第六章第58話 王都防衛戦

王様に参戦の許可を取り付けた私たちは王都の西門の上へとやってきた。眼下の戦場にはゴブリンやオークなどの雑多な魔物が押し寄せてきている。魔物のくせに一部は防具を着ていたり武器を持っていたりするあたりはやはり軍隊なのだろう。


「普通に、押し返してますね」


突然森から現れた魔物の集団に虚を突かれて崩されたそうだが、今はきっちりと戦線を立て直して魔物の群れを押し返している。


「はい。我が国の騎士団はそれほど弱くはありません。倒せるのであれば問題ないはずです」

「私たちも最初に死なない獣を見た時はびっくりしましたしね」

「でも姉さまがあたしの矢全部に浄化魔法を付与してくれてたおかげで倒せましたもんね」

「転ばぬ先の杖というやつでござるな」

「あはは、そうですね」


別にそんなすごいことを考えてたわけじゃなくて経験値を獲得するためだけどね。


「これならば拙者たちの出る幕はなさそうでござるが、ん? あれは?」


シズクさんの視線の先を見ると、黒い鎧を着込んだ兵士たちが魔物に混ざってこちらに進軍してきている。


「あれが、例の倒せない兵士ですかね?」

「かもしれないでござるな」


どうやら目視できているのは私とシズクさんだけで、クリスさんとルーちゃんは見えていないのか戸惑っている様子だ。


「うーん、黒いもやは死なない獣みたいにはっきりと纏っているわけではないんですね」

「そうでござるな」


そんな会話をしているうちに敵の兵士と騎士たちがぶつかる。やはり練度はこちらの方が上のようで、黒い兵士たちを次々と打ち倒していく。


「あれ? 普通に倒しちゃいました?」

「いや、まだでござる」


私たちの見ている前で倒れた敵兵がむくりと起き上がり、まるで何事もなかったかのように騎士たちへと向かってきた。それを騎士たちは再び打ち倒し、そしてまた敵兵はむくりと起き上がって向かってくる。


ああ、確かにこれはちょっとした悪夢だ。いくら騎士たちが強くてもいつかはやられてしまうだろう。


「本当に死なない獣そっくりですね。あれはちょっとまずそうですし、行きましょう!」

「はい!」


こうして私たちは黒い兵士たちのところへと向かった。


****


「下がれ! そいつらは我々が相手をする!」

「クリスティーナ殿!? 聖女様も!」


私たちは騎士たちと入れ替わる形で敵兵と対峙する。近くで見るとほんのわずかに黒い靄を纏っているのがよくわかる。


「まずは拙者が!」


シズクさんが一気に距離を詰めると一瞬で敵兵三人を斬り捨てる。


「浄化!」


私が倒れた三人に浄化魔法を撃ち込むと浄化の光が包み込む。


そしてしっかりとした手応えの後、黒い鎧だけを残して中の兵士は塵となって消滅した。


「やはり死なない獣と同じみたいですね」

「そのようでござるな。しかしレッドスカイ帝国のそれとブラックレインボー帝国のこれは関係があるでござるか?」

「それはわからん。だが、死なない獣と同じ方法で倒せると分かったのであれば問題ない」


クリスさんは聖剣を抜き放つ。


「神よ! この世ならざる穢れを払う浄化の力を我が剣に与えたまえ! 白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣エターナル・フォース・セント・ホワイト

「はい?」


クリスさんが意味不明な魔法を唱えると、聖剣に浄化魔法が宿った。


「ク、クリスさん? それは?」

「フィーネ様、頂いた書物で勉強したおかげで聖騎士のスキルである【聖属性魔法】と【魔法剣】を獲得できました。これでフィーネ様のお役に立てます」


い、いや、ええと、うん。そうじゃなくて!


「そ、その、え、えた?」

白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣エターナル・フォース・セント・ホワイトです。【魔法剣】の最後の発動名は使い手が最も良いと考える名前をつけることができるのです」


クリスさんが自信満々に、そしていかにも褒めて欲しそうな表情で私をキラキラと見つめている。


い、言えない。こんなにキラキラした目を見て名前がかっこ悪いとか、厨二病入ってるとか、そんな酷いこと、私には言えない。


私は意を決して笑顔を浮かべるとクリスさんを何とか褒める。


「え、ええと、はい。その、クリスさんらしくて良いと思いますよ」


私の顔は引きつっていなかっただろうか? 大丈夫だろうか?


「はい!」


クリスさんは満足げな表情で頷くと嬉々として敵兵を斬っていく。しっかりと浄化魔法が発動しているようで、クリスさんがエタ何とかを発動しながら切り付けた敵兵はその場に倒れたままになり、その傷口が再生したりすることもない。


そして倒れた相手にクリスさんが更に何回か攻撃を加えると倒れた敵兵は塵となって消滅したのだった。


「フィーネ様!」


クリスさんはものすごくうれしそうな表情で私を見てくる。


ああ、ええと、うん。そう、こう言う時は褒めるんだよね。


「クリスさん、流石です。やっぱり頼りになりますね」


私は営業スマイルでニッコリと微笑んでクリスさんを褒めてみる。


「はい! ありがとうございます!」


きっとクリスさんにシズクさんのような尻尾があったらブンブンと振っていたに違いない。


でも、これができるようになってくれたのは相当ありがたい。今は敵兵の数も少ないから問題ないが、この兵が大人数で襲ってきたら浄化魔法のタイミング合わせでも苦労しそうだ。クリスさんの倒した敵が再生しなくなるのなら随分と余裕が生まれるだろう。


それに、一撃で倒せないのはきっとスキルレベルがまだ低いからなのだろう。


あの感じからすると、スキルレベルがもう一つ上がれば一撃で倒せるようになるんじゃないかな?


「おお! 流石聖女様! クリスティーナ殿も流石だ!」

「聖女様に負けるな! 我らも続け!」

「うおぉぉぉぉ!」


一気に士気が回復した騎士団の皆さんが魔物を次々と打ち倒していく。そして後ろから私が付与した剣や槍を持った騎士たちが現れ、敵兵を圧倒していった。


こうして王都を強襲されたものの、ホワイトムーン王国側は犠牲者を出すことなくこれを撃退したのだった。

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