第九章第19話 開拓開始

「さあ、開拓しますよ」

「ニャ?」

「開拓? それは何ゴブ?」


 みんなに名前を付けてあげた翌日、私はそう宣言した。


 だって、せっかく温泉があるのだ。これに入らないだなんて! そんなもったいないこと、許されるわはずがない。


 そう。これは温泉を知る者としての義務なのだ。


「温泉に入れるようにするんです」

「バウ?」

「温泉? ってなんだワン?」

「温泉というのはですね。地中から熱いお湯が湧き出ている場所のことです。この温泉には色々な有効成分が含まれていてですね。色、匂いが違うだけでなく様々な効能もあって、温泉に入浴すると美肌や冷え性だけじゃなくて切り傷、火傷、皮膚病や婦人病、肥満や高血圧など様々な症状に効くんです。しかも、入浴だけじゃなくて飲んでも効果があるんです。この島で私が見つけた温泉はですね――」


 こうしてひとしきり温泉について説明してあげたのだが、なぜかみんなぐったりしている。


「あれ? どうしましたか?」

「……難しくてわからないピョン」

「フィーネ、賢いっち」


 ああ、しまった。つい温泉のことを語るのが嬉しくなってしゃべりすぎてしまったようだ。


「ええと、とにかく温泉はすごいんです」

「わかったゲコ」

「お、お、お、おで。て、て、てつ、だう」

「はい。ありがとうございます」


 温泉の素晴らしさについてはいまいち理解されていない気がするが、とにかく温泉開拓については理解を得られたようだ。


 となると、まずは温泉までの道づくりだ。それから浴場に洗い場、脱衣所などを備えた本格的な温泉施設を作り上げるのだ。


「じゃあ、ついてきてください。まずは私が見つけた源泉に案内しますね」

「げ、源泉? 源泉って何ゴブ?」

「温泉が湧き出ている場所ですよ」

「湧き出るゴブ?」

「そうです。大地の恵みですね」

「ゴブ? すごいゴブ?」

「そうなんです。とてもすごいんですよ」


 こうして私はみんなを源泉の見える場所へと案内するのだった。


◆◇◆


 源泉の見られる外輪山の尾根へとやってきたのだが……。


「た、高いピョン」

「お、お、お、おで。こ、こ、こ、怖い……」

「無理ゲコ。落ちるゲコ」


 トビーとゴンザレスとカエサルが怖がって進めなくなってしまった。


 レッドスカイ帝国で通ったファンリィン山脈の桟道と比べれば倍以上の幅があるし、足元だってきちんと地面なんだから怖くないと思うのだが……。


「あ、あの水が流れているところに行く道を作るゴブ?」

「はい。あそこに湯船を作って、それから屋根と壁を作るんです」

「大変そうだゴブ」


 ヴェラはやりたいことを理解してくれているようだ。畑のときから思っていたが、やはりこの子は他のみんなよりもかなり頭が良いような気がする。


「あんなところで水浴びするニャ? もっと広いところでお魚取るニャン」


 あれ? ジャガーって泳げるんだっけ? 猫は水が苦手っていう印象があったけれど……。


「水浴び大好きだワン」

「大好きバウ」

「ワンワン」


 クウ、カイ、ポチのわんこ三兄弟は無邪気に喜んでいる。犬と言えば水浴び大好きというイメージはあるが、こちらはそのとおりなようだ。


「ああいうところに道を作るならオレッチの出番だっち」


 アルベルトはそう言うとツタを伸ばし始めた。


 おお! すごい!


 さすがは木の魔物だけはある。あんな遠くにまでツタが届くなんて!


 と思って見守っていたのだが……。


「う……無理だったっち。オレッチには遠すぎるっち」


 まるでダメだった。ほんの数メートル伸ばしたところでアルベルトのツタは止まっている。


 ううん。これは……。


 畑のときもそうだったが、ちゃんと指示してあげたほうがうまくいきそうな気がする。


 そのうちベルードかアイリス様とやらが来てくれたら助けを呼べるだろうし、それまでにこの集落をきちんと発展させておこう。


 よし!


「まずはやり方を考えましょう。必要なのは道を作ることと浴場を作ること、それから屋根と壁を作ることです」

「何から始めるゴブ?」

「最初は道ですね。アイリスタウンからあそこまで、道を通しましょう」

「わかったゴブ。道づくりならアルベルトとゴンザレス、それからミミーが得意ゴブ」

「お、お、お、お、おで。頑張る」

「アタイ、頑張るズー」

「任せるっち。アイリスタウンの道もオレッチたちで作ったっち」


 へえ。そうなんだ。それはすごい……って、あれ?


「そういえば、あの道はどこに繋がっているんですか?」

「? どこって、どういうことだっち?」

「え?」

「え?」


 思わずアルベルトに聞き返したが、アルベルトは私が何を言っているかわかっていない様子だ。


「ええと。道はどこかに行くために作るものだと思うのですが、どこに行くための道を作ったんですか?」

「え? 町には道が繋がっているものだって聞いたっち。だからオレッチたちで道を作っただけっち」

「ええと、つまりどこにもつながっていないんですか?」

「もちろんだっち。適当に森に向かって作っただけだっち」

「ええぇ」

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