第2章

振り返れば、語り屋もまた口を開く

 いやぁ、忘れた忘れた。そんな人、私は忘れてしまったね。

 そう言って忘れられるなら、きっと楽なんだよね。そんなこと、知ってるよ。

 忘れられようとしている側は呑気なもので知ったこっちゃないだろうけど、ね。忘れようとする側はきっと四苦八苦するよ。

 そもそも忘れられるのならそんな事すら思わないはずだよね?

 忘れられないのはそこには確かな〝絆〟があったから。

 忘れようとするのもそこに確かな〝絆〟があるからこそだもんね。

 どんな絆であれ、それは君自身の繋がりであって、鎖であり、君がいた証だよ。

 言わば1つの君であり、紛れも無い君自身ってわけだ。

 切り捨てるのがまた一苦労なのも納得のいく行為だよね?

 ここで1つ聞きたいんだ。

 忘れようとした君がもし、突如、残される側に……もっと言えば遺される側になったらどうするのかな?

 ええ?

 そこまでは思ってなかったって?

 まあ、そうだよね。でも、考えてみて欲しいな。

 楽に忘れられるんじゃないか、て?

 あっははは、面白い冗談だね。

 でも、確かにそうかもしれない。本人がいないなら記憶が掠れても仕方がないよね。

 でも、君に刻まれてしまった絆だからこそ掠れてはいても残ってしまったのかもしれないね。

 いやぁ、ごめんね?

 なんか勝手に喋り出しちゃって。

 ここは運が悪かったと思ってよ。

 急におしゃべりなお姉さんが急に絡んできてなんか語り出しちゃったよ、てさ。

 あ、酔っ払ってないよ? そこ大事! 素面でそれかって顔しないでもらえるかなっ!?

 まったく……私もなんだか満足しちゃったし、知りたい事はやっぱりわからなかったけど、楽しかったからね。

 それじゃまたね。

 いや、ここはありがとね、で済ませておこうかな?

 いつかまた会うかもしれないし会えないかもしれない。

 私は世を渡り歩いてるんだよ。

 そうだねぇ。知り合いの例えがとても好きだからそれを使うとしよっか。

 私は語り屋。

 お喋りが大好きな〝語り屋〟だよ。

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