第七章第15話 ダルハへ

私たちは五日間シャリクラの町に滞在し、付与の仕事と孤児院や病院の視察などを行ったのちダルハへと出発した。孤児院や病院はエイブラと同じような感じでここだけを見ればとても良く運営されているように見えた。


首都だけでなく別の町でもこうならやはり余裕があるのだろう。イザールの孤児院は行っていないので分からないけれど、やはり同じような感じなのだろうか?


実態はよくわからないが、孤児の子供たちが貧しい生活を送らないで済むというのはとても素晴らしい事だと思う。


さて、ダルハの町へと向かっている私たちの船だが、シャリクラの町で軍船が五隻護衛としてついてきた。なんでも、この先の海域はたまに魔物が出現するため注意が必要なのだそうだ。


私たちのいるこの海は実はとても巨大な湾となっていて、イエロープラネット王国自体が巨大な砂漠の半島になっているらしい。そしてその湾を挟んだ東側の国が香辛料の産地であるグリーンクラウドなのだそうだ。


そしてイエロープラネット王国の半島の南部と西部は山がちで、海も高い断崖絶壁となっており人が住むには適さないらしく、グリーンクラウドとの交易路である東の海沿いを中心に町が形成されているのだそうだ。


私たちの向かっているダルハはその交易路の最南端であり、最も外洋に近い場所に位置している。要するに、香辛料貿易の玄関口がダルハの町ということだ。ダルハ、シャリクラ、エイブラの順に香辛料が運ばれ、そしてその町を通るたびに税が課せられて値段が上がっていくということなのだろう。


また、外洋に近いからこそたまに魔物が流れ着いて船を襲うことがあるのだそうだ。


「しかし、軍船が五隻というのは大げさなんじゃないですか? 私たちがホワイトムーン王国から来た時は一隻でしたよ?」

「フィーネ様。私たちの乗ってきたキング・ホワイトムーン号は王族を乗せるための船です。当然、魔物と戦うための装備を備えておりますし、装甲も備えていますので並大抵の魔物に遅れを取るとことはありません」

「そうだったんですね」


クリスさんが解説してくれたが、なるほど。そういうことか。見ていなかったから装甲は気付かなかったけど、言われてみれば大きな弓のようなものは備え付けられていたもんね。


「聖女様。こちらの船は高速船なのです。魔物を倒すことよりも魔物に襲われたときに逃げ切ることを第一に考えております」

「なるほど。そうなんですね」


ハーリドさんが私たちの会話に横から話に口を挟んできた。


「でも護衛してくれている他の船はどうなんですか?」

「立派に足止めの役を果たすことでしょう」

「え?」


砂漠の時といい、どうしてこうもこの国の人達は自己犠牲が好きなの?


「聖女様の盾となれるのです。これ以上の幸せはありません」

「ええぇ」


****


シャリクラの港を出港してから三日目の朝を迎えた。今日の夕方にはダルハの港に着く頃らしい。護衛の船はあまり速くないらしく、私たちの船もそれに合わせてゆっくりと穏やかな海を進んでいる。


魔物が出る、なんて話を聞いた時はフラグかと思ったものだがどうやら杞憂だったようだ。


そもそもそう頻繁に魔物が出るということがないからこうして貿易の路として成り立っているわけだしね。


というわけで私はいつものように日光浴を楽しんでいると、サラさんが声をかけてきた。


「聖女様は日光浴がお好きですね」

「はい。とても気持ちいですからね」

「そう、ですか。わたしは寒くてとてもそのような気には……」

「神殿で貰ったこのローブは優秀ですからね。この程度ならまるで寒くないんです」


私は身につけているローブの裾を少し引っ張りながらサラさんにそう言った。


「神より授かったローブですものね。聖騎士様のマントもそのようなものなのでしょうか?」

「ええと、多分?」

「それは素晴らしいです」


そう言ってサラさんはニッコリと笑った。力こぶを作って筋肉をピクピクさせながら。


ええと、どう考えてもその筋肉を見せつけるその恰好が寒いんだと思うよ?


「ところで聖女様。聖女様は良く日光浴をされていない時に石を海に投げ入れてらっしゃいますけれど、あれは何なのですか?」

「え? ああ、あれは【付与】のスキルレベルを上げるために石に浄化魔法を付与して、終わったものを海に投げ捨てているんです」

「では、船員に汲み上げさせた海水をコップで海に流しているのも?」

「はい。【薬効付与】のスキルレベルを上げるために海水に浄化魔法を付与して海にまいているんです」

「そうなのですね! さすが聖女様です。こんな時も修行を怠らないなんて! 感動しました」


そう言ってサラさんはキラキラの笑顔を浮かべると再び筋肉をピクピクさせて私にお祈りをしてきた。


いや、うん。なんと言うか。


これ、私はどう反応したらいいの?

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