冒険者登録をしよう
マルカルダ王国の辺境フェベレルの街。
いわゆる辺境の街であり、魔物や敵国に真っ先に狙われるような街の一つだ。
そんな街でありながら、いや、だからこそと言うべきかその街の活気もまたかなりある方だろう。
故に都市と表現してもまた通用するぐらいの規模である。
その街を訪れる冒険者や商人もその街に見合う程度には実力者揃いであり一癖も二癖もあるものばかりだ。
もちろん、街を守る側も癖のある者が揃うのも自明の理といえよう。
一紀達が訪れたその日は快晴である。
2つの桃色の閃光と男達の野太い声と共に街に迎えられることとなった。
『タァイチョオオオオォォーーーーッ!!!!』と言う声がこだました。
平和な街並みである。
「なるほど……あの人が噂の隊長さんかぁ。ポイナちゃんが気に入る訳だよねっ!」
そう言うのは赤髪と白のメッシュが入り混じったボサボサの髪を粗雑にサイドテールにまとめたメラニー・レイジュである。
気分によって変えている白シャツには『可愛さの極値を今ここに』と、達筆な字で書かれている。察するに情報は仕入れていたのだろう。隊長以外の方達が涙目であった。
対象的に彼女の表情は非常に満足気である。
「うぅ〜、ちょっと恥ずかしい……」
その隣で恥ずかしそうに顔を赤く染めているのはフラン・リキューラである。
青髪に白のメッシュの髪を肩まで伸ばした長めのボブカットは大人っぽく整えられており、一紀と共に冒険者としてこの街に留まることとなった事で彼女の姿からは少しばかり意気込みが伝わってくる。
要所要所には控えめな防具が施されてはいるが全体的に見ればオシャレにその比重が傾いているのはその羽織ったカーディガンからも明らかだろう。
普通の服でも防具として十分に機能するからこそできることではあるが浮くのは仕方がないだろう。
「まぁ、可愛くて当然なんだよなぁ。なにせ俺の自慢の子達なんだからなぁ」
一紀はと言えば凄まじく挑戦的であり、挑発的なドヤ顔をかましていた。
自慢の子達を褒められて悪い気はしないがなんだかんだで色々とついつい複雑な感情がその胸に去来する。
「かず、ジンキさんの顔芸ってすごいよね。なんていうか。作画の限界ってこんな感じなのかなぁって」
神妙な面持ちでメラニーはそう言う。
未だ立ち直れずにいるフランの耳には届かず、一紀改め、ジンキは意図的に無視した。
さて、今回3人がフェベレルの街に来たのは主に冒険者として活動する為ではあるのだが、それはアーカディア王国として動く為の活動拠点の確保の為でもある。
もっとも冒険者でなくとも良かったのだがそれは一紀のゴリ押しによるものだ。
実際、メリットは確かにあると認められたのでその案は通ったわけではあるが……。
アーカディア王国として動くとは言ってもそれはまだまだ先のことである。
周りから認知される、これ以上ないタイミングを見計らいたいのだ。
国の代表が冒険者をやる暴挙は、まあ、一応は理由があったりもする。それは一紀がジンキと名乗っている事と無関係ではない。
彼自身が有名になる事で自分と同じく異世界の出身である誰かを探す為のものでもあるのだ。
仮にも神絵師と呼ばれた『ジンキ』という名前。
とはいえあってないような理由だ。
ジンキという名前が果たして珍しいのか?
そもそも異世界の出身の者がその名を知っているのか?
などと問題は尽きないが、一紀の冒険者になる為のちょっとしたこじつけなので問題はない。
あと、敬語も冒険者仲間なら無い方がいいだろうというのも一紀の申し出だ。
しかし、それを無下にもできないので現在3人はフェベレルの街に繰り出しているわけである。
「冒険者ギルドってあれか?」
「おお! ぽいねー!」
「……宿が先じゃない、かな?」
「「…………」」
「……受付で紹介してもらえるかもしれないよね!」
メラニーとジンキが目を合わせると不思議そうな顔で首を傾げる。
「「フランが……空気を読ん、だ……っ!?」」
「ひどいっ!? なんでいつも私、こういう役割なの!?」
「「なんでだろ……」」
「揃ってニコリとしないで!? いたたまれないよぅ!」
いつもの漫才をしながらも、鎖に繋がれた二本の剣が交差した看板が目印である冒険者ギルドの中へと踏み入れる。
左側は酒場になっており、冒険者達で賑わっている。
剣や斧、槍などと多種多様の武器を傍らに昼間から騒いでいる者が少なからずいるのは冒険者ギルドだからこそだろう。
右側の奥には受付があり、少し離れたところに貼り紙の貼られた掲示板が窺える。
そこには仕事を選んでいるのか話し合っている声が聞こえる。
受付では冒険者である受注者と仕事を頼む側である依頼者とで別の受付となっている。
「登録となると、どっちなんだろうな?」
「冒険者側じゃないかな?」
3人で仲良く列に並ぶ。昼間ということもあり、冒険者の数は少ない方だ。
あまり待たずに順番は来ることだろう。
しかし、その間に彼等に否応なくぶつけられる冒険者からの敵意とちょっぴり混じった欲望の視線。
言わば、新たな冒険者の誕生を祝う儀式であり、通過儀礼のようなものだ。
だが、今回のそれはいささか普段よりも剣呑なものを帯びている。
ふざけた格好に若い男女の3人組。
金持ちの道楽か、男の単なる見栄か。嫉妬ももちろんあるのだろう。
そんな風に見えても仕方があるまい。
ジンキ達は歓迎されていない事に察しはついても理由にまでは思い至らなかった。
ジンキ個人としてはこれがテンプレか、などと見当外れとも言い切れない事を考える始末だ。
ジンキ達の順番が回ってきた。
「えーっと、冒険者の登録、でよろしいでしょうか?」
周りから突き刺さる視線に受付嬢の少し引きつった表情。
真面目そうで、素朴な印象の女性だ。
ギルド員の制服がよく似合っていて、その容姿もまたかなり整っているだろう。
髪を団子に纏めており、清潔感もある。
「メラニーももう少し、髪を大事にすればいいのに……」
「私はこれでも似合うからいいんだよ」
「もったいない」
「あ、そうですお願いします」
などと会話を始めてしまう2人を尻目にジンキが相手をすることになった。
「では、こちらの用紙に必要事項を書いてもらってもよろしいでしょうか? ちなみに代筆は必要ですか?」
「大丈夫です。全員書けるので」
「では、書けましたらまた、私に声をかけてください。あ、申し遅れました。今回、担当させていただきます。セイリンと申します」
「よろしくお願いします、セイリンさん」
お互いにお辞儀をして、ジンキは3枚の用紙を受け取り、メラニーとフランが喧嘩になりそうなところをメラニーの襟首を掴み、引きずっていく。
「っ!? 逆、逆だよっ! ジンキさん!?」
「……いや、もう少し自分にも気を遣ってもいいよなって思って」
「そんな!?」
愕然と上を見上げるメラニー。
しかし、不意に視界に映り込む影が……。
「……フッ」
「ジンキさん、あれ! フランちゃんを見てよ! あの勝ち誇った冷笑のドヤ顔!」
ジンキは振り返って見ると、フランは初動が遅れてそれを隠し切れずに一紀に僅かな間晒してしまった。
「いや、あの……」
「フラン……」
「はぅっ!?」
顔になんて残念な奴なんだ、と書いてあった。
受付嬢のセイリンさんは真顔で思った。
なんて面白い人達なんだろう、と。
★
ジンキ達から用紙を受け取った受付嬢が確認の為に読み上げる。
「お名前はジンキさん、メラニーさんにフランさんで間違いありませんか?」
「大丈夫です」
「年齢は18、16に17……16?」
一瞬引っかかるが、見た目と年齢が合わないなど割と結構あることだ、とそのまま次の項目に、行こうとした受付嬢だったが、メラニーが待ったをかけた。
「何か文句でも?」
せめて疑問でも? と聞いて欲しかった受付嬢のセイリンさんである。
自分の失態なので謝るほかないだろう。頭を下げようとしたがそれを遮るように笑いを堪える声が聞こえた。
「め、メラ、ニー。歳、盛っタィッ!?」
「最近のフランちゃんはなんだか慎みがなくなってきてるよね」
「今日、やけに浮ついてるもんなぁ……。あ、すいません続けて下さい」
「あ、はい。失礼しました」
普段馬鹿にできない分、ここぞとばかりに張り切ってる節がある。
そう思うジンキであるが、その内痛い目にあいそうで戦々恐々である。フランだし、と。
セイリンはにこやかに営業スマイルを浮かべながら仕事に徹しようと誓う。
確認事項も終えた所で、冒険者についての説明である。
「えっと、必要ですか?」
「一応、お願いします」
「わかりました。では……」
まず、冒険者とは何か、というもの。
ジンキとしては大体の概要は理解しているが、やはり細かいものとなると微妙な所だろう。
小説や漫画などで設定は数あれど、どれもこれもちょっとした違いがある。
それがまた、面白い所ではあるが当事者ともなるとやはり、ちゃんと理解しておいた方がいいだろう。
「冒険者というのは数ある職業の中の1つです。冒険者カードがあれば身分証にもなります」
「兼業とかはできるんですか?」
セイリンは頷き、肯定する。
「もちろんです。むしろ冒険者を兼業にする人が大半で本業にする人は割と少ないですね。最初の方の稼ぎはどうしても少なくもなるので」
「なるほどなぁ」
兼業……副業と言ってもいいだろう。
冒険者を本業にしないもう一つの理由としてはその手軽さだろう。
数少ない個人情報で冒険者カードを発行してもらうだけで冒険者を名乗れるのだ。
仕事の幅広さもまた冒険者特有のものである。
ちょっとした小遣い稼ぎにこれほどちょうどいいものもない。
とはいえ、ある一定の期間、仕事をこなさなければ冒険者カードを再発行をしなければならないので注意が必要だ。その期間は冒険者のランクによって変わる。
ランクについてはまた後ほど説明するとして、まずはここまでで1つ不思議な事があっただろう。
それ程までに手軽になれる冒険者という職業。
それだけで身分証にしてしまってもいいのか、というものだ。
「あー、確かに。そんなの認めまくったら色々問題ありそうだな」
「はい。なのでこれに関しては誰が、どこがその冒険者の身分を保証するのかが問題なんです。国が認めるにはあまりにも簡素ですので」
「じゃあ、どこが? やっぱりギルド?」
ジンキの疑問に答えたのはセイリンではなく、メラニーである。
横から入り込むように予想を立てる。
「結局は国が保証してるんじゃないかな? マルカルダ王国じゃない国! 責任逃れってやつ!」
「
セイリンは苦笑しながらも否定はしなかった。メラニーの物言いに驚きはしたが間違ってはいないのだ。
「ギルドでもありますし国でもありますね。冒険者というのはどうしてもその……言い方を悪くすれば荒くれ者達の集まりです」
「確かにな」
「そんな人達を国が認めるにはやはりどうしてもギルドという一組織では力不足です。何をしでかすかわからない集団でもありますから」
であれば同じ国ならばそれを容認もできるというものだ。
しかし、それは武力の独り占めをすることでもある。他国がギルドの所属する国を危険視しないはずがないだろう。
「そこで生まれたのが力と信用の国〝グルウェルムス中立国〟です」
中立国とは言っているが、それは永世中立国というものとはまた別のものだ。
冒険者ギルドは全大陸に渡って広がっている。そして、その冒険者ギルドのトップであるギルド総長が興した国がグルウェルムス中立国だ。
彼等の謳う中立は至極単純なもの。
自ら戦争を仕掛けない。
他国間の戦争に関与しない。
というものが代表的だ。
とはいえ、それは国としての方針。
その国民はまた別の話になる。
冒険者であれば、一応はグルウェルムス中立国の国民と言えば、彼等はそれを認めてくれるだろう。
では、その国民に傭兵として、又は軍に所属して欲しいと交渉し、戦争に参加するよう要請するのはどうだろうか。
それはその国民、冒険者の自由である。
言ってしまえばグルウェルムスの国民は自由を許されているのだ。
しかし、その冒険者が罪を犯せばどうなるか。
これだけの自由を与えている国だ。
正しい制裁がなければ他国が認めはしない。
無論、それ相応のしっぺ返しが冒険者に降りかかる。
つまり、良識ある範囲で自由を謳歌しろという事である。
規律を重んじる国でもあるのだ。世界の犯罪者を収監する世界最大の監獄もまたグルウェルムスの管轄なのだ。
そこには世界各地の犯罪者が収監されている。
「自由の国なのに規律を重んじるのか。いや、まぁわかるけどね。ちなみに犯罪者はどうなるんだ?」
「一般の良識は立派なルールですよ。犯罪者は場合によりますね。死刑であったり終身刑だったり……或いは一生戦いの見世物にされたり、でしょうか。あそこは殺す事が出来なかった方や奴隷にできなかった方達が収監されてますから……」
「なるほど……」
一般常識の欠如は否めない。
なのでこの時はそう言って流す他なかった。
ジンキには奴隷にはできなかった人達というのがどういう者達なのかがわからなかった。
それはメラニーやフランも同様である。
本来ならば奴隷というのはなんらかの強制力があるものなのだろう、というのはなんとなくわかったがそれが適応されない者達は一体どんな条件なのか……。
そもそも人を奴隷として使役できるその道具、或いは魔創が存在する事に恐ろしさを感じた。
これはその後、マナフォンを用いてスーワイアに訪ねた時の彼女の解答だ。
『人を奴隷にするなんらかの道具、ね。そんな物は存在しないよ。人を意のままに操る方法なんてある訳がない。魂を捕捉するだけでもとんでもない繊細さと労力が必要なんだ。ましてやそれを縛るなんて笑い話だ。だから……おそらくそれは心を無理矢理直したんだろうさ。折って捻じ曲げて砕いて奇妙な形に固めたんじゃないかな。もちろん魔創的な影響も借りてな』
納得のいく話だった。
そして、監獄に閉じ込められた者達が普通ではない事もまた察せられるだろう。
それは頭のネジが何本も外れている者達の集団、ということではない。もちろんそれは何人もいるのかもしれない。
しかし、恐るべきはその強い意志だ。その確たる信念だ。そのブレない自己だ。
「とはいえ、これは新人冒険者に話す脅しみたいなものですね。事実ではありますが……」
「誰もそんな所には放られたくはないわな……」
「そういう事です。では次です」
冒険者の階級についてだ。
冒険者にはE級からS級までの階級が存在する。
依頼をこなす事でその依頼の評価、内容如何によって上げることができる。
基本的に自分の階級より1つ上までの依頼を受注できるが、緊急依頼や指名依頼はその限りではない。
もちろん受けるかどうかの判断は自由である。それ故に全て自己責任なので依頼は良く見極めた方が賢明だろう。
そもそも冒険者の階級とはなにか?
それはギルドが示した冒険者のわかりやすい信用の形だ。
その判断基準は大まかに7つある。
まずはもっとも重要視される、というより必要不可欠なものと考えられている『戦闘能力』だ。
武器や魔力、距離に関係なく用いられる手段全てが判断基準である。
魔物との戦闘や護衛の依頼がある以上、戦う手段があるという事、そして強いという事はかなりの安心感だろう。
——その実力はこれ以上ない信用の形の1つとして返ってくる。
「基本と言えば基本だよな」
「1番結果を残しやすい手段だもんね」
ジンキとメラニーはそれはそうだと頷くとフランは掲示板を少し覗いてなるほどと納得していた。
「あ、だから戦闘能力に信用がないE級とD級に討伐の依頼がないのか!」
「それだけではありませんが最たる理由の1つではありますね」
2つ目は『頭脳能力』である。
知識量や判断力、知恵、などと創意工夫や想像力と創造力をいかに実現できるのか、いかに活かすことができるのかを見るものだ。
依頼が単純なのであれば問題はないが複雑なものもあるだろう。
それをどう達成してくれるのか、失敗の可能性はどれほどだったのか、それに対してどれほどの確実性で達成してくれるのか。イレギュラー時の対応はどうであったのか。
——その確かな過程は、道筋は確かな信用を積み重ねてくれるものだ。
「やっぱり知性って必要だよね?」
「なんで俺を見るの? 多少はあるつもりなんだけど……」
「メラニー、愚かなのとそれはまた別の話だと思うの」
「……一本取られたぜっ」
「だ、大丈夫ですか……?」
「うん、大丈夫。ちょっと悲しくなっただけで大丈夫……。つ、続けてもらえませんか?」
「は、はい! 喜んで!」
メラニーがハキハキと毒を刺し、フランは無自覚で静かに毒を差す。ジンキは震えた。
暗い空気を吹き飛ばす勢いでセイリンは続けた。
3つ目は『指揮能力』。
リーダーの資質といえばそのままではあるのだがそれだけを指しているわけではない。
有事の際、如何に冷静沈着でいられるか、どれほど周りとコミュニケーションを取り、高度な意思疎通を図れるか、柔軟且つ的確な判断ができるか、適確な作戦立案ができるか。
そういった能力をどのくらい有しているのかによって決まる。
——周りは否応なく納得とともに信用せざるを得ないのだ。
「……これ、もしかしなくても全部の判断基準に信用を1番の軸にしてるよな」
「当然といえば当然じゃないかな? それだけで身分証がもらえるんだし」
「階級も上がればその分だけその身分証の強度も上がるって事だよね?」
フランの言う強度。
それは間違いのない話だ。
例えば運転免許。
ゴールドとそれ以外ならばどれほど信用に差があるだろうか。
そこには確かな扱いの差があり、信用の有無があるのだ。
セイリンもまた頷く。
「その通りです。だからこそ冒険者は自分のランクをあげようとするのです。これならスラムの方でも信用を得られるので」
「……なんか思ってた以上にしっかりしてるなぁ」
ギルドがあるだけで犯罪率、というか治安も良くなりそうなシステムだ、とジンキ達は思った。
感心するジンキ達を見ながらセイリンは続ける。
4つ目、『救命能力』。
それは命を救う能力だ。直接的であれ間接的であれ、命を救える力だ。
具体的に何を求められるのか。
治療はもちろんの事、回復魔創や回復薬などの備えがあれば普通は十分だったりする。
しかし、それらがない非常事態の時の行動もまた評価に値するだろう。
応急処置や治療する状況、判断、適確な行動が必要である。それは時間との勝負でもあるので瞬発力もまた必要だ。
「『君の救った命は君の信用を証明する確かな生き証人だ!』……おや、どうしました?」
「え? ああ、うん、いや。俺は好きだよ? その各項目にあるキャッチフレーズというか決め台詞というか」
「マニュアルにはそうあるんですよ。最初は恥ずかしかったんですけど、慣れ、でしょうかね……」
「キャッチーで好きですよ!」
「メラニーさん……」
妙な感じに気を遣われて少し感動したセイリンさん。
それはそれとしてまだ3つあるので早々に片付けたい所だ。
「では5つ目」
それは『探索能力』だ。
魔物や必要な植物など早く見つかる事に損はないだろう。
その能力は自分の身を守るのにも大変役に立つ。
自然を味方にできる力ほど頼りになるものもないはずだ。
広く確かな情報は手詰まりの状況を打開する一手となり得るのだ。
——情報を網羅し、自然を把握し、味方につけたのならば、もはや全ての信用を得たに等しいだろう。
「なんか無理矢理にでも信用に繋げようとしてるよな」
「間違った事を言ってる訳でもないのがちょっとイラッとくるよね」
「なんだか急にロクでもない説明をされてる気分……」
「えっと……ノーコメントで」
残すは2つという事で6つ目『求心力』。
人々の心を惹き寄せるそれは魅力であり、カリスマだ。
その人がいるだけで人々は歓喜し、士気を向上させるものだ。
自然と人を集めるそれはもはや生まれ持った才能と言ってもいいだろう。
——人の数だけ己の自信であり、自身が勝ち取った信用に他ならない。
「これ、あくまでも1つの判断基準なのであって別に戦闘力だけでもS級にはなれるんだよな?」
「ジンキさん、人気者になれる自信がないと見やした」
「ばっ、ちげーよ! 階級がただの人気取りになったらオシメェーだと思っただけだ!」
「ジンキさんはいつだって私の1番だよ!」
「……アテにならないんだよなぁ」
「ひどい!?」
またもやコントが始まってしまったがセイリンは断固として仕事を全うする。
「あくまで総合的に見て判断するので人気だけで決める訳ではありません。判断基準にも優先させる項目はあるので」
「ああ、もしかして優先度順で紹介してくれてたんですか?」
「はい、もちろん絶対的な関係ではありませんが」
「なるほどー、じゃあ最後は結構くだらなそうなのが来そうですね!」
メラニーがワクワクした様子でそう言う。
それを咎める人がいないあたり予想は同じなのだろう。
「最後は『財力』です」
「「「ロクでもないヤツだッ!!!!」」」
「まあ、説明ぐらいはさせてください」
「……まあ、案外真面目な理由かもしれないよな」
さて、『財力』と言えば聞こえは悪いかも知れないだろう。
財力とはすなわち財産であり、資産だ。
それはどう言い繕っても紛れもない力である。
その力を評価しないのもまた、おかしな話ではないだろうか?
そして、誰だって聞いた事はあるだろう。
——信用は金で買える。
「納得しかけた俺がバカだった!」
「否定できないのもイラッとくるよね……」
「い、いえ、これは多分散々信用に繋げてた分逃げ場をなくした仕方のない例えなんです! 多分!」
「セイリンさん……」
ジンキの憐憫の眼差しが必死に庇おうとするセイリンを捉える。
「説明はまともだったしいいと思うけど……」
「やり直せって話なんだよ、フランちゃん」
「ぐうの音もでないわ……っ!?」
フランも戦慄した。
とはいえ階級についてもおおよそ理解できただろう。
「やっぱS級は極端に少なそうだよな」
ジンキが言っているのは物語に出てくる定番ともいえるS級の数だ。
世界にS級が一桁代と言うのは良くある話だ。
しかし、セイリンは首を横に振り、否定した。
「いえ、ひと昔前ならそうだったんですけどね。現在は『蠱毒の英傑期』と呼ばれる程にS級は多くいます。あくまで比較的ですが」
「マジか」
「えっと、S級同士ってそんなに仲が悪いの?」
蠱毒というただならぬ表現にメラニーが素直に思った事を聞くとセイリンは苦笑を溢す。
「これは単に彼等の個性に当て嵌めてるだけですね。全員ではありませんがぶっ飛んではいるので」
「なるほど、個性の潰し合い、か」
いつかその舞台に立って見たいところではあるジンキだがそれはまだ先の話だ。
まずは地道に階級を上げて行かなければならない。
説明も一通り聞き、セイリンにオススメの宿を聞いてからジンキ達は冒険者ギルドを後にした。
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