第十一章第6話 アミスタッド商会の末路

「あの、大統領?」

「はい、なんでしょうか」

「教会に渡してはダメなんですか? 教会も全国にありますよね?」

「それは……そうなのですが……」


 んん? なんだか歯切れが悪いような?


「教会は基本的に寄付で運営されております」


 うん。そうだよね。それはどこの教会も同じだと思う。


「ですが昨今の魔物の影響で、教会の物資の輸送もハスラングループが手助けしております」

「ええと?」

「つまり教会がハスラングループにお金を支払い、種を輸送することになるのです」

「はぁ。それの何がまずいんでしょうか?」

「ですが、ハスラングループは商売をしております。貴重な種を運ぶとなれば、当然高額の配送料を支払う必要があります。紛失してしまえば取り返しのつかない損害になりますので」

「ああ、なるほど……」

「教会への寄付金がそういったことに使われるのは、あまり良いことではないでしょう」

「はぁ」


 そうなのかな?


 言われるとなんだかそんな気もしてきたぞ。


 あれ? でもなんだかやっぱり違う気も?


「それと聖女様、話は変わるのですが……」

「はい。なんでしょうか?」

「以前の奴隷に関する件です」

「っ! レイアの居場所が分かったんですか!?」

 

 ルーちゃんがソファーから立ち上がり、前のめりで大統領に質問した。


「いえ、残念ながら……」

「……そう、ですか」


 ルーちゃんはストンとソファーに腰を降ろす。


「奴隷取引を主導していたアミスタッド商会の各地の拠点には捜査のメスが入り、関係者は逮捕、処刑されました。その過程で多くの奴隷とされた人々を救出したのですが……」

「隷属の呪印、ですか」

「はい。もう一度聖女様がいらしたときに解呪をお願いしようと、被害者はここリルンに集めておきました。お慈悲を賜ることはできませんでしょうか?」

「はい。もちろん解呪しますよ」

「ありがとうございます!」


 こうして私たちは大統領との会談を終え、その足で奴隷とされた人たちを解呪しに向かうのだった。


◆◇◆


 私たちは迎賓館にほど近い場所にある大きな建物にやってきた。なんでもここは奴隷にされた人たちを保護するため、ハスラングループが政府に提供している建物なのだそうだ。


 その建物の入口ではアスランさんが私たちを待っていた。


「聖女様、お久しぶりです。お待ちしておりました」

「お久しぶりです。アスランさん」

「さあ、どうぞこちらへ」


 そうして案内された建物の中は迎賓館と比べるととても質素な内装となっており、落ち着いた雰囲気で統一されていた。保護施設という性格もあるのだろうが、なんとなく病院のような印象を受ける。


「二階より上と、地下室において被害者を保護しております」

「え? 地下室もですか?」

「はい。被害者の中には主人が死んだら後を追えと命じられているものもおりまして、自殺ができないようにしているのです。大変心苦しいかぎりなのですが……」


 なるほど。ということは監禁状態になっているのか。


「わかりました。それでは、地下室の人たちから解呪しましょう」

「かしこまりました」


 そうして階段を降りて地下一階へとやってきた。そこには厳重に施錠された扉があり、アスランさんはその扉の鍵を開けて中に入る。


 続いて中に入るとそこには一直線に延びる廊下があり、その左右にずらりと扉が並んでいる。


「奥の三部屋以外は全て被害者がおります」

「こんなに、ですか……」


 あらためてアミスタッド商会の犯した罪の重さが分かる。そして彼らはきっと大量の瘴気を撒き散らしたことだろう。


「じゃあ、まとめてやってしまいましょう」

「え?」


 アスランさんが驚いた様子で私を見てきたが、今の私であればこの程度は朝飯前だ。


 廊下から左右に広げるように解呪魔法を発動する。


 するとしっかりとした解呪成功の手応えが帰ってきた。


「はい。これで全員呪いは解けたはずです」

「ええっ!?」

「ですから、地下の人たちはこれでもう大丈夫です」


 アスランさんが口をあんぐりと開けて私のほうを見ていたが、すぐに真顔に戻った。


「あ、ありがとうございます! これで我々も肩の荷が下りたというものです」

「この施設はアスランさんのグループが提供しているんでしたね」

「はい、そうなのです。もともとこの建物は解体して新たにホテルを建設する予定だったのですが、事情が事情でしたので」

「そうですか」


 商売の計画を変更してまで被害者に寄り添うなんて、素晴らしいじゃないか。


 それから私たちは他の階で保護されていた人たちの解呪を終える。


「そういえばアスランさん」

「なんでしょうか?」

「アミスタッド商会の人たちはどうやって隷属の呪印を施したのでしょう?」

「被害者の証言によりますと、何かの魔道具を利用していたようです」

「魔道具?」

「はい。ただ残念ながらその魔道具は行方不明でして、不思議なことに関係者もその行方を知らないと言っているのです」

「え? どういうことですか?」

「取り調べの記録も確認いたしましたが、全員が口をそろえて行方を知らないと証言していたようなのです」

「……誰かが持ち出したということですか?」

「恐らくは……」


 ということは、まだ同じような被害者が生まれてしまう可能性はまだあるということか。


 どうやらこの奴隷の問題はまだ解決したとは言い難いようだ。


 ううん。どうしたものやら……。


================

 次回更新は通常どおり、2022/04/26 (火)19:00 を予定しております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る