第十一章第7話 ハスラングループと種
2022/06/20 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
================
「ところで聖女様」
「はい」
「大統領よりお聞きかと思いますが、ぜひとも我がハスラングループにて聖女様の種をお預かりさせていただきたく思っております」
奴隷の人たちの解放を終えた私にアスランさんがそう申し出てきた。
「現在我が国において存在が確認されている種はわずかに三つだけです。一つはすでにここリルンの迎賓館に植えられておりますので、残るは二つのみです。ただ、その種があまりに法外な値段で売られており、我々としても困っているのです」
「そうらしいですね。ヒュッテンホルンでは、金貨五百万枚で買い取りの打診があったと聞きました」
「そうでしたか。今はさらに値段が高騰しており、確実に手に入れたければ金貨一千万枚ほどが必要となるでしょう」
ううん。そんなになっているのか。
こんなことのために種を渡したつもりじゃなかったんだけどな。
「ですので、どうか我がハスラングループにお預けいただきたいのです。魔物どもが暴れ回っておりますが、我がグループは全国の流通網を保っております。それに我が国の物流の大部分は現在我がグループにて承っておりので、もっとも効率的に種を地方へと届けることができます」
どうしたものだろうか?
「どうでしょう? 種一粒に金貨十万枚をお支払いいたします」
うーん、金貨十万枚が適正価格なのか。
でもこれだと今の取引価格の百分の一ということになるはずだ。大統領は値段を下げすぎるのは良くないと言っていたけれど、これはどうなんだろうか?
あ、もしかしてアスランさんは価格を上乗せせず、金貨十万枚に近い価格で売るつもりなのだろうか?
うーん? 何が正しいのかよく分からない。
「我がグループが必要とする人々へ、適切にお届けすることをお約束いたします」
なんだろう。うまく言えないのだけれど、なんとなく違う気がする。
「あの、教会に任せるのはダメなんでしょうか?」
するとアスランさんは残念そうに首を横に振った。
「教会がきちんと機能しているのであれば、それも手だと思います。ですが聖女様、今の教会にそのような力はないのです。聖女様、我が国は以前ブルースター王国という王制国家であったことはご存じでしょうか?」
「はい。聞いたことはあります」
「当時の王は悪政を
「ええと、その革命と教会になんの関係があるんでしょうか?」
「はい。大いにあるのです。当時の教会は王の味方をし、あろうことか教会騎士団を使って信徒である民衆を弾圧しました」
「そうだったんですか」
「その反省から、教会は非武装であるべしとの考え方が定着しました。ですので、教会には自らの手で種を運ぶ手段がないのです」
「はぁ」
「その場合、種を運ぶのは我々となります」
大統領と同じことを言っているな。
「しかしこれほど貴重な種を運ぶとなると、魔物以外にも盗賊による襲撃といった事態も考えられます。それと考えたくはありませんが、人間の行うことですので紛失してしまう可能性だってあります。そのように何かの事故があった場合、我々は教会に対して賠償を行う責任が生じます」
なるほど。確かに運んでいる途中でなくしたら弁償しなければならないだろう。
「しかし、賠償する金額が今ですと金貨一千万枚にもなるのです。それほどリスクの高い高価な品物を運ぶ以上、運賃は相当値上げせざるを得なくなります」
なるほど。弁償する価格が高ければ、事故が起きたときに普通の金額で引き受けていると割に合わないということか。
「教会としても、運賃を下げるために免責特約を認めた結果種を紛失した、などということは認められないでしょう。それに紛失しても構わないという契約であれば、紛失した種がなぜか運んでいた者の故郷に植えられていた、などという事態が起きるかもしれません」
ああ、なるほど。それで家族が魔物に怯えなくて済むようになるのなら、やる人はいるかもしれない。
「であれば、最初から我々が我々の商品として責任をもって運んだほうが良いでしょう」
うーん、でもなぁ……。
悩んでいると、シズクさんが横から耳打ちしてきた。
「フィーネ殿、一度教会にも聞いてみてはどうでござるか? 拙者もこの話はどこか引っかかるでござるよ。それに、両方に渡すという手もあるでござるからな」
ああ、なるほど。それもそうか。
「アスランさんの考えはわかりました。少し考えたいので時間をいただけますか?」
「もちろんです。ただ、できれば旅立たれる前には結論をいただきたく思います」
「はい」
こうして私たちはアスランさんと別れ、迎賓館に戻るのだった。
================
次回更新は通常どおり、2022/04/28 (木) 19:00 を予定しております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます