第七章第2話 出発

みましの従順なる僕、クリスティーナの罪を許し、船乗りの生業を与え給え」


そして教皇様とクリスさんがブーンからのジャンピング土下座を華麗に決める。このペアもなかなかに見事だ。だがクリスさんが教皇様の動きに僅かに遅れてしまっていたので 9 点といったところだろうか。


さて、今の話を聞いてわかると思うが私たちは今神殿にやってきている。教皇様の祝詞を聞いてわかる通り、なんとクリスさんが遂に観念して転職したのだ。


そしてクリスさんが教皇様と二言三言交わしてから私たちのほうへと戻ってきた。


「フィーネ様、これでもう大丈夫です。【船酔い耐性】が Lv 2 で覚えることができました。船で醜態をさらすこともないでしょう」

「クリスさん、良かったですね」

「ありがとうございます。【操船】、【操帆】、そして【水泳】も Lv 1 で覚えることができました。 もう少しレベルが上がれば外洋を航海するすることも可能でしょう」


クリスさんはそう言って胸を張る。


「じゃあ、楽しみにしてますね」


私がそう言うと、クリスさんは嬉しそうに「はい」と答えてくれたのだった。


「フィーネ嬢、良き旅を。イエロープラネット首長国連邦への旅路が良きものとなりますよう、祈っております」

「教皇様、ありがとうございます。きちんとお役目を果たしてきます」

「フィーネ嬢に神のご加護があらんことを」


今回も教皇様にブーンからのジャンピング土下座で見送ってもらった。きっといい旅になるに違いない。


ん? でもよく考えると死ぬような思いを何回もしているし、大変な旅になるのかも?


そこはかとなく危険な予感を胸に抱きつつ私は神殿を後にし、迎えに来てくれた騎士団の馬車に乗り込んで王都を出発したのだった。


あ、ちなみにこの前王宮から払ってもらったお金のうち金貨 5,000 枚を神殿に寄付した。そのうち 500 枚をアイロールの、4,500 枚をブラックレインボー帝国に荒されたマドゥーラ地方の孤児院の運営資金として使ってもらえるようにお願いしておいた。手数料として金貨 2 枚を支払ったが、全額私の名義で各孤児院に分配してくれるそうだ。


戻ってきたら明細を貰えることになっているので途中で中抜きをされることもなさそうなのはありがたい。


なんというか、貴族はおかしなのがいっぱいいるけれど神殿は何だかすごくまともなのは安心できる。


貴族の人たちにも見習ってほしいものだけど、無理なんだろうなぁ。はぁ。


****


道中魔物に襲われるというトラブルはあったものの、私たちは無事にセムノスの町へとやってきた。ここから船でイエロープラネット首長国連邦の西の港町イザールへと向かう。そしてそのイザールから砂漠を渡って首都エイブラを目指すのだ。


今回はこのセムノスまでは近衛騎士団の皆さんに護送してもらい、そしてここからは第三騎士団の管轄となる。


この町はザッカーラ侯爵領の領都だそうだ。だからもちろん領主様もこの町に住んでおり、領主様のお屋敷に招待を受けた。しかし、今回は色々としがらみを増やしたくないのでそのお誘いは丁重にお断りをして、王国の用意してくれたホテルに素直に泊まった。


泊まったのだが……。


「聖女様、この度は大任でございますな」


私の目の前に座って大仰にそう言ったのはクラウディオ・ディ・ザッカーラ侯爵、このセムノス一帯を治める領主様だ。


「いえ。別に大した話ではないですよ? ちょっと行って首長さん? にお話してくるだけですから」

「はは、さすが聖女様でらっしゃいますな。ご存じかも知れませんが我らがホワイトムーン王国とイエロープラネット首長国連邦はあまり仲が良くないのです。我が町セムノスは軍港としての側面がかなり強いのですが、これは海を挟んで反対側のイエロープラネットからの侵攻を防ぐという重大な役目を負っているからなのです。ただ、そういったこともありまして我々としてはどうしてもイエロープラネットと言われると身構えてしまうのです」

「そうだったんですか」


そういえば昔ノヴァールブールあたりを巡って近隣四か国で戦争になったとも聞いたし、やはり遺恨は残っているのだろう。


ホワイトムーンとブルースターは随分と仲良しになっているみたいだけど、それはブルースターが共和国になったから大規模な戦争をやりづらくなったというところもあるのかもしれない。


「そういえば、最近は随分と船の残骸などが南から流れてきていると聞いております」

「船の残骸、ですか?」


私が聞き返すと、クラウディオさんは頷いた。


「はい。このあたりの海流は南から北に向かって流れておりますので、おそらく船団が嵐か何かでまとめて沈没したか、もしくは大規模な海戦が南で起こったのではないかと推測しているのですが……」

「そうなんですね」

「聖女様に影響はさほどないとは思いますが、余計な慈悲など起こさぬようどうぞお気を付けください」

「うん? はぁ」


私は何を言われているのか意味がよく分からなかったが、とりあえず頷いたのだった。

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