第十二章第38話 戦争と聖女
「町を丸ごと燃やされたんですか!?」
「そんなっ! じゃあ豚骨ラーメンと鶏の水炊きはっ!」
「え?」
「え?」
ルーちゃんの状況にそぐわない発言に驚いて顔を見るが、ルーちゃんはキョトンとした表情で私のほうを見つめ返してきた。
「フィーネ、その子はエルフだもの。それに人間のせいでひどい目に遭って、今も家族を探しているんでしょう? なら知らない人間の生死なんて気にしないのが当然じゃないの?」
「それは……」
そうかもしれないが、なんとも気持ち悪さが残る。
「フィーネ殿、種族が違うのだから仕方ないでござるよ」
「そう、ですね」
思い返してみればルーちゃんは食事以外の場面ではずっと一線を引いていた。されたことを考えればそれは仕方のないことなのかもしれない。
「ああ、そうそう。ルミアだったわね?」
「え? はい」
「多分、その料理人たちも無事なはずよ」
「本当ですかっ?」
「ええ。レッドスカイ帝国の奴らが来る前に避難させたらしいわ。フィーネたちだって、サキモリじゃなくてミサキから来たんでしょう?」
「はい」
「そういうことよ」
な、なるほど。あのとき入港できなかったのは再開発工事ではなく、人々の避難を進めていたのか。
「じゃあ、怪我人のところに連れて行ってください。私が治療をしますから」
「そうねぇ。でも、民間人の怪我人はいないって聞いているわよ? 治療するなら兵士の治療になっちゃうけど、いいの? 国と国の戦争に関わることになるわよ?」
「フィーネ様、それはいけません。世界聖女保護協定で、国家間の紛争に聖女を利用することは禁じられています」
それは言われたが、負傷者がいると分かっているのにそのままにしておくことはできないだろう。
「でもクリスさん、精霊神様は私の好きにしていいと言っていました。それに私はゴールデンサン巫国の人たちだけを治療するのではなくて、レッドスカイ帝国の人たちも治療します」
「「えっ!?」」
クリスさんとシズクさんが同時に声を上げ、私の顔をまじまじと見つめてきた。
「私は無益な戦争で人が傷ついて、死んでいくのを止めたいだけです。それにレッドスカイ帝国の兵士だって説得できるかもしれないじゃないですか。そうしたら国に戻ったときに戦争に反対してくれるかもしれません」
「……はは、その考えはなかったでござる。フィーネ殿は本当に聖女でござるな」
「そうですね。かしこまりました」
うん。良かった。二人とも納得はしていないのかもしれないけれど、それでも付き合ってくれるようだ。こんなのは甘い考えだと言われるかも知れないけれど、人間はきっと改心できるはずだ。人間は瘴気を生み出すけれど、それを滅する光も同時に生み出すことができるのだから。
この方法が正しいのかは分からないけれど、一人一人が光り輝けるよう地道にやっていくしかないと私は思う。
そんな私たちのやり取りを見ていたアーデがしみじみと
「フィーネったら本当に聖女になったのねぇ」
「ええと?」
「あなたも聖女になって変わったってことよ」
「え? そうでしょうか?」
「そうよ。そういうものだもの」
「はぁ……」
何を言っているのかよく分からないが、聖女らしくなったと言いたいのだろうか?
まあ、あれだけ聖女様、聖女様と言われて周りからチヤホヤされれば多少は変わるのが当然のような気もする。
とはいえ私は瘴気をなんとかしたいのであって、聖女様をしようと思っているつもりはまったくないのだが……。
「ま、いいわ。いってらっしゃい。案内役を手配させるから、しばらく待ってくれるかしら?」
「はい」
「じゃあ、これからは毎日一緒ね。もうこのまま同衾しちゃう?」
「ええと、お断りします」
「なんで? いいじゃないの。減るものじゃあないでしょう?」
「いえ。なんだかアーデと一緒にいると減りそうな気がしますから」
「やだっ! フィーネったら意外と大胆ね」
「はい?」
「だって、それってフィーネがわたしを襲うっていう宣言よね? もうっ! 情熱的ねぇ」
「ええぇ」
◆◇◆
それからもしばらく不毛な問答を繰り返したのち、私たちは宮殿を出てシンエイ流の道場へと向かった。
また怪我人の治療については後方の病院を手配してもらえることになった。これにはそれなりに準備が必要だそうなので、完了し次第シンエイ流の道場まで役人が連絡に来てくれることになっている。
だからそれまではシンエイ流の道場で修行をして待つつもりだ。
早く戦争など終わってくれればいいのだが、多分将軍をなんとかしないと終わらない気がする。
だが、果たして私たちが介入せずに将軍を止められるのだろうか?
それに、万が一将軍が討たれたらきっとイーフゥアさんは悲しむだろう。
だからどうにかして話し合いで解決してもらいたいものだが……。
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次回更新は通常どおり、2023/01/29 (日) 19:00 を予定しております。
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