これはいわば自己紹介!

 これは夢だ。

 身近に感じられるその不思議な感覚に一紀はそう結論づけた。

 ギルドを後にしてそのまま急いで宿を取った3人だが、ギリギリ一部屋空いていた所に滑り込んだのを思い出せる。

 色々とあったものの3人で同じ部屋を使う事になり、そのまま眠ったのだ。


「……?」


 一紀は辺りを見回して、1つの違和感に首を傾げる。

 なんの変哲もない舗装された道路。

 住宅が並んでいて塀がどこまでも連なっているようだ。

 しかし、異様に広く、大きく感じる。


「にゃ? ……!?」


 普段でない声が自分の口から出て驚く。

 どうやら猫になったらしい。前足を見る限り黒猫だろう。

 とはいえ夢だ。そんこともあるだろうと特に取り乱すこともなかった。

 突っ立っていても暇なだけということもあり、見慣れない道を静かに歩く。

 身軽な身体に物を言わせて塀によじ登り、屋根を渡り、ネコジャラシにじゃれつき、蝶を追いかける。


「…………(俺は何をやってるんだ……)」


 ふと、冷静になり、己の行動に恥じ入る。本能とは恐ろしいものだ。

 無警戒に己の身体を舐め回していたら不意に影が覆い被さる。


「可愛い猫じゃないか。しっかし汚れてんなぁ。ほぉら、こっちゃこいこ〜い」


 警戒されないように少し離れた所でしゃがみ、人の良さそうなおっさんが優しく呼びかける。少しほっこりする物を感じる。


「にゃ〜……(はぁ、やれやれ。俺はそんな簡単じゃないからな? たまたま機嫌も良くて暇だから相手してやるよ。おっさんってのが尺だが雰囲気は嫌いじゃあないぜ?)」


 一紀が何を意識しているかは与かり知らぬ所だが、自分の信じる猫ムーブに乗っかっているのだろう。

 気を良くしたおっさんは顔をだらしなく蕩けさせ、忙しなく手を動かした。


「おー、よしよし……。ここか? ここが良いのか、ん?」

「に、にゃ……!?(こ、こいつできる!? あ、ヤバイ! あ、や、やるじゃねぇか!)」


 若干の地獄絵図にはお詫びもしようもないが一応猫とおっさんの戯れである。

 その戯れもそう長く続かなかった。

 満足したおっさんは一紀を抱えて語りかける。


「よっしゃ、うちに連れてくぞ。ねこすけ!」

「…………(お、お……? うん、好きにしてくれ……)」


 ヘトヘトの一紀を連れておっさんは一紀を連れて行く。

 移動は軽トラの助手席に乗せられたままだ。

 どれほど移動していたのか、一紀は眠っていたのであまりわからなかった。そもそも夢である。時間などあってないような物だろう。

 おっさんは一軒家で一人暮らしだった。

 猫相手に語りかけて、若干の寂しさを誤魔化して日々を過ごしていた。

 一紀は特に何もせず、グータラと仕事で出掛けるおっさんの帰りを待つだけの毎日だ。

 そんなある日の事だ。

 おっさんはなんともなしに言うのだ。

 お前は良いよな、と。


「毎日をグータラ生きていけて。まるで悩みが無いかのように暢気にいられてさ。お前さん、少しは外に出たらどうだ? 気分転換ってヤツだ。隣の家を覗く程度造作もないだろ?」


 おっさんは苦そうに笑い、仕事へ行くためにドアを開ける。

 猫に語りかけてる時点で独り言で、自分の中でなんらかに決着を付けたかったのだろう。

 一紀に背を向けてポツリと小さく呟いた。


「案外近くに見落としちまった大切なモンが見つかるかもな……」

「……(いきなりどうしたんだよ、おっさん……)」


 一紀にしてみればその一言に尽きる。

 しかし、おっさんの言う通り家に籠るのも違うだろう。

 一紀は気分転換に隣の家を覗きに行くことにした。

 塀を登ればちょうど窓から中が見える場所があった。

 一紀は頭を出して覗く。

 最初に見えたのは綿でできた大きめの人形が椅子に座らされている光景だった。

 そう言うものが好きな人もいるのだろう、と少し不思議に思いながらも一紀は納得した。


「……(なん、だよ、これ……)」


 しかし、一紀はすぐに絶句した。

 自分の母親の登場に。自分の家族の登場に。

 そこにはただ自分だけがいない家族の姿があったのだ。

 母親の変わらない笑顔。変わらない愛情。父親や妹にいつもと変わらない振る舞いをしている。

 ご飯ができた、とか早く起きなさいとか、そんな何気ない日常の風景だ。

 だが父と妹は少し寂しそうに笑う。

 そう、母だけが変わる事なく愛情を注いでいたのだ。


 ——人形にさえも。


 一紀の場所を埋めるようにその人形は存在していた。母に一紀と呼ばれる人形は微動だにしない。だが、母は変わらず笑顔を振り撒く。

 壊れた、と言えば良いのだろうか。

 自己防衛の一種だろうか。

 わからない。しかし、一紀にはとても痛ましい光景にしか見えなかった。

 無意味な疑問が湧くだけ湧いて、答えられないもどかしさに歯痒い思いをする。何かが胸の中で渦巻くのだ。

 ただ、一紀は泣いていた。

 ひたすらに涙がこぼれ落ちていくのだ。

 涙の存在に気がつき、一紀は改めて思い知らされる。いや、発見とも言えるのかもしれない。

 その涙の正体。


(俺は思っていた以上に家族を愛していたんだな)


 心の底から、そう思ったのだ。

 涙が止まらないのだ。

 どうしても忘れられない思いがこんなにも近くにあったのだ。


 ——お前さんは暢気で良いよな。何も知ろうとせず、ただ閉じ籠ればいいんだからよ。


 誰かに責められているわけではない。責められる相手もいない。

 これは確認なのだ。それで良いのかという無意識の問い掛けであり、確認。


(俺は、臆病だ。弱くて臆病で——)


 だが、それでもわからないのだ。一体どうすれば良いと言うのか。


 ——卑怯者だ。


 答えの出ない時間が過ぎるばかりだった。

 夢の時間も終わり、気が付けば夜が明けた。



「……っ!?」


 その日、メラニーは少々刺激的な朝を迎えた。

 頭を動かして部屋を見渡せば、昨日泊まることとなった宿の部屋に異常は特に見られない。

 フランはお手洗いかなにかなのか現在部屋にはいなかった。

 なんだかんだと理由をつけて3人で同じベッドで寝る事になった経緯を少し思い出し、気が抜けたような笑みも浮かべよう。

 しかし、だ。


(これはちょっと困ったなぁ……)


 一紀もといジンキに抱きつかれた状態での目覚めは少々心臓に悪かった。


(これならこれで……)


 と、メラニーはいつかのためのちょっとした悪戯を敢行する。

 部屋に響き渡るパシャリという音。

 満足げな表情のメラニーを見ればなにが行われたのかは想像に難くないだろう。

 もう少しいろいろしてみたい所だったがふとメラニーは気付いた。


「震えて、る……?」


 背中に回された弱々しい手の震え。

 よく見れば涙も未だに流れているのが窺えた。

 やめだやめだと頭を振る。

 なんだかなぁと調子の狂うような感じがして、身動きができれば居心地悪そうに頭を掻いていることだろう。


「しょうがない……ささやかな抵抗ですよ。それに二度寝にはちょうどいい日です」


 そう小さく呟き、メラニーはジンキの頭を胸に抱え込むように抱きしめて、再び寝る。

 起きた時の反応を楽しみにしつつ、今は少しでも楽になってくれればと願う。



 メラニーが寝て、しばらくしてジンキはゆっくりと目蓋を開けて目を覚ました。

 酷く、静かな起床だ、とそう思った。

 夢を、見たのだ。

 ハッキリと覚えている。

 予言めいたものだとか何かしらの暗示などではなく、ごくありふれた夢の一つ。

 悪夢ならばどれほど良かっただろうか。

 胸を締め付けるその苦しさは悪夢というには余りにも切ない。

 ドクドクと心臓の鼓動が手に伝わるぐらいに激しく脈打っている。

 手の震えが止まらず、今声を出せばそれすらも震えるだろう。

 そんな夢を見た原因にジンキは心当たりがあった。いや、改めて気付かされたと言うべきだろう。

 涙がようやく止まり、冷静に考え事ができるようになって一紀はようやく頭を抱えられていることに気が付いた。


「……見られてないよな?」


 返答はない。


「なあ、見てないよな? え、本当に寝てる? 絶対おかしいよな。ねぇ、こんな頭を撫でられるような体勢絶対一回起きないと無理だろ、ねえ? おい、なん……」

「——うわ、しつこっ!? ジンキさん、しつこ過ぎない!?」

「やっぱり起きてたじゃん。メラニーらしからぬことすんなよ!」

「ええ、扱い酷くない? ていうか今起こされたんだけどっ!?」


 執念すら感じられるジンキの怒涛の質問責めに思わずといった形でメラニーが起き、言い合いが始まった。

 そうする事で少しはジンキも楽になれたような気がした。

 メラニーは気付いているのかいないのかどこ吹く風といった様子だ。


「私は何も知りませんって!」

「そっか、ならいいよ。……その、他言無用で頼む」


 メラニーが強く否定した事でジンキも折れたのだろう。そっぽを向くようにして小さくそう言い残す。

 メラニーは苦笑を浮かべて小さく頷き、ポツリと答えた。


「言いませんよ、誰にも……」

「やっぱり見てたじゃんか!!」

「……んもぉっ!!」


 しかし、ジンキはやはりしつこかった。メラニーが頬を膨らませるのも納得のしつこさだ。



 さて、ジンキとメラニーが起きて騒いでいる間、その場にはいなかった者が1人、いただろう。

 彼女は目が覚めるとご機嫌の様子で部屋を出て行ったのだが、その時ジンキがメラニーに抱きついている光景は、幸か不幸か目に入らなかった。

 朝ということもあり多少寝ぼけていたというのあるだろう。

 しかし、理由は別にあった。


「ふんふーんふふん〜♪」


 廊下を歩くフランは尚も上機嫌だ。

 最初こそ恥ずかしくて余り寝付けなかったものの朝になってみればこの有様である。

 頭を埋め尽くすのは「一紀様と一緒に寝ちゃった♪」というお花畑もかくやという能天気ぶり。

 メラニーも一緒だったとはいえフランにしてみれば視界にいなかったのだし大丈夫だろうという考えだ。

 隣の惨状を目にしていれば顔も青ざめていただろうが世の中知らない方が幸せな事もあるのだろうと考えずにはいられない場面である。

 つまるところ、朝起きた時点でいろいろと満足してしまったのだ。

 それ故にご機嫌に笑顔を添えて、鼻歌をBGMに清々しい朝を満喫していた。

 宿のお手洗いを借り、顔を洗う。


「あ、2人に朝ごはん持って行こう。まったく、2人は寝坊助さんなんだからっ!」


 ふふふ、と食堂で朝食の用意をしに向かった。

 フランにとって特におかしな事は何一つとして起きなかった訳だが、問題はその後である。

 朝食を持って部屋の前まで来てドアノブに手を掛けたところでフランは中の声で2人が起きたことに気がついた。

 そして、気になる会話。


「うわ、ジンキさんこれ……もう、ぐちょぐちょじゃん」

「……いや、メラニーが抱きついたせいで暑かったんだよ」

「えー、私のせい?」


 え、抱きついたって何? 仮面をつけたようにピクリとも顔が動かなくなったフラン。

 ここで開けるのはまだ早い。一体何が起こっているのか。状況の把握が必要と判断してドアの前で立ち止まる。


「ここまで濡れてるとは思わなかったな」

「そもそも、ジンキさんが執拗に責めなければこうはならなかったんだよ。見て見ぬ振りもできたのに……」

「わ、悪かったって」

「私があんなに頑張ったのに。朝っぱらからジンキさんはずっとネチネチ同じ所ばっかり! すごく疲れたよ」

「すまん、でもちょっと楽になったわ」


 フランの思考はまったく機能していなかった。

 しかし、メラニーやジンキから出てくる単語がフランの中で妙な繋がり方をしている。

 ぐちょぐちょ、濡れている、頑張った、疲れた、楽になった……。

 そこから導き出される答え。


「ひゅっ……」


 そこまで考えた所でボッと顔に火がついたように真っ赤に染めてあわあわとし始める。


「ど、どうしよう、私がいない間になんて事……」


 赤から青にまた赤再び青と目まぐるしく感情と顔色が入り混じる。

 このままでは行けないとバンっとドアを開け放った。


「あ、あしゃごはんっ! 持ってきた、わ、よ?」


 そこでフランが見た物は机で向かい合うように座ってる2人がこちらを見てニヤニヤと笑みを浮かべる光景だった。


「なあ、メラニー。あれはなんの顔だと思う?」

「あれはムッツリさんの顔だと思うな!」


 一拍。


「むぅっ!?」


 フランは顔を真っ赤にしてしばらくの間拗ねた。



 現在、ジンキ達は冒険者にはなったはいいが、稼ぎはない。

 見返りが大きいとされる討伐の依頼もまた冒険者の階級により許されていない。

 それならば仕方がないと地道に階級を上げるほかないのだが効率が悪いのも間違いない。

 E級の仕事は基本的に雑用ばかりだ。

 街の中でできる仕事がほとんどであり、1日中拘束される上に見返りが少ないのだ。

 では、その一つ上のD級の依頼はどうか?

 これは外に出て、探し物や採取、何かしら荷物を運ぶような仕事が主だ。

 D級では生き残る事が主目的に置かれているのだ。

 魔物に気付かれない事や逃げ切る事が大事である。

 もちろん、倒してもいいがそれは依頼の評価が下がる行為とされている。

 それに、新人は最初にE級の仕事を2〜3こなさなければD級の依頼を受ける事ができないとされているのだ。

 それは信用がないため当然と言えば当然の処置なのだろう。

 掲示板で依頼を覗きながらジンキは悩ましげに呻いた。


「やっぱ、効率悪いよな……。どの依頼も昇格するのにだいぶ時間かかりそうだし……」

「1日に2つこなせたら良い方、かな?」


 フランもジンキに同意する。

 しかし、メラニーははて、と首を傾げる。


「そうかな? 目的が結構露骨な気もするけどなぁ〜」


 顎に人差し指をとんとん、と小突きながら言うメラニーにジンキとフランは視線でその理由を促した。


「いや、ほら昨日説明されたでしょ? 階級を上げるには〝信用〟が必要だー、って」

「言ってたな」

「確か、判断基準が『戦闘能力』『頭脳能力』『指揮能力』『救命能力』『探索能力』『求心力』そして『財力』だよね?」

「手っ取り早く階級をあげるなら優先度的にもやっぱり戦闘能力を示した方がいいんだろうけどなぁ」


 それができないんじゃなぁ、とジンキとフランが頭を悩ませていたのだ。

 だが、そこでメラニーが「そこだよ、そこ!」、と指摘する。


「私が言いたいのはそこなんだよ」

「どういことだよ?」

「何事にも順序が必要だって事!」

「ん、ん〜…………?」

「あっ! なるほど!」


 メラニーの言う順序でフランが気付いた。フランに先を行かれたジンキは悔しさを滲ませながらも、やはりわからない。降参だ、と示す。


「要はね? 私達は不審者に変わりないわけなんだよ。そんな人がいきなり凄い力を持ってるって行動で見せつけられたらどう思う?」


 ジンキは想像する。

 学校からの帰り道。

 知らないおっさんがいきなり車を抱えて登場……。

 突飛だろうか?


「いや、でもそういうことか……。スッゲー怖いわ……」

「でしょ? だからいきなり戦闘能力を見せつけても信用できっこないんだよ」


 信用は積み重ねである。

 力を示した所で恐怖の対象になっては意味がない。

 知識があると主張した所で結果のない話など耳は貸しづらい。

 指示を出した所で不安を拭えないのならどの道失敗する。

 命を救う手立てがあろうと、怪しげなら拒絶される事もあるだろう。

 探し物を見つけたのに、盗んだと疑われたらどうしようもない。


「なるほど、な。なんかスゲーな……」

「ねえ、メラニーお金の場合は?」


 的確な例えが立て続けにあったものだからついフランも聞きたくなったのだろう。ジンキもまた期待の眼差しだ。

 しかし、メラニーはバツの悪そうな顔をして目を逸らす。


「いや、うん。お金って信用も買えちゃうからね……」

「……財力がマジで台無しにしてくるのなんとかならん?」


 妙な空気をすぐさま察してパンッとメラニーが「ともかく!」と手を叩く。


「これは求心力の一部分という訳! このE級の依頼達はいわば〝自己紹介〟! 私達はこういうものです。私たちの事を知ってください。よろしくね? って話なの」

「なるほどなぁ……」

「ちなみにジンキさん。さっきは何を想像した?」

「え、車を抱えたおっさんがいきなり出てきた構図、かな」

「……こわっ、状況もそうだけど、発想も怖いよ……」

「おい」

「でも、そんなおっさんにもしっかりとした情報があれば! あ、フランちゃん、適当なプロフィールお願い」

「はっ、えっ!? えっと、名前はアントニー、体を鍛えるのが日課で、日々自分の限界に挑戦をしている。その日、ようやく車を持ち上げる事に成功して、満面の笑み!」


 ジンキは再び想像した。

 より、鮮明に想像できてしまった。



 学校の帰り道。

 いつもと変わらない道を歩いているとふと、ガシャンッ! とものすごい音が聞こえてくる。

 何事かと急いで向かってみれば、とてつもなく鍛え上げられた筋肉により車を持ち上げる1人の男を発見する事に至る。

 その男を俺は知っている。


「アントニー!!」

「ハッハッハッ! 一紀じゃないか! 見てくれよ、コレ! ついに車を持ち上げる事に成功したんだ!」

「スゲー、スゲーよ! でも、アントニー、ここはだめだろ! 危ないって!」

「それもそうか! すまねぇなぁ。よっと……」


 満面の笑みと共に車を下ろす姿はどこか眩しく見えた。



 思考から戻ってきたジンキは愕然とした。


「ヤベェ、安心感が段違いだわ。親しみやすさがとんでもないよ、アントニー」

「満面の笑みがあんなにも無邪気に見えるなんて……」

「フランちゃんも想像しちゃったんだね……」


 ともかくメラニーの伝えたい事はこれ以上ないくらいに理解できただろう。


「簡単な話、1つ1つの依頼を丁寧にこなすのが昇格への1番の近道だって事」

「まずは街の人に知ってもらわないとって事だよね!」

「これなら別にD級の依頼はしばらく受けなくてもいいか……」


 ジンキ達はそう言ってその日は街の水路の掃除をする依頼を受ける事にした。

 さて、3人の会話は決して大きな声ではなかったものの、どうしても目立ってしまう。

 新人という事もあり、格好も冒険者っぽくはない。というより新人の冒険者っぽくないと言った方が近いだろう。

 戦い方がたくさんあるのでベテランになってくると格好もばらけてくるものだ。

 閑話休題。

 故に当然3人の話を聞いた者が何人かいた訳である。


「……ランクが上がりにくいわけだ……」

「振り返れば確かにそうだったわ……」

「セイリンさんが苦笑いするわけだよな」

「アントニー……」


 反応は様々であるがそこには納得の空気が漂っていた。

 恒例の新人いびりもできないほどに……。

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