依頼は派手に無難に

 能力を駆使して水路を綺麗にして見せた、ジンキ達。

 その見事な仕事ぶりに当然ギルドの方でも高評価で依頼を完遂できたとみなされた。

 トラブルもそこそこに、程よい疲労感から気持ちのいい睡眠を貪れたその翌朝。


「よし、今日はこの店の手伝いにしようか」

「……なんか、ボランティアにアルバイトみたいな仕事ばかりだね〜」

「でも、メラニーの言った通り街の人との距離感が近いから結構楽しい……」

「……楽しいなら評価もまた上がるだろうさ……。ああいうボランティアみたいな掃除とか苦手なんだよなぁ」


 肩を落としながらジンキがそう言うと納得の様子を見せる。


「ああ、だから今日はガラリと趣向変えた、と」

「そう言う事」


 などと3人が会話をしていると目的地に到着した。


「それでここなんだ?」

「実は気になってたんだ」


 3人の目の前には『サーティアイス』と書かれた看板があった。

 ジンキは改めてうむと頷く。


「すごく気になるな!」

「ニュアンスが違うっ!?」


 真剣な表情から同じ言葉が繰り出されるがフランは微妙に意味が変わった事に驚いた。

 これを呆れたようにメラニーが見つめている訳だが。


「一応、聞きたいんだけど、中のメニューの事なのか看板に何かが足りないのか、どっちかな?」

「両方! でも、8割看板だな」

「わあ、話広げたくな〜い」


 何はともあれ、依頼の内容は変わらないので3人は店の中に入る。


「冒険者ギルドから来ました。店の手伝いという事で来たんですが〜」


 まだ店を開く時間でもないのでジンキがそう声をかける。

 すると、中からドスの効いた返事が返ってきた。


「おー、よく来たな。早く入ってくれ、今大体の準備が整ったからよ」


 そう言って店内から出てきたのはスキンヘッドのイカツイ大男だった。

 流石に内心驚く3人だが、ツッコんだら負けだと思ったのか誰一人何も言わず案内に従う。


「いや、そんな表情されるぐらいなら素直になんか言ってもらいたいんだが……」

「「「遠慮します」」」

「うん、まあ、いいけどよ……」


 3人は大きくも儚げな背中について行く。

 中に入ればヒンヤリと漂う冷たい空気とアイスクリーム特有の甘い香りが肌と鼻腔を刺激する。

 店は決して広くはないがしっかりとしているように見える。

 4人程が席に着けるテーブルが3つ並んでいてカウンターでアイスの受け取りができるようになっている。

 大男に座るよう促される。


「さて、早速だが俺はこの店を仕切らせてもらってるバスキー・ロビンソンだ。よろしく頼む」

「あ、はい。俺達は——」

「知ってるぜ。1日で随分と有名になったじゃねぇか。昨日、水路の掃除をしてた、たしか……ジンキ、メラニーそれにフランだったか?」


 ジンキ達も名乗ろうとするとバスキーはそれをニヤリと笑みを浮かべ、知っていると遮った。

 なかなかに凶悪な顔面ではあったがそれとは別の理由でジンキとフランが顔を引くつらせる。


「「…………」」

「ほら言ったじゃん! やっぱり私に間違いはないよねっ!」

「いや、うん……まあ……」

「とても不本意な形だったと思うの」

「やってる本人はいいよな。人の視線とか気にしないタチだし、むしろ気付かないまであるし……」


 メラニーは顎をつまみ少し考えた。


「…………すごい遠回しに恥知らずって言ってま——」

「うん。一緒にいる人の気持ちも考えて欲しいなって……」

「フランちゃんが食い気味に肯定してきた……」


 何やら妙な空気になったと察したバスキーはフォローするように声をかけた。


「いや、俺は素直に凄いと思ったぜ? あそこまで綺麗になってるのを俺は見た事がねえしな。あれなら依頼の評価も最高だったんじゃねぇか?」


 だが、尚も不本意な様子でジンキは答える。


「ええ、まあ。最高評価はもらえましたよ……」

「あの依頼で最高評価は難しいんだ。もっと誇ってもいいと思うんだが……。有名になりたいってのが目的ならそれも達成してるだろうし……」


 バスキーの言葉にジンキとフランが遠い目をしていた。


「思えば、俺があの時あんな事を言わなければ、こんな事にはならなかったんだ! 俺が有名になれば楽しそうだよな、なんて……」

「私も同意なんてするんじゃなかった……」


 何やらどんよりとした空気を醸し出している2人を横目にメラニーはそっと息を吐き出した。


「有名になったよ?」


 しかし、ジンキとフランはなおも嘆く。


「俺は……いや、俺達はただ有名になりたかったわけじゃないんだよ!」

「そうなの! 結果じゃなくて過程に浪漫を感じてたの!」

「そう! 浪漫! ささやかに、そして徐々にあの人達ヤバイらしいよって、言われたかったんだッ!」


 そんな2人を見ながらメラニーは後頭部を手でポリポリと掻きながら思う。


「うわ、鬱陶しい……あっ……」


 思わず口にしていたがそれを聞き逃さなかった2人はぐわっと目を見開き詰め寄った。


「なにかな、メラニー! なんなのかな、メラニー!?」

「フランがめんどくさい……。それにバスキーさんもヤバイ奴らだって思ってくれたと思うんだけど……ね?」

「……え? あ、お、おう。今もヤベェ奴らだと思うぞ……」

「ね?」


 いきなり蚊帳の外に置かれたかと思えば急に話を振られ流石に動揺を禁じ得なかったバスキーだが、素直な感想をこぼした。

 しかし、ジンキは依然として噛み付いた。


「ベクトルが真逆じゃねぇか! ね? じゃねぇよッ! 大々的で劇的におかしな奴らだと思われたんだよ」

「統括すれば楽しく手っ取り早く有名になったヤバイ奴らって事で頑張ったのになぁ」

「「メラニーの悪意が半端ない……」」


 ともかくとしてコレでは話が進まないとバスキーは話をまとめにかかった。


「たしかに俺がお前らを知ったのはそこのメラニーが『どうかっ! どうか皆様! 現在水路の掃除をしている私達をお見知り置きください! このジンキ、フラン、そして私、メラニーをどうか!』なんてなんども叫んでいたからだが俺も含め街のみんなは感謝してんだ。街が綺麗だと自然と気持ちが良くなるもんだ。覚えも良くなるだろうよ」

「そうだよ! 結果が全ての世界なんだよ?」

「「まあ……」」


 2人も渋々受け流す事にしたらしい。


「まあ、やっぱりヤベェ奴らだとは思う……」

「「はぁ……」」


 ひっかかりはするがやはり受け流すしかない。

 そして。


「そろそろ、仕事の話していいか?」

「「「あっ」」」


 目的を見失ってはいけない。



 バスキーの話はどこか独白めいたものから始まった。


「正直に言えば俺のアイスは美味い。それは間違いない。今まで俺の作ってきたアイスに誰もが笑顔になってくれたんだ。当然人気も出た。むちゃくちゃ繁盛してたんだ」

「忙しいから手伝ってくれってことじゃないんですよね?」


 ジンキの問いにバスキーは「ああ」と頷く事で肯定を示した。


「ウチが人気店なのは間違いない。しかし、最近はどうも客足が遠のいてるんだ」

「最近暑さが控えてきてるから?」

「だとしてもだ! 美味いもんを口にしたいという欲求は皆変わらないはずなんだ!」


 バスキーの熱い主張。しかし、確かにその通りではある。寒くてもアイスを求める人は一定数いるものだ。

 フランは少し考えて意見を言う。


「ライバル店とかはいるんですか?」

「この街でアイスを売ってるのは俺だけだ」


 それならば独占と言ってもいい状態なわけだ。

 気温の問題ではないとすればやはり……、とジンキが考えた所でメラニーが質問をする。


「肝心のアイスはどんなのを売ってるんですか?」

「それもそうだな。今から持ってこよう」


 そう言ってバスキーは店の奥へと移動した。


「ジンキさん、今回の依頼って要は客の立場になって店の相談に乗れって事だよね?」

「そう言う事。まあ、ここのメニューは知ってるし、原因もなんだかんだでわかってるよ。なんの相談かわからなかったから言及はしなかったけど」

「え、じゃあジンキくん、何が原因なのかな?」

「それは今からわかるよ」


 3人でバスキーの帰りを待つ。

 バスキーが帰ってくる少し前にメラニーはポツリとこぼした。


「夜いなくなったかと思えばこんな所に来てたんだねぇ。プライバシーにかかわると思って黙ってたのが損したよ」

「……ノーコメント」

「い、今は騒がないようにしなきゃだよね!」

「フラン、そういうのはできればやめてほしいな……」


 コッソリ歓楽街を探していたのは誰にも言えない秘密だろう。

 結果的にこの店を見つけて依頼も見つけてしまった。

 時間の問題で味わうには至らなかったのだ。

 そうこうしているとバスキーが3つの小皿に丸いアイスを載せて現れた。

 目の前に差し出され、それぞれが口に運ぶ。


「どうだ……?」


 緊張の面持ちでバスキーが感想を聞く。

 まず最初に口火を切ったのはジンキだ。


「思ってた以上に美味いな……」

「バニラ味……これなら人気なのもわかる気がする」

「おいしいねぇ……。でも私もジンキさんが言ってた問題がわかったかも」


 メラニーがそう言うと同時にバスキーが凶悪な形相で詰め寄った。


「問題だと!? うちの商品に文句があんなか!?」

「ないよ! すごくおいしいです、ね、フランちゃんっ?」


 矛先を自分からすぐにフランに向かわせたメラニー。

 フランは素っ頓狂な声を上げて同意し、話を逸らそうと試みた。


「えっ、私!? う、うん、とてもおいしいです! 所でバスキーさん、他の味は何があるんですか?」

「他の味だぁ? んなもんあるわけねぇだろ。男たるもの一本勝負に決まってんだろうが」

「そ……うですか」


 フランが理解したという顔をした。

 逸らした先が思いもよらない核心を付いていた訳だ。

 そう。バスキーのアイスはとても美味しい。それもジンキの予想を上回るぐらいには美味しいのだ。

 しかし、アイス一本ではどうしようもなく限界があるのも事実だ。

 ジンキはその依頼を目にした時、もしかしたら程度の可能性としての懸念があったのだ。

 それが見事的中した。問題点のわかりきった依頼を受けない理由もないがなによりも、ジンキは許せなかったのだ。

 今まで黙りこくっていたジンキが口を開く。


「甘いぞ、バスキー。テメェのアイスよりもなお甘い!」

「ジンキ、口調どうしたお前……」

「テメェみたいな甘々な奴に使う敬語はねぇよ。胸焼けしちまうだろうが!」

「お、おう」


 激しい主張である。バスキーも若干引いてる様子だ。

 ともかく、とジンキは続ける。


「そのアイスで一本勝負なんて長続きするもんじゃない。底冷えするような寒いギャグを聞かされた気分だよ。テメェの冷たいアイスみたいに冷えっ冷えだ!」

「アイス絡めるのやめて欲しいんだが……」

「俺が! テメェのその冷え固まった考えをゆっくりにでも溶かしてやるよ!」

「……アイスみたいにか?」


 呆れた表情でそう口にするバスキー。

 ジンキはフッと笑うと答えた。


「わかってるじゃないか」

「そのドヤ顔やめてくれねぇか……」


 何はともあれバスキーの考えを変えなければ新しい要素は組み込めないようだ。


「バスキー、なんでアイス一本勝負なんだ?」

「そりゃオメェ、男らしく一本に絞って勝負するべきだろうが」

「違うだろ、バスキー! それで客が遠のいちゃ意味がねぇだろうが。テメェの根幹の願いはもっと尊い物のはずだろ!」


 それを言われて、バスキーは目を見開く。

 そしてポツリと小さく声が溢れる。


「……おだ」

「なんだ?」

「笑顔だ! 俺は誰もが俺の店で笑顔になってもらいてぇのさ! 俺の顔を見て泣いちまうような子供まで笑顔になって欲しかったんだ!」

「いいじゃないか! 俺もかつては……いや、今もなお笑顔にしてやりたい奴がいるさ。テメェに甘えてんじゃねぇよ。だがなぁ、そのぐらい糖分高めの理由があると消費せざるを得ないよな?」

「ははは、ちげぇねぇ。燃やさねぇと太っちまうな。だが」

「「燃えねぇ訳がねぇッ!」」


 ガシッと互いに手を力強く握り込んだ。

 そこには確かな友情があるように見えなくもない。


「いつの間にいい話になったんだろう……?」

「正直ついていけないよ……」

「男の友情って奴かな?」

「……ちょっと安っぽくない?」

「わお! フランちゃん辛辣ぅ〜」


 顔に同意であると伝わるあたり相当な茶番劇だったのだろう。本人達が半ば本気な分少し薄ら寒いものを感じていた。


「まるでア——」

「メラニーそれだけはやめた方がいいと思う……」

「いつになく辛辣だね、フランちゃん……」

「ジンキくんの唯一の欠点だと思うの」

「そ、そっか……」


 真顔が本気度を物語っていたと後にメラニーが口にしていたという。



 さて、なんだかんだとその日は急遽バスキーの店は臨時休業することとなった。

 店内の配置などに変更点はない。

 アイスが1種類ということもあり、テーブルに座る人は余りにも少なかったのだ。

 種類を増やす事となったら座る人も増えるだろうがテーブルをいくつも必要とするほどではないだろう。

 それに今回の問題点はフレーバーの種類の少なさの一点のみだ。


「だがよ。他の味って言われても何がいいんだ?」

「他にはミントとかイチゴとかまあ果物系を主軸にすればいいと思うけど」

「あと、そこら辺の仕入れも考えないといけねぇんだよなぁ……」

「あぁ〜……」


 ジンキは失念していたという顔をした。

 しかし、すぐさまにメラニー達が名乗りを上げた。


「それなら大丈夫! 私達がそこら辺の店で掛け合ってみるよ! うん、安く仕入れてくるから安心して。私達、可愛いから!」

「大丈夫なの、メラニー?」

「私の作戦に狂いはないよ〜」


 そうして彼女達はバスキーから理想の予算計画を聞き出して店を飛び出した。

 ジンキとバスキーは現在の材料でできる試作に集中する事となった訳だが……。


「どうしたジンキ?」


 ジンキはメラニー達が飛び出した扉とバスキーの顔を見比べて唸った。


「ん〜、なんかあいつら美人局みたいだな……」

「そ、それは違うんじゃねぇかな」

「でも悪質なセールスな気がする」

「メラニーの口振りからすればちょっと騙されてもらうだけだ……」

「やっぱ、悪質だよ……」


 何はともあれ計画は順調に進み、数日後には『サーティアイス』はいろんな味が楽しめるという事で大繁盛する事となった。

 甘いアイスはもちろんクセになる苦味や酸味など中にはゲテモノもあったりといろんな層からの支持を得るに至ったのだ。

 ジンキ達はバスキーから感謝され、依頼も最高評価を頂いた。



 さて、ジンキ達が冒険者になって毎日依頼を受けていたそんなある日の事だ。

 冒険者としては半月も経っていない、そんな新米冒険者の彼等は今日も依頼を受けようと朝から冒険者ギルドに来ていた。


「えっと、もう一度言ってもらっていいですか?」


 朝から忙しない空気を醸し出す冒険者ギルド内の受付でジンキは受付嬢のセイリンにそう問い返していた。

 セイリンは頷き再度、同じ内容を口にする。


「はい、ギルドの調査と会議の結果。ジンキさん達に冒険者特別能力階級D級への昇級をお知らせ致します」

「「「ランクアップ……っ!」」」

「あ、こちらの冒険者カードは更新させて頂きました。ご確認ください」


 そう言って差し出された冒険者カードには確かにD級と記されていた。

 それを見て顔を綻ばせるジンキ達。


「しっかし、E級の依頼しか受けてないのに半月で昇格すんのか……」

「そうですね。ギルド側の意図を理解されていた、というのもあったのでしょうけどそれとは別に評判と依頼の評価が1番の決め手ですね。そうでなくとも順当に進んでいれば1ヶ月で昇格していたでしょうね」

「メラニーの予想が当たってたって事か」

「ふふーん、ちょっと考えればわかる事だよね!」


 得意げになるメラニーの気持ちも理解できると微笑むジンキ。

 セイリンもわずかに相好を崩す。


「平均では大体2ヶ月掛かるので中々の速さですね」

「へー、最速ってどのくらいなんですか?」

「最速は3日ですね」

「3日っ!?」

「速すぎない?」


 フランがオウム返しで驚き、メラニーが少し不機嫌そうに疑問に思う。

 最適解で早く昇級できたと思っていただけに悔しかったのだろう。セイリンは苦笑を溢して答える。


「とは言え、これはちょっとしたズルでもあるんですよ」

「……金を積んだ?」

「脅した?」

「……むぅ〜、一緒になってふざけたいところだけど——」

「「真剣なんだが……?」」

「それはどうかと思うよ?」


 ジンキとフランの真面目な考えに流石にどうかと思ったメラニー。

 しかし、本当に悔しかったのだろう。しっかりと考えて導き出した答えは見事当たっていた。


「もうっ! 信用を第1に考えてる所がそんなんで昇級させる訳ないでしょ! 多分、前評判、なんじゃないかな……」


 冒険者ギルドに腐敗があればお金や脅し、コネなどで冒険者の階級が上がることもあるだろう。

 いや、腐敗が完全にないとは言い切れないかもしれないが少なくとも危険を犯してまで低い階級でそういったことが行われることはないだろう。

 故に考えられるとすれば前評判ぐらいのものだ。

 なにも、街にとっての部外者のみが冒険者になるという訳ではない。

 その街で信用を築き上げてきた者達も当然いるということだ。


「はい、その通りでございます。E級は言わばスタートラインに立つ為の場所です。外でいくら活躍なさっても、ある程度の信用がなければ認めるのも難しいんです」

「ま、地道にやっていくのが1番って事か」

「そういう訳です。結果が伴えば昇級への1番の近道ではありますから」


 それならば早速という事でジンキ達はD級の依頼を受ける事にした。

 しかし、フランはそういえばとセイリンに疑問に思っていた事を聞いた。


「昇級試験みたいなのはないのかな?」


 たしかにありそうなものではあるだろう。

 実力などが伴わなければやはり依頼以前の話でもあるのだ。

 しかし、セイリンは横に首を振った。


「はい。D級への昇級試験はございませんね。ですが、C級になるには条件を満たす必要があり、B級、A級は共に昇級試験がございます。S級は特定の人物の推薦が必要になりますね」

「あ〜、なるほど。ちなみにC級になる条件は?」

「それは、C級の依頼にある魔物の討伐と盗賊の退治でございますね」


 フランは感心したように頷く。


「順当といえば順当なのね」

「そこが上に行くかどうかの節目でもあるもんね〜」

「ま、今は自分達の事だろ。早く行くぞ〜」

「はいはーい!」

「あ、置いてかないで〜」


 3人は冒険者ギルドを後にしてギルド内にバタン、とドアの閉まる音が響き、ギルド内の喧騒に紛れる。

 セイリンは閉まったドアへ目を細めて見つめて、はあ、と息を吐く。

 ここ最近現れた新人冒険者達。

 やはり、破天荒だ。破天荒で無茶苦茶で、しかし、依頼の達成率も満足度もこれ以上ないくらいに高い。

 提出された依頼を見てやはり思う。


「D級の採取依頼を複数、ね。……無難なのよねぇ」


 過程と結果がこれ見よがしに派手な分、依頼がとてもショボく思える。

 面白い人達だ。


「これだから受付嬢はやめられないのよね。あの人の刺激にもなれば良いけれど……」


 そういう彼女の視線の先にはテーブルに1人酒を飲む、ジンキと同年代くらい……彼より少し上だろうか、の男性だ。

 ただの酔っ払いに見えるが、物憂げなセイリンの視線にはそれだけには見えない説得力があった。

 彼女は溜息を1つ吐き出すと、普段通り仕事に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る