第七章第14話 シャリクラの晩餐
「サラ殿下はどのようにして聖女様とお知り合いになられたのですか?」
シャリクラの町へと向かう航海の途中でそうサラさんに話しかけているのはハーリドさんだ。
「はい。漂流していたところを助けていただきました」
「それはそれは。お二人が巡り合ったのは神のお導きなのかもしれませんね」
「はい」
そして会話が途切れる。
「サラ殿下の髪はとてもお美しいですね。身の回りのお世話をする者をお付けいたしますよ?」
「いえ、結構です」
「そうですか。それでは……」
と、まあ、こんな感じで会話にならない。サラさんには会話を続ける気が無いのだろうが、それでもめげずにアタックを続けるハーリドさんもちょっとかわいそうな気もする。
そんな二人を尻目に私は今日も日光浴を楽しんでいる。
頬を撫でる風はちょっと冷たいけれどこの優れモノのローブがあれば体が冷えることはないし、それに何よりやっぱりお日様は気持ちがいいからね。
****
私たちは三日の航海を経て夕方にシャリクラの港へと入港した。ハーリドさんに案内されて港に降り立つと大勢の人が出迎えてくれる。
もちろん、例のビタンのお祈りでだ。
まあ、公式に訪問しているわけだし仕方ないのかもしれないけれど毎度毎度のこれは勘弁してほしい。
そして出迎えに来てくれていたシャリクラの首長さんと自己紹介をすると馬車に乗り込みパレードを行いながら首長邸へ向かったのだった。
もちろん、沿道に歓迎に来てくれた人達もみんなビタンとしていたのは言うまでもない。
はぁ。まったく。
****
さて、私たちはこの町に五日ほど滞在することになった。というのも、私たちはここでも剣に浄化魔法の付与を行うことになったからだ。この町での依頼は 300 本。一日 100 本ペースで付与をしても三日で終わるわけだが、エイブラの時と同様に孤児院や病院への視察もお願いされたのだ。
そういうところに行って人助けをするのは嫌いではないが、エイブラでのあれを見るとあまり私の力は必要とされていないような気もするけれど……。
まあ、この間に乗組員の皆さんも英気を養ってくれたらと思う。
そして晩餐の時間がやってきた。いつもは元気になるルーちゃんがあまり元気になっていないのはこれまでの食事のせいだろう。
というのも胡椒や他の香辛料をたっぷり使った串焼肉とか、何かの豆をペースト状にして塩とニンニクとオイルで味つけしたものとか、なんというかイマイチ私たちの口には合わない料理ばかりが出てくるので
そのため船での食事は私の収納の中に入っている料理で賄っていた。今日こそは美味しいイエロープラネット料理が食べられると良いのだけれど……。
「聖女様、こうして晩餐をご一緒できますことを心より嬉しく思います」
「こちらこそ、ありがとうございます」
会場に入った私たちを首長さんが歓迎してくれる。そして、一皿目が運ばれてきた。
あ、いつもの豆のペーストと平たいパンだ。まあ、まずいわけではないけれどちょっと、ね。嫌いではないけれど好きでもない食べ物だ。
二皿目は野菜サラダだ。うん、これは美味しい。オリーブオイルとレモン味のドレッシングに引き立てられた野菜サラダのおいしさは万国共通だよね。
三皿目は串焼肉を取り分けたものと野菜だ。ああ、これはいつも通りスパイスたっぷりのやつだ。まあ、悪くはないんだけどちょっと私はスパイスが強すぎて好きじゃないかな。お肉もあまり柔らかくないし。
イザールの町ではお肉が無くて辟易したものだけど、この国でもちゃんとお肉を食べる文化はあったらしいよ。
四皿目は、おや? これは見たことない料理だ。興味深そうに見ていたせいか、首長さんが解説をしてくれた。
「聖女様、こちらはサルーナという我が国伝統の煮込み料理でございます。羊肉をトマト、ニンジン、ジャガイモなどの野菜と香辛料でじっくりと煮込んだ料理でございます」
「それは美味しそうですね」
何だかどことなくカレーを思わせるような匂いもするし、トロッとしているところもカレーっぽい。それにちょっと粒が縦長でパラパラしているけれど白いごはんも一緒に出てきている。
私はスプーンで掬うと口に運ぶ。
うん。なんというか、美味しいしカレーっぽいスパイスの味はするけどカレーライスじゃないね。
何だろう。口の中にじんわりと骨と肉から染み出たうま味が広がってくる。トマトの酸味も良いアクセントになっているし、お肉も柔らかい。
だけど、こう、その、スパイスがやっぱり強すぎる気がする。
もうちょっとこう、大人しい味の方が好みかなぁ。
でもこの料理は今までのイエロープラネット料理の中では一番好きかもしれない。
ちらりとルーちゃんを見てみると美味しそうに食べている。
ああ、良かった。ルーちゃんが美味しそうに食べているのを見ると私も幸せな気分になるもの。
すると次のお皿が運ばれてきた。
あ、これはエイブラでも良く出てきたお菓子だ。ということはこれで最後なのだろう。そろそろお腹いっぱいになってきたところだったので丁度良い。
このお菓子は赤っぽい色のグミみたいな見た目で、たっぷりと砂糖にまぶされていて中にはナッツが入っている。食べるとナッツの香りとほんのちょっぴり薔薇の香りがして、食感は見た目通りグミのような感じだが砂糖が大量に使われているらしくしゃりしゃり感と共に甘さが口いっぱいに広がる。
毎日食べたいお菓子じゃないけど、たまにならこういうのも良いよね。
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