生き足掻くという事
ある日、絶望と共に光を奪われた。
失敗だと言われ、まだ利用価値はあると生きる権限を握られた。
絶望の中、最も辛く彼女達を押し潰そうとした事は暴力などではなく、家族や友の嘆きや悲鳴ではなく、光を失い暗闇に生きる事を強いられた事でもない。
人として生きていく己の人生の中でただただ〝生かされた〟ということ。
別に自ら命を絶つ気は無かった。その勇気がないのだから。
殺すでもなく、酷い扱いをする訳でもなく、恐怖の中で光を失ってもなお、ただただ人として普通に生かされたのだ。
自分の周りの状況はもちろん把握できる。
言葉にするのも悍ましいものだった。
だから自分の境遇を素直に喜べればどれ程良かっただろうか……。
そんな状況の中で双子は、心優しい彼女達の心には、1つの変化があった。
皆の分も生きてやろうという貪欲な生への執着。
何を蹴落としてでも生きてやろうという醜くも美しい当然の生への執着だ。
★
「これは、すごいな……。真っ当に生きていれば天才って言われてるだろうな」
「う〜ん、スーちゃんなんか、悔しそう?」
「少しな。共に研究できてればどれ程捗った事か」
ある日、目を覚ますと……いや、意識が覚醒するとそんな会話が双子の耳に入った。
最後の記憶はなんだっただろうか?
馬車に乗せられて、とても寒い思いをしたのが最後だったな、と思い出す。
聞いたこともない声の人達に今更ながらに不安に駆られる。
「おや、起きたのかい? 2人同時かぁ」
「さすが双子、だねぇ〜」
わずかな身じろぎから起きた事を悟られたのだろう。
ハキハキとした口調とそれとは真逆なのんびりとした口調。
双子がなにかを言おうとする、その前にハキハキとした口調の人物、スーワイアが話し出す。
「起きた所、早速で申し訳ないんだけどね? 1つ聞きたい。その目は、どうしたんだい?」
いきなりの問い掛けだったが双子は意外にも混乱はなかった。
姉が、妹が共にいるのならばと少し安心できたのだ。
姉であるウナ・クリアデルは答えた。
「……エイテムは天使の眼って言ってたよ?」
付け足すように妹のエウ・クリアデルが答える。
「失敗だとも言ってた」
そう言えばと2人は包帯が取られていることに気が付いた。
しかし、だからといってどうすることもできない。
スーワイアはそうか、と呟くと少し考え込んだ。
「天使の眼、か。……いわゆる俗称か? しかし、この眼……」
「うーん、移植、かなぁ〜?」
「ああ、間違いないね……。多少、手を加えられているみたいだが……なるほど、やはりエイテムとやらは天才だな。惜しむべきは失敗と判断したこと、か」
「……スーちゃん、失敗じゃないの?」
「エイテムの狙いと一致しているかは知らないが少なくとも成功と言えるな。魄技の人工的な発現という意味では、な」
「……非人道的ではあるけど、ね〜」
双子を無視して再び白熱しだした2人。
研究者としてはやはり目の前にある好奇心からは逃れられないという事なのだろう。
魄技というのは魂に刻まれた技術だ。
人工的にそれを発現させたという事は魂を壊す事なくそれに触れる事が出来たという事だ。
スーワイアやミネアレが興味を示すのも無理はない、しかし双子を放置というのも少しばかり可哀想だろう。
それを思い出したのだろう。
スーワイアは双子に向き直る。
「ああ、すまないね、2人とも。ここで1つ確認をしたい。君達は今、こちらを見る事は出来ない、そうだね?」
「あ、うん」
「見えない……」
それはエイテムに弄られた結果であり末路だ。
そうだろうね、とスーワイアは頷く。それは彼女から見てもそう見えたのだ。
「私には君達の眼を直す方法がある、と言ったらどうする?」
「「……っ!?」」
その言葉の意味を理解して身体を強張らせる2人。
だがそれは、その問いは、
「スーちゃんは〜、いじわるだねぇ」
ミネアレの小さく呟かれた言葉通り、あまりにも意地の悪い質問だ。
2人の答えはほぼ間違いなく1つしかないはずなのだ。
しかし、ミネアレはスーワイアの質問の意図に気付いた。
あそこまで弄られた眼を治すなど常識的に考えて有り得ない。
しかし、1つ方法が残されていた。
「ウナは……ウナはまた、目が見えるようになりたい! エウの顔が見たいよ!」
「エウも、エウもウナが見たい!」
「……だろうね。だけど1つ君達に聞かなければならないんだ」
開かれない瞼から溢れ出る涙を見て、スーワイアは尚も問いかける。
「エイテムの副産物がその目に残ったとしても、かい?」
「「…………」」
未だ、彼女達の目には天使の眼の残骸が残っている。
仮に治療しても片目は無事治るだろう。しかし、もう片方には天使の眼が残る。
その天使の眼があるからこそ治療ができるという事だ。
そして、魂には魄技が刻まれている。エイテムに消えぬ傷を魂に刻まれたに等しい。
たとえ、有用だろうと、こればかりは本人の心次第なのだ。取り除く事なら今しかないとスーワイアは言う。
割り切れれば良し、そうでなければそれまでである。
スーワイアは彼女達にそれを丁寧に説明した。
「どうする?」
しかし、スーワイアの配慮はどうも必要なかったらしい。
2人も伊達に暗闇の中でずっと長い間閉じ込められた訳ではないのだ。
嫌でも心にある程度の強さが身につくものだ。
よって、
「「お願いします……」」
2人の答えもまた了承であった。
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