるわけでもない。

 討伐依頼があるだけで他は難易度に上下が存在するのみだ。

 なのでジンキ達は特に苦労する事もなくD級依頼をこなした。

 採取関連の依頼には最初こそどこで取れるのかと梃子摺てこずる事もあったものだが数を熟す内に知識は自然に身に付くものだ。

 さて、D級の依頼を問題なく難なくと達成してきたジンキ達ではあるが、それだけでC級に上がれるのならば世の中はC級冒険者に溢れる事だろう。

 そうなれば信用もへったくれもないので、当然条件が設けられていた。

 そして、現在ジンキ達はその内の1つである盗賊の退治に出向いていた。

 なんでも近くの洞窟を拠点に活動している盗賊がいるらしいとの事。


「んで、小規模って事らしいんだけど……アレじゃないよな?」


 その道すがら、盗賊に追われている商会を目撃してしまったジンキ達。

 しかし、どうにも目的の盗賊ではない事をその規模から察したらしい。

 1つの馬車を追う中規模の盗賊が目の前にいた。


「別……だと思うけど、ジンキさんずいぶんと暢気だね?」


 そういうメラニーだが気持ちはわからないでもない。

 1つの馬車に対して中規模の集団が襲う様を見るのは随分と効率が悪いように思えた。

 実利的にも作戦的にも……。

 あと、それ以上に気になる事があるようだ。

 フランは顔しかめる。随分と嫌そうな顔だ。


「できれば関わりたくないなぁ……」

「コメディ臭がハンパないよな」


 相手の盗賊達を眺めてジンキもまた同意する。

 メラニーはよし、と頷きその場の方針を決定した。


「……ここは一貫してシリアスを貫くよっ! 初の盗賊退治がこんなコメディに負けちゃいけないと思う! ここは私達のシリアスに引っ張られてもらうよ!」

「「おう!!」」


 既にコメディである。

 絵面は完全に劇画である。

 しかし、彼等に自覚はない。真剣な面持ちで必死の形相で盗賊達から逃げている馬車に近づく。

 するとジンキ達に気が付いたのか声を張り上げて助けを乞うた。


「助けてくれぇ! と、盗賊に追われてるんだっ!」


 言われるまでもないとその間に立ち、ジンキは応える。


「任せろ!」

「私達がお守りします!」

「盗賊なんて脅威でもないよ! この、メラニー、フラン、ジンキのフェベレルお助けトリオならねっ!」

「め、メラニーっ!?」


 早速登場から失敗しているが過去は取り戻せない。ジンキは冷や汗を流しながら相手の出方を見る。

 盗賊達もいきなり現れた冒険者に戸惑いを感じられる。

 そして、その集団の後方から1人の男が現れた。

 ジンキは改めて相対する盗賊達を眺め、やっぱりかと吐き捨てた。


「クソッ! どいつもこいつも無駄にかっこ良過ぎる! なんなんだこのイケメンの集団はっ!?」

「本当に無駄にイケメン……イケメンの無駄遣いだよ、これ……」

「えとえと、強面系、可愛い系、クール系、インテリ系に盗賊らしいワイルド系っ!! まだまだいるじゃん。バラエティ豊か過ぎるよっ!」


 近くでその集団を眺めてやはりと驚愕する他なかった。最早、3人でもツッコミが追いつかないレベルの光景だったのだ。

 シリアスとか言っている場合ではない。

 それはまごうことなきコメディ要素を詰め込められた集団である。

 そんな見え見えな要素に易々と染められて溜まるかと意気込んだが、近くで見れば見る程無駄にイケメンが主張してくる集団だった。

 しかし、相手は盗賊である。相手をしないわけにもいかない。

 相手も黙っているわけもなかった。


「おい、そこを退け、冒険者。ソイツはよぉ、俺らの獲物なんだ。邪魔すんじゃねぇ」


 強面系のイケメンが凄んできた。

 その雰囲気だけでまるで物語の主人公がこれは俺の戦いだと吠えているかのようだ。


「そういう訳にもいかねぇよ。困ってる奴がいたら、それも盗賊に襲われているとなったら助けない訳が、ないよなぁ?」

「あのヤンキーのように挑発している顔……ジンキさんが悪役に回った……っ!?」


 メラニーがジンキの対応に困惑する傍らでフランは何事かを考え込み、口を開く。


「あれはジンキ君が嫉妬に狂いそうになるのを必死に抑えている表情ねっ!」

「ジンキさんってなんだかんだ器ちっちゃいよね……」

「…………」


 聞こえているので是非ともやめていただきたいジンキである。

 しかし、相手も黙っているわけもない。


「ハッ! 所詮は冒険者よな。こうなりゃ実力行使だ! 行くぞお前ら!」

『おう!!!!』


 盗賊達は数の有利を利用して馬車を取り囲むように襲ってきた。妙に統率が取れているのがまた厄介だろう。

 ジンキは舌打ちを1つ、そしてメラニーとフランに指示を飛ばす。


「メラニー、フランは魔創で馬車に近づかせないようにしろ! 俺は遊撃に徹する! 隙があれば援護を頼む!」

「まっかせてよ!」

「え、馬車は逃した方がいいんじゃ?」

「フランちゃん、これ以上無理に走らせたら車輪が壊れちゃうよ」

「そういう事だから頼むぞ!」


 そうして、思えばジンキ達にとってこの街に来て初めての戦闘だ。それも対人である。

 それにしては冷静に指示を飛ばせたのではないだろうか。状況判断もまたなかなかに的確だったように言えよう。

 人数差こそ考えられていないが、それを上回る質があると仲間を信頼した結果である。

 ジンキの落ち着きはおそらくあの村での経験があったからこそだ。そう思えば感慨深いものを感じないでもないだろう。

 メラニーもフランも感傷に浸りたいものだが……。


「オラ、行くぞお前らァッ!」

「どけや冒険者共!」

「僕を止められるかな?」

「大人数で掛かるのは趣味じゃないんだがな……」

「いやいや……唆るよなぁ〜?」

「これだから脳筋は苦手なんだ」

「こんな日もあるよね」


 聞こえてくる盗賊達が各々の武器を持って戦いに臨まんとする前口上。

 盗賊達はそのまま突撃していく。さながら物語の主人公達がクロスオーバーして共に戦うかのよう。


「……すごく様になってるのが悔しいんだけど……っ!」

「私達悪いことしてないよね?」


 メラニーが悔しそうに歯噛みして、フランは己を疑い出した。

 そんな中ジンキは奮闘する。


「お前らしっかりしろよ! コイツら意外と強いからな!?」


 拳を振るい相手を吹き飛ばしながら言うジンキ。


「仕方がないなぁ〜、まったくっ! では、ご期待にお応えして……ほっ!」


 メラニーは自信満々な笑みを浮かべて両手を腰に当てながらダンッと片足で地面を打ち鳴らす。

 瞬間、ボッと火球が5つ生成された。

 彼女はそれを巧みに操り盗賊達の牽制とジンキの援護を行う。

 フランもまたそれに続こうとするが……。


「……なんか妙に距離取られてない?」

「うーん、私の火球を警戒するにもちょっと過剰だよね〜」


 それに比べるとジンキへの対応は普通だ。

 ジンキの言う通り一筋縄ではいかない者ばかりであり、うまく数を減らせていない。

 その時、1つの声が戦場に響いた。


「お前ら、なにをしている」


 盗賊達の後方から、悠々とそして堂々とした声と歩みで近づいて来る男。

 彼は立ち止まり、全体を見回す。

 誰もが彼に注目をしていてジンキ達もまた例外ではない。

 背はジンキよりも大きく、身体は鍛えられているが細く絞られている。

 目の彫りが深く、眉も整っているためか少しばかり厳めしくも凛々しい顔つきだ。

 実直そうであるが人を寄せ付けないという雰囲気ではない。むしろ、幾らかの親しみを感じられるぐらいである。

 格好は軽装だが、防具としては上質な方だろう。他の者達も格好は様々だがやはり粗悪品を身につけている者はいないように見える。

 もちろん彼等の技術もあるのだろうが、ジンキが殴り飛ばして未だに立てる者がいるのがその証拠だ。

 剣を腰帯に差しており、なにを武器にしているのかは一目瞭然だ。

 彼はもう1度、同じ問いを繰り返した。


「なにをしているんだ」


 否。問ではない。

 彼の言葉に答えを求めている雰囲気はない。

 盗賊達は声を揃えて同じ言葉を発した。


『隊長ッ!!』

「「「隊長?」」」


 一拍遅れてジンキ達も盗賊達に続いていた。

 盗賊ならお頭あたりなのだとばかり思っていたジンキ達にしてみれば意外性があったのだろう。

 それとリーダー格が不在だったという事にも驚きがあった。


「なるほど。冒険者が邪魔をして、まだとっ捕まえていなかったのか」


 事情を仲間から聞いたのだろう。

 彼はジンキと対峙する。


「冒険者、我々の邪魔立てをするなら容赦はしない」


 ジンキは鼻を鳴らし、応える。


「ハッ、盗賊風情が騎士ごっこか? かかってきやがれ!」


 ジンキは吠える。

 こんなイケメンに良い所を持っていかれてたまるかといきり立つ。


「言ってくれるではないか。まあいい。だが——」


 男は腰を落とし、手を剣の柄に置く。

 ジンキもまた体を半身にしてスーワイア達に渡されたシルクグローブにも似た黒いガントレット、《侵磨しんま》の状態を確かめると構えをとった。


「我が名はレンドル・フリーグ。この『貴狼団きろうだん』をまとめる男。そして、貴様を打ちのめす男だッ!」


 額に青筋を浮かべながらジンキへと攻撃を仕掛けた。

 ……存外、短気な男である。



 レンドルの実力は貴狼団のトップということもあり、かなりの実力者だ。

 それは最初の一撃でジンキ達に否応なく理解させられた事実である。

 10メートルはあっただろう距離を一瞬で縮めて見せたその踏み込みにはしっかりと力強い足跡が残されていた。

 一瞬目を見張るジンキだが敵を見失ったわけではない。

 横薙ぎに振るわれた一閃を上体を大きく逸らす事で回避する。

 そんな隙だらけの回避にレンドルは蹴りをお見舞いする。


「ぉっとっ!」

「——っ!?」


 しかし、ジンキはそれを同じく脚で防ぐ事により、その反動を活かして距離を空ける。


「騎士っぽくない戦い方だな」

「合理的だと言ってくれ」


 軽口を交わしながらも幾らか冷静さを取り戻したレンドルは考える。


(強い……)


 強い。そう強いのだ。しかし、何か違和感を覚える。


(試す他ないだろう)


 レンドルは再び地面を蹴り、距離を詰める。

 再び横薙ぎの一閃。

 しかし、ジンキは先程とは違いしゃがむ事で回避し、そのまま拳を振り上げた。

 それをレンドルは剣の腹で素早く防ぐ。

 まるで金属同士が打ち合ったかのような音が響く。

 しかし、それに留まらず視界の片隅に顔面に迫る回し蹴りを認識し、顔を後ろへ逸らす事でそれを躱す。

 跳躍しながらの背後回し蹴りだ。ジンキとしては完全に不意を突いたと思っていただけに少し悔しそうだ。

 振り抜いた蹴りは勢いよく地面に叩きつけられ小さなクレーターが出来上がっていた。


(柔軟性、バネ、反射速度、パワー、目も良いな……それに)


 他にもいろいろとありそうだ、とレンドルは顔に一切出さず思う。

 そこに焦燥は無く、至って冷静である。

 彼は口を開く。


「凄まじいな……特にその身体能力。並外れている」

「だろ?」

「素直に認めよう……だが未熟だな」


 そう言われてピクリと浮かべていた笑みにヒビが入る。

 自覚していただけに指摘されて苛立ったのだろう。


「まあいいや。んじゃ、こっからは遠慮なくいくぞ!」


 するとジンキは魔力を全身へと隈なく巡らせることで、身体能力を更に飛躍的に向上させる。両手にも魔力を送り、練り始めた。

 魔力は可視化されていき、禍々しくも美しく見えるその黒い魔力は滲み出るように手へと纏わりついていく。

 そして、改めて自身の未熟さに歯噛みする。

 魔力のコントロールが上手くいっていないのだ。頭の中で思い描く形とは大分異なっている。

 自身の身に付けている武具侵磨をまるで扱いきれていない。

 見た目こそ薄い布手袋であり、およそ武具としての価値を見出せないが、コレはスーワイアとミネアレがジンキの魔力を参考にして作ったジンキ専用の武具だ。

 その代物がただの布手袋のはずもない。

 扱い方次第でどんな攻撃も受け止められるし、そこから繰り出される攻撃もまたいくらでも増幅させられる。

 その柔軟性も堅硬さも見た目からは想像もできないほどのポテンシャルを有している。

 だからこそ、今のただ無駄に魔力を大量に垂れ流して、辛うじて形にしている状態がたまらなく悔しいのだ。

 とはいえ今は切り替えざるを得ない。

 魔力量で多少威圧できればと期待する。

 しかし、驚きはあれどレンドルの冷静さは未だに崩れる事はなかった。


「凄まじい魔力量、それに黒い魔力か。初めて見るが……問題はない。参るッ!」


 先に動いたのはまたしてもレンドルだ。

 ジンキの懐に入ると同時にダンッと力強い踏み込み、だが剣は振るわれるには至らなかった。


「ワンパターンなんだよ!」


 ジンキがその踏み込みに反応して更に近付いたからだ。

 そのまま攻勢に出ようとしたジンキだが視界の端に銀の輝きがチラついた。


「——なっ、クソ!」


 すぐさま無理矢理手でキィンと音を奏でて小さく逸らし、距離を空ける。

 迎え撃とうとした立場がいきなり逆転していたのだ。ジンキはなにがあったのかイマイチわからなかった。


「やはり、未熟だな」

「…………」

「どうした、来るんじゃないのか? ならばこちらから行かせてもらおう!」


 身体能力という面では大きく優っているはずのジンキは劣勢の状況に追い込まれることとなった。


「わかりやすく誘われたねぇ」

「ジンキくんはまだ経験が浅いから……」

「そう言えば私達とも手合わせらしい事もしなかったもんね〜」


 ジンキがワンパターンだと称したあの一太刀。

 ワンパターンなどとんでもない事である。今までと僅かにだが間があったのだ。

 その間は言わば隙である。それにジンキは見事に引っ掛かって見せたのである。

 そのわかりやすい隙にレンドル自身、引っ掛かったという事実に驚いてはいるのだ。

 そこでジンキの経験の乏しさが露呈した形である。

 ジンキは徐々に追い込まれていく。

 ジンキの戦闘力は決して低いわけではない。相手であるレンドルがそれ以上なのだ。

 しかし、ここで不思議なのがメラニーとフランの態度である。

 別段、慌てる訳でもなく冷静に2人の戦闘を見守っていた。

 それは単に貴狼団の人達が攻めてこないから、という訳ではない。

 もちろんそれもあるだろう。

 しかし、もっと根本的な所で彼女らは悠長にしていた。


「そもそも、敵じゃないんだよね……」

「勘違いしてたなんて恥ずかしい……」

「いやいや! あれはしょうがないでしょ、フランちゃん!」


 2人の会話の通りである。

 そして、その声が聞こえたのだろう。

 不思議な事に無音になった瞬間に聞こえてしまった会話だ。

 一か八かの賭けに出たジンキの反撃とそれでも尚、それを迎え撃とうとしていたレンドルの動きが同時に止まった。

 至近距離で暫し見つめ合い……。


「……?」

「……?」


 共に首を傾げ、どういう事? さ、さぁ? と目で通じ合う。

 2人して顔だけメラニー達の方へと向ける。


「「……え?」」


 メラニー達の背後を見れば貴狼団から逃げてきた男が縄で縛られた状態になっている。

 レンドルからすれば目的が達成している状態である。

 その周りには貴狼団の人達が談笑しながらジンキとレンドルの戦闘を眺めながら「隊長やっぱ強ぇなぁ」などと観戦モードである。


「おい、貴様ら……ッ!」

「説明はあるんだろうな?」



 知らない人に追われれば逃げたくなるように大人数が少数を追えば条件反射で襲っているように思うのは当然だろう。

 助けを求められれば尚更だ。

 ジンキはレンドルに手を差し伸べて謝罪を口にする。


「まさか人攫いだったなんて……。早とちりしてすみません」

「あの状況だ。勘違いしても仕方がないだろう。それと互いに戦った仲なんだ、今更敬語はやめてくれ」


 レンドルもまたジンキの手を取ると僅かに笑みを浮かべ、そう答える。


「それもそうか。これもなんかの縁だし何かあったら頼ってくれよ! 俺はともかくアイツら2人は俺よりも強いし役に立つぞ」

「ふむ、君よりもか。それはなかなか——」


 ジンキに促されフランとメラニーの方へと視線を移すレンドル。

 そこには自分の部下と談笑をしている姿があった。


「め、メラニーちゃん! 今、か、彼氏とかいるのかな!?」

「募集中だったりするかも〜?」

「な、なら俺と……」

「お前では彼女の相手は務まらんだろう。どうだ私と」

「えへへ〜、どうしよっかなぁ」


 勿体ぶった言動で手玉に取ろうとしていた。表情もどことなく嬉しそうである。

 メラニーがイケメン達に囲まれていた。というか口説かれていた。ジンキの笑顔にヒビが入る。


「フランさんはなんだか苛めたくなる雰囲気があるなぁ。よく苛められたりしてない?」

「え、えと、気のせいだと思うから苛められてないよ!」

「そ、そうか。まあ、この話はまあ、置いておこうか……」

「なんで悲しそうな表情で見るのかな!?」

「まあまあ、フランちゃん! そんな奴のことよりも俺と話をしてくれよ」

「え、う、うん……」

「……今何色のパンツを履いてるんだい?」

「へ、変……態ッ!?」


 フランは遊ばれていた。コロコロと表情豊かに変化させ、面白がられている。

 部下達が手玉に取られている、とレンドルの笑顔にヒビが入った。


「なかなか心強そうだ……。しかし、そのなんだ、いいのか? 我等はこれでも盗賊だぞ。君達は冒険者なんだろう?」


 わかりやすく話を逸らす事にしたレンドル。お互いにロクな事にならないと察したのだろう。

 しかし、気になっていた事でもある話だ。

 ジンキはもちろんだと頷く。


「盗賊って言っても義賊だろ? 俺は気にしないしなんなら今回は目的の盗賊がそもそも違うから問題ないよ」

「それなら良いんだがな。しかし、盗賊となると最近できたあの洞窟を拠点にした奴らか……。フム、君達なら問題はないだろう」

「お、そう言ってもらえると頼もしいな」

「なに、事実だ。……さて、いつまでもこうしてはいられんな。君達も早く依頼を達成させたいだろう」

「だな。少し名残惜しいけどまたな。俺はジンキ、改めてよろしくな」


 共に手を取り握手を交わす。

 少し特殊な立場の友にジンキが巡り合えた瞬間だった。


「ああ、私はレンドルだ。また会おう」

「またな。……おーい、フラン、メラニー! 行くぞー」

「はーい! みんなまったね〜!」

「私は絶対に諦めないから! いじめられない立場を確立して——」

「「それは無理」」

「ひどいっ!?」


 フランの覚悟も虚しくジンキ達に全否定される。

 レンドル達はそのコントのようなは光景に笑みを零し、各々別れを告げた。

 去り際にレンドルはこんな事をジンキに提案していた。


「ジンキ、洞窟までの案内は必要か? 実は我等もその内、奴等を倒そうとは思っていたのだ」

「いや、大丈夫だ。自分達だけでこの依頼をやらないとランクも上がらないからな」

「そうか。ならば、武運を祈ろう」

「レンドル達もな!」


 貴狼団の人達は捕らえた男を連れて馬車を走らせながら去って行く。

 馬車の中で捕まっていた女子供達は馬車の中から大きく手を振り、感謝を述べていた。


「どちらかと言うと邪魔した側なんだけどなぁ……」


 手を振り返し終えて複雑そうな顔で言うジンキにメラニーが答える。


「結果的には闇奴隷商人を足止め出来たんだからいいと思うけどなぁ」

「つっても残党だろ? しかも時間の問題だったと思うし」

「予定より早く片付いたから良いんだよ! ジンキさんはやっぱりめんどくさいなぁ……」


 終わり良ければ全てよし、と言うメラニーにジンキ自身賛成ではあるが、感謝される程でもないと思ってしまうのだ。

 ちょっとしたエゴではあるのだろうが、やはり求めすぎと言うものだろう。


「今更だけどジンキさんはあの人達を捕まえようとは思わなかったの?」

「特に思わなかったな……意外?」

「ちょっと意外かも。悪い事は悪い事だって突っ込んで行くのかと思ってた」


 メラニーは言葉通り意外そうに頷いて見せた。

 フランも続く。


「やっぱりダークヒーロー的魅力があったから?」

「フランお前、あの集団はどこからどう見ても光側だぞ……」

「よ、容姿はともかく! 義賊って立場はまさしくだよ」


 特に抵抗もなくフランの言う事も認める。

 そもそも、とジンキは2人に視線を向ける。


「俺、そんなにそこを気にするように見えるか?」

「うーん、そう言われるとどうなんだろ」

「難しい話だねぇ。いやでも一応、王だし。一応ね」

「一応……」

「割とショックな言われようだ」


 そこで頭を抱え始める2人にジンキは呆れ気味に嘆息する。

 仕方なさそうに自分の考えを口にする。


「まあ、そんなに難しく考えなくてもいいと思うよ。俺はただ自分の思う正しさに従おうと思ってるんだよ」

「えー、ジンキさん的に義賊は正しいの?」

「それだと語弊があるな……ちょっと待って」


 メラニーの質問にそう言って時間をもらうと少しばかり考える。

 実際の所自分自身の基準など事細かにわかる人などそうはいないのだ。

 例外はどうしようもなくできてしまうし、それを突かれたらやはり言葉には詰まってしまう。

 ジンキは再び口を開く。


「正しいと言うよりは善悪で言う所の善だと思った方に従う、かな?」

「あの義賊達は善だった、と」

「少なくとも誰かのヒーローであり、そう行動してただろ?」


 人攫いの捕縛以外にも義賊と呼ばれる要因はジンキ達が知らないだけで他にも沢山あるだろう。

 助けを求めている誰かのために動いているのだ。彼等は彼等の正義を貫き今に至っているのかもしれない。


「正しさはただの規則でしかないだろ」

「まあ、場所や時代と一緒に変わるような正しさなら、確かに誰かが決めた法と変わらないしね」

「だから、ジンキくんはマリーちゃんの復讐自体には思う所がなかったんだね」

「簡単に言えばそんな感じだな。つってもそんな単純に判断できれば苦労はないんだけどな」


 世の中の全てが白黒ハッキリと別れてくれるのならそれに越した事はない。

 しかし、そうではない。

 説明はしてみたもののイマイチ要領の得ない話になってしまった、とジンキは笑う。

 メラニーはそんな事ないと首を横に振る。


「言いたい事は伝わったし、ジンキさんが色々考えてるのもわかる。実際、私もあの義賊さん達には今後も活躍して欲しいとは思うしね」

「メラニーにしては随分と落ち着いた意見だね?」

「そう言うフランちゃんはどうなのさ?」


 フランは口元に拳を作るような形でマジメに考える素振りを見せると、メラニーの質問に答えた。


「そもそも義賊がみんなに喜ばれてるような環境がダメなんじゃないかなぁ」


 喜んだからこそ義賊って呼ばれてる訳だし、とフランはさらに思考を巡らせる。


「義賊がいて困るのはその環境を作った人の自業自得だからやっぱり捕まえなくて良いと思う! 社会にとっての必要悪みたいなもの」

「……なんか結論同じなのに頭痛くなるぐらい色々考えてて引く」

「ひどい!? 意見聞いてきたのに!」


 同意を求めようとジンキに視線を向けるが。


「人の事あんま言えなそうなのでここはノーコメントで」

「見捨てないでよっ!?」


 気まずそうに目を逸らされ、涙目になるほかない。わかりやすく肩を落とすフランだった。


「ジンキさんはフランと違って面倒な思考があるだけだよね!」

「よし! この話はここまで! フランくん、盗賊退治と行こうではないか!!」

「おー!」


 先を進む2人を笑いながらついて行くメラニー。

 まったく、と。そう思う。

 面倒くさい2人だがたまらなく愛おしい。

 はあ、と小さく息を吐く。


「私も人の事はあまり言えないんだろうなぁ……」


 自嘲気味に呟かれたその小さな独り言はジンキの耳を持ってしても拾う事は叶わなかった。



 その後、貴狼団の情報通り洞窟で屯していた盗賊を発見したジンキ達はなんともあっさりと制圧してみせた。

 全員を殺す事なく捕縛した。

 結成してから日がないのと小規模ということもあり、強い人もいなかったのだ。

 幸か不幸か襲われた商会は少なかったのか、あまりお宝の類が溜め込まれてはいなかった。

 1つ問題らしい問題があったとすれば……。


「おい、お前らどうしたんだ? そんなにやつれて、アイツらそんなに強かったのか?」


 フェベレルの衛兵に盗賊を引き渡した後の事だ。

 衛兵が縄でひと繋ぎに縛りつけらた盗賊にそう問い掛けた。それはもう全員が汗だくであり、全身砂塗れの上にクタクタの様子で今にも倒れそうな勢いだったからだ。聞かずにはいられなかっただろう。


「強かった、強かったがそうじゃねぇ……」

「じゃあ、一体……」

「見てわからねぇか?」

「は? そんな事言っても手ぶらじゃ……馬車はどうしたんだ?」

「無理矢理走らされてきたんだよ! アイツらと一緒にな!」

「カシラァッ! 俺ら途中で引きずられてやしたぁ!」

「ウルセー! んなこたわかってんだよ! クソッ、なんでアイツらピンピンしてやがるんだ!?」


 盗賊達は街の中へと悠々と入って行く3人を見つめながらそう吐き捨てていた。


「そ、そうか……その、災難だったな」


 多少の同情はあったが仕事は仕事。なにより盗賊なのでしっかりと連行はした。

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