第六章第42話 アイロール防衛戦(7)

「クリス殿、そいつを頼むでござる! 拙者はあちらをやるでござるよ!」


私はシズク殿の指示に従って近くにいるジャイアントローチを斬り捨てた。そしてシズク殿は明かりの消えた民家へと一気に近づき、その民家に侵入しようと扉をかじっていた三匹のジャイアントローチを瞬く間に斬り捨てた。


やはり夜目が利くというのはシズク殿の大きなアドバンテージだ。


「クリス殿!」

「ああ、急ごう。ゴキブリどもの侵入を止めなければ!」


私たちは伝令の報告にあった侵入ポイントである西門へと走り出したのだった。


****


「炎よ、神の御名のもとに我が手に集いて球となり我が敵を滅ぼせ! 火球ファイヤーボール


私たちが西門付近へと到着した私たちが目にしたのは、城壁からは大量のジャイアントローチが雪崩れ込んできている。既に西門を守っていた部隊は城壁の上を放棄しており、火属性魔術師たちが地上からそのジャイアントローチたちに火球を浴びせている。


「くっ、遅かったか」


私のその声に気付いた小隊長が私に走り寄ってきた。


「クリスティーナ様っ! 怪我人がっ! ジャイアントローチに齧られてっ! あれ? 聖女様は?」

「フィーネ様は先ほど町の全てと周囲の森のアンデッドを浄化なさり、体を休められている。怪我人は野戦病院に運べ」

「は、ははっ!」

「それより何故城壁の上を放棄しているのだ! あれでは!」

「それが、暗闇のせいで接近に気付けず、それにあまりの数に松明では……」

「くっ、そういうことか」


確かにあの数は厳しいかもしれない。


「小隊長殿、油はないでござるか?」

「油、ですか?」

「シズク殿、どういうことだ?」


私はシズク殿の意図がつかめずに聞き返す。


「城壁の上を取り返したら油をまいて火をつけるでござる。これ以上町の中に入られては被害が大きくなるばかりでござるからな。侵入できないように城壁の周りに火を放てば一網打尽でござるよ」

「な、なるほど。奴らは燃えるが石造りの城壁はそう簡単には燃えない。さすがは聖女様の従者殿ですな。手配しますので奴らを食い止めて下され!」

「よし、引き受けよう。油の手配は頼んだぞ!」

「ははっ!」


そう言うと小隊長は走り去った。


「私は聖騎士クリスティーナだ。ここの指揮を引き継ぐぞ。怪我人は魔術師の後ろへ。動ける騎士はジャイアントローチを魔術師の前に誘導しろ! 魔術師は私が守る! シズク殿、網を抜けたジャイアントローチを倒してくれ!」

「ははっ!」

「任せるでござる」


どうやら私の指示に従ってくれたようで、小隊の面々が散っていき、怪我人が続々と運ばれてくる。騎士たちも無理して倒そうとせずに松明を使って追い立てるような動きをしている。


「はっ!」


私は襲い掛かってきたジャイアントローチを斬り捨てる。


「魔術師! 射撃用意!」


すると三人の魔術師が詠唱を始める。


「今だ! 撃て!」

「「「火球!」」」


同時に放たれた火球は騎士たちによって追い立てられたジャイアントローチ達がまとめて燃やされる。だが、次から次へと侵入してくるジャイアントローチの数は一向に減らない。


「怯むな! 撃て!」

「「「火球!」」」


再び集められたジャイアントローチ達がまた燃やされる。そしてジャイアントローチが侵入してくる。


「おい、お前たち、MP は大丈夫か? MP が切れる前にこれを飲んでおけ」


私は疲労の色を見せ始めた魔術師たちにフィーネ様のお作りになった MP ポーションを手渡す。


「これは?」

「フィーネ様が作られた MP ポーションだ。MP 回復薬よりも回復するそうだぞ」

「ポーション!? そんな貴重なものを我々に!?」

「そんなことを言っている場合か! 町を守るんだ」

「は、はいっ!」


感動した様子の魔術師たちが MP ポーションの蓋を開けるとグビリと呷り、一気に飲み干した。


「す、すごい。不味くない!」

「ヤバいですよ。これ。あっという間に MP が全回復しました。これならまだまだやれます!」

「さすが聖女様!」


こうして元気になった魔術師たちがジャイアントローチを燃やして、そしてそこへ再びジャイアントローチが侵入してくる。これを 10 回ほど繰り返したところで小隊長が戻ってきた。


「クリスティーナ様! 油を持って参りました」

「よし、上を取り返す。シズク殿! 道を作ってくれ」

「任せるでござるよ」


私は油の入った樽を一つ担ぎ、そしてもう片方の手で松明を持つ。


「魔術師、階段までの道を作れ!」

「ははっ」


魔術師たちが城壁の上へと登る階段の方へと火球を放つと、その射線上にいたジャイアントローチ達は火だるまになって息絶えていく。


「クリス殿、ついてくるでござる」

「ああ」


シズク殿が走り出し、私はそれに何とかついていく。


「はっ、速い! なんという速さだっ!」


騎士たちが驚愕の声を上げているが、シズク殿は私がついてこられるように走っている。シズク殿が本気を出せば、たとえこの樽を担いでいなかったとしてもシズク殿の動きについていくことはできないだろう。


シズク殿は階段を登りながらジャイアントローチたちを次々と斬り捨てていき、すぐに城壁の上へと到達した。


「これでっ!」


私は樽の油をジャイアントローチ達の侵入経路となっている場所に思い切りぶちまけ、そしてそこに火のついた松明を投げ込んだ。


油に引火した炎は一気に燃え盛り、外から登ってきていたジャイアントローチ達がまとめて火だるまになり、走り回ることで周りのジャイアントローチ達にも引火する。


そしてさらに枯れた下草に引火してジャイアントローチ達は逃げ場を失い次々と焼かれていく。


「よし、これで大丈夫だ。そこのお前、外の火の管理は任せたぞ。あとは町中に入り込んだジャイアントローチを駆除するだけだ!」


私がそう叫ぶと、周囲の騎士たちから歓声が上がったのだった。

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