第九章第18話 名づけ
微妙な味の水煮を食べ終わったころ、どこかに行っていたヴェラが戻ってきた。
「フィーネ。ヴェラだけじゃなくて他のみんなにも名前をつけてあげて欲しいゴブ」
「え? はい。もちろん構いませんよ」
すると遠巻きに見守っていた魔物たちがわっと私の周りに集まってきた。
「まずはぼくゲコ!」
最初はどうやら小さなジャイアントポイズントードの子らしい。
ジャイアントポイズントード……うーん?
カエル、だよね?
ええと、そうだ。これにしよう!
「じゃあ、あなたの名前はカエサルでどうでしょう?」
「カエサル? カエサル。カエサル! ぼくはカエサルゲコ! ゲコゲコ! 気に入ったゲコ!」
「良かったゴブな」
「嬉しいゲコ!」
「はい。よろしくお願いしますね」
「ゲコ!」
うん。カエルだからカエサル。我ながら安直だけど良い名前な気がする。
「次はオイラだピョン!」
バッタの魔物の子が出てきた。
「ずるいバウ」
「アチシも欲しいニャン」
「はいはい。みんな順番に」
「っちっち」
周りの子たちを宥めてバッタの子の名前を考える。
バッタ……。ピョン……。
うーん? 難しいね。バッタの意味のイタリア語は知らないし……。
ピョン。ピョンピョン?
ジャンプする?
飛ぶ? んん? 飛ぶ?
よし!
「それじゃあ、トビーというのはどうでしょう?」
「トビー! トビーだピョン! 嬉しいピョン」
「それは何よりです」
トビーは嬉しそうに跳ねまわっている。
うん。あれだけ喜んでもらえると名づけをしたかいがあるというものだ。
何だかこう、昔孤児院巡りをしていたときに一緒に遊んた子供たちを思い出す。
あまりにもたくさんの孤児たちに会いすぎて一人一人の顔は思い出せないけれど、あの子たちは元気にしているだろうか?
「次はオレッチだっち」
「はい」
今度はトレントの子だ。
トレント……。トレン……レント……うーん。違う気がする。
トレント……木……うーん?
あ、そうだ。たしかイタリア語で木はアルベロだった気がする。
だったらこれにしよう。
「あなたの名前はアルベルトでどうですか?」
「! 良い名前っち。オレッチはアルベルトだっち! ちっちっちっ!」
「はい」
うん。我ながら安直な気もするけれど……。
ふと顔をあげると少し遠くでオークの子が羨ましそうにこちらを見ている。
「ええと、遠くで見ているあなたにも名前をつけて良いですか?」
「!」
オークの子は目を見開き、そして嬉しそうに頬を緩める。
うん。あの子は引っ込み思案な性格っぽいし、こちらから提案してあげたほうが良さそうだね。
名前は何にしようかと考えてみると、この子の場合は特に連想ゲームをすることなくすぐに思いついた。
「じゃあ、あなたの名前はゴンザレスです」
いや。なんか、こう。脈絡はないが何だかゴンザレスって感じだったのだ。
「お、お、お、おで。ごごごご、ゴンザレス!」
そう言ってにぱーっと笑顔になる。うん。喜んでもらえて良かったね。
「次はアタイだズー」
ミミズの子が名乗り出てきた。
「はい。そうですね……」
私は名前を考え始める。
ミミズ……女の子……うーん?
ミミズのイタリア語は知らないし……。
うーん? ミミズのずーちゃん。
いや、さすがにそれはちょっと……。
ミミズ……。ん?
よし。これにしよう。
「じゃあ、ミミーでどうですか?」
「ミミー! アタイ、ミミーだズー! やったズー!」
ああ、良かった。喜んでもらえた。
「じゃあ、次はアチシだニャン」
「はい。そうですね……」
猫サイズの小さなジャイアントジャガーの子は……。
うーん?
ジャガー……ジャガー……じゃが美?
いやいや。さすがにそれは可哀想だよね。
ええと……。
ちらりと見るとものすごく期待した目で私のことを見つめている。
これは……可愛い名前を考えないと。
ええと……じゃが子。
って違う。ここから離れなきゃ!
あ! そうだ。ヴェラの名前でリンっていうのをやめにしたけど、ジャガーなら良いんじゃないかな?
でもそのままだと可哀想だし……。
よし!
「カリンはどうでしょう?」
「カリン! ニャ! ニャ! アチシはカリンだニャ」
よかった。この名前も気に入ってもらえた。
カリンちゃん。うん。名前の響きもかわいいよね。
「バウ。次はぼくバウ」
「ボクだワン」
「はい。じゃあ、一緒に考えますね」
「ワン!」
「バウ!」
二匹はまるで兄弟のように息をぴったり合わせて返事をした。
うーん? でもこれ、狼っぽいけどしゃべる犬だよね……。
あ、まずい。何だか犬の名前しか思い浮かばなくなってきた。
ええと……ポチ、じゃなくんて……。
ええい! もうこれでいいや。
「じゃあ、あなたがクウ。あなたはカイです。どうですか?」
「ワン! ボクはクウだワン!」
「カイだバウ!」
うん。喜んでもらえたし、良いよね?
ふう。これで全員名づけが終わった……あれ? 何か忘れているような?
「くぅーんくぅーん」
私の足元から甘えたような犬の鳴き声が聞こえてきた。
「ああ、はい。じゃあ、あなたはポチです」
あ。しまった! つい勢いで……。
「アオンっ!」
ポチは豪快に尻尾を振って喜びを表現してくれている。
ええと、うん。喜んでくれてるし、まあいいか。
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