第七章第13話 エルフの奴隷

それから 2 日ほどで付与の仕事を全て終えて休んでいた私たちのところへわざわざ大統領がやってきた。


「聖女様。浄化魔法を付与していただきありがとうございます。これで我が国も魔の者と手を結んだ連中と戦うことができるでしょう。こちらは約束の代金でございます」


そう言った大統領の従者が金貨の入った袋を差し出してきたのでそれをシズクさんが受け取る。


請求金額は金貨 1,000 枚。ホワイトムーン王国でしたのと同じ金額だ。


「それとですな。隷属の呪印を施されているかどうかは分かりませんが、南東の町ダルハの高級娼館にエルフの奴隷がいるという情報が入って参りました。なんでも、ルミア殿と同じ緑の髪だそうですが……」

「え? エルフの奴隷がいる? しかも緑の髪? それって!」

「本当ですかっ!?」


大統領からのその報せにルーちゃんが食いついてきた。


「え? ええ。そうですな。ただ、正式に上がってきた情報ではなく、あくまで町の噂のような話らしく真偽のほどは定かではありませんが……」

「そうですか……」


そう言われたルーちゃんはしょんぼりと俯いてしまう。


「いえ、大統領。ありがとうございます。それでは早速ダルハへ行ってみることにしましょう。ルーちゃん。町の噂ってことは、行けば何か分かるかもしれませんよ?」

「姉さま……はいっ!」


私がそう言うとルーちゃんはパッと顔を輝かせて元気に返事をしてくれる。


「おお、左様でございますか。それでは、ダルハまでの道案内をする者が必要でしょう。明日の出立でよろしいですかな?」

「はい。何から何までありがとうございます」

「いえいえ。我ら人類の希望である聖女様に協力するのは当然の事でございますから」


あ、うん。まあ、吸血鬼なんだけどね。


****


「聖女様、はじめまして。私はエイブラの首長マタルが次男、ハーリドと申します」

「はじめまして。フィーネ・アルジェンタータです。こちらから順にクリスティーナ、シズク・ミエシロ、ルミア、そしてサラ・ブラックレインボー皇女です」


翌朝、私達の道案内役としてやってきたのは会談の時に言っていた例の人だった。見た目は黒目黒髪で彫りの深い、何ともアラビアンナイトな感じのイケメン王子様だ。


うん、爆発しろ。じゃなかった。


まあ、要するにサラさん目当ての婚活をしに来たということだろう。


この件については私があまり首を突っ込むのも面倒なことになりそうだし、サラさんが嫌がっていたら助け船を出すくらいにしておこうと思う。


それに剣の腕が立つと言っていたのだ。私は首長というのはよく分かっていないが要するに王子様のようなものなのだろうし、まさかエイブラまでの道中の護衛の人達みたいに捨て身特攻なんかしないはずだ。


うん。それなら水先案内人としては良いんじゃないかな。


一通りの挨拶を終えた私たちは用意された馬車に乗り込むとそのまま港へと向かい、そこから船へと乗り込んだ。


「この船で一度シャリクラの町へと向かいます。そこで一度補給をしてからダルハへと向かうことになります」

「なるほど。どちらも港町なんですね」

「はい。ご覧のとおり我が国の国土はほぼ全て砂漠ですので、内陸部は不毛の大地が広がるばかりです。故に交易によって我が国は成り立っているのです」

「そうなんですね」


確かに砂漠の国だと農業は難しそうだしね。


あれ? でも魔物のせいで海では運べないって言っていなかったっけ?


「そういえば、南の海には魔物がいて航路を妨げると聞きましたが……」

「ああ、聖女様もご存じなのですね。我が国の南方の海域はシーサーペントという恐ろしい魔物の巣窟になっております。シーサーペントは一匹であっても討伐には多大な犠牲を伴います。それがかなりの数いるのですから、とても討伐など不可能です。まあ、そのおかげで我が国は香辛料貿易を独占できるのですがね」


ハーリドさんはあっさりとした様子でそう言った。


確かに海の中の棲んでいる魔物となると討伐も大変だろうし、船を出すなんて一介のハンター達では荷が重いだろう。


それにイエロープラネットとしては香辛料貿易を独占させてくれるシーサーペントを国として討伐する理由はないし、東にあるというグリーンクラウドという国だって売れているのにわざわざ危険を冒して討伐する理由はないという事なのだろう。


うーん。ただそれで胡椒があまり手に入らないというのもなぁ。


そんなことを考えているうちに私たちを乗せた船は大海原へと滑りだしたのだった。

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