第九章第9話 上陸
防壁の上を歩いて海を渡った私は無事に島へと上陸した。だがそこは荒波の押し寄せるごつごつとした岩場で、目の前には高い崖がそそり立っている。しかもその崖は海に向かってせり出しており、とてもではないが登れそうにない。
「うーん。困りましたね」
まあこの状況になりそうなことは海の上を歩いている途中で気付いていたのだが、複数の防壁を同時に展開することが出来ないためすでに手遅れだった。
結界と組み合わせればどうにかなるような気もしたのだが、何かの拍子で失敗して海に落ちるのも嫌だったからね。
とりあえず上陸してから考えようと思った私はこうして歩いて海岸までやってきたというわけだ。
「リーチェ、どうすればいいと思いますか?」
海の上でずっと話し相手になってくれていたリーチェに尋ねてみる。
「え? 飛んでいけばいい? でも私の【蝙蝠化】のスキルはまだレベルが……ああ、そういえば【闇属性魔法】のスキルレベルを上げたから【蝙蝠化】もレベルアップできるんでしたね」
うん。リーチェが言うならきっと間違いないはずだ。それに、もし途中で解けても落ちる前に防壁で足場を作ればなんとかなるような気がする。
そう考えた私は【蝙蝠化】に SP を 10 ポイント割り振ってレベルを 2 に上げた。
そして早速【蝙蝠化】を発動して蝙蝠へと変身すると小さな翼を懸命に羽ばたかせて空へと舞い上がる。
海からの強い風に何度もバランスを崩しそうになるものの、墜落してしまうようなことは無かった。
なるほど。これはきっとレベルが 2 に上がったおかげなのだろう。昔だったら間違いなくこの風でバランスを崩していたと思う。それに10秒経ったというのにまだ蝙蝠の状態を維持できているというのが素晴らしい。
と、思っていたのだが崖の上まであと数メートルのところで【蝙蝠化】の効果がれてしまった。
「あ、防壁」
元の姿に戻った私は慌てて足場を作り出した。
なるほど、どうやらレベル 2 になった【蝙蝠化】の持続時間はおよそ1~2分ほどのようだ。もう一度【蝙蝠化】を使おうとしても使えないので、しばらく待たなければいけないのはレベルが上がっても変わらないらしい。
ん?
視線を感じて上を見上げると、リーチェが崖の上から手招きをしている。来て欲しいと言われているのはわかるのだが、一体どうすれば?
え? 妖精?
ああ、なるほど。そういえばそんなスキルがあったね。
妖精なら羽根が生えてそうなので飛べる気がするけど、10 秒であそこまで飛べるだろうか?
不安になった私は【妖精化】に SP を投入してレベルを 2 に上げてから、妖精化を発動した。
体が突然小さくなる感覚は【蝙蝠化】と似たような感じだが、【蝙蝠化】のときとは少し感覚が違う。【蝙蝠化】は体が小さくなって腕が翼に変わるイメージだが、【妖精化】の場合は体が単に小さくなって背中に羽根が生えているようなイメージだ。
だが、どうすれば飛べるのかは感覚としてわかる。
うん。これなら大丈夫そうだ。
私はすぐにリーチェのところへと辿りついた。
「リーチェ。着きましたよ」
私がそう言うとにっこりとリーチェは笑みを浮かべてくれた。
うんうん。リーチェはやっぱりかわいいね。
それに今の私はリーチェと同じくらいの背の高さなので同じ目線も世界を見られるというのも嬉しいものだ。
これなら【妖精化】をレベルアップさせていくのも良いかもしれないね。
そんなことを思っていると【妖精化】の制限時間が来てしまい、私は元の姿へと戻ってしまった。
うん。【妖精化】は毎日使ってレベルアップさせよう。
そう決意したところで私は周囲の様子を確認する。
まず、後ろは当然海だ。見渡す限りの大海原が広がっている。どこかに陸地が見えれば、という期待も虚しく、こちら側からは海しか見当たらない。
それから下を見下ろせばもちろん海面が見える。100 メートル、いや 200 メートルくらいはあるだろうか?
うーん。やっぱりこの高さを普通に登るのは無理そうだ。翼を持たない者がこの場所へと辿りつくことは不可能なように思える。
さて、肝心の陸地のほうだがちょっと不思議な地形になっている。まず、どうやら私は火山の火口、いやカルデラを見下ろしているような気がする。
というのも私の目の前には広い円形の窪地が広がっており、それをぐるりと取り囲むように山がそびえ立っている。そしてその窪地の中心には小さな丸い形をした山があるのが特徴的だ。
別にマグマがボコボコと湧き出ているわけではないが、こういう地形は火山の火口やカルデラ以外に私は知らない。
それともう一つわかることは、どうやらここは島だということだ。カルデラを挟んで反対側の山の向こうに何があるのかはわからないが、これはもしかすると海底火山が隆起してできた絶海の孤島というやつではないのだろうか?
人が住んでいる島であればありがたいのだが……。
まあ、それはこのカルデラを囲む山の尾根をぐるりと歩いて回ってみればわかることだろう。
そう考えた私はこの時計回りに回るべく、ゆっくりと歩きだしたのだった。
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