第六章第43話 崖っぷちのアイロール
2021/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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町中からジャイアントローチを駆逐し、城壁の外側に油をまいて火を放った。火は枯れ草に引火して瞬く間に燃え広がり、城壁と水堀の間を動き回っていたジャイアントローチたちをあっという間に飲み込んだ。ほとんどは水堀のほうへと逃げ出し、城壁を登ってきた一部のジャイアントローチも騎士たちによってはたき落とされ、火の海へと沈んでいった。
「シズク殿、いい作戦だったな」
「いや、クリス殿の指揮も見事だったでござるよ」
私たちはお互いの健闘を称え合う。私としてはシズク殿に大きく実力で水をあけられてしまっているのは悔しくもあるが、人間であってもルゥー・フェィ将軍のように強くなることはできるのだ。フィーネ様の仰った通り、必死に修行して強くなれば良いのだろう。
「さて、後は任せてフィーネ様のところへと戻るとしよう」
「そうでござるな」
私たちはそのまま西の城壁を後にすると、フィーネ様の待つ駐屯地へと戻ったのだった。
そして、私たちが駐屯地内に設けられた宿舎に戻ってみたのは、一台のベッドで召喚されたマシロに顔を
マシロは私たちを見るなり、鼻をふんすと鳴らして仕事をしたとのアピールをしてきたので私はその頭をそっと撫でてやったのだった。
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昨晩、特大の浄化魔法を使ったせいで MP がなくなりルーちゃんと一緒に自室へと戻った私は、少し横になって休もうと思ったらそのまま眠ってしまった。
クリスさんたちが心配だったので MP が回復したら加勢に行こうと思っていたのだが不覚だ。
マシロちゃんのモフモフの魔力は凄まじい。ただ、おかげでぐっすり朝まで眠れたので体調はすこぶる良好だ。
「おはようございます。フィーネ様。よくお休みでしたね」
「あはは。おかげさまで。昨日はすみませんでした。合流しようと思っていたんですが……」
「いえ。ジャイアントローチであれば我々でも問題ありません。火さえあれば何匹来ようが敵ではありませんから」
なるほど。どうしてこんなに焦げくさい匂いが漂っているのか不思議に思っていたのだが、どうやら私が眠っている間に派手に色々と燃やしたようだ。
「そんなことより朝ごはんに行きましょうよっ!」
「そうですね」
私たちはルーちゃんの一声で食堂に行き、そこでラザレ隊長に呼ばれて昨晩に起きた事態の深刻さを知ったのだった。
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「打って出るんですか?」
「はい。昨晩のジャイアントローチの侵入により、この町には籠城に耐えるだけの食料が残されておりません」
「え?」
「クリスティーナ殿とシズク殿が出られた直後、東側でも十五匹のジャイアントローチに侵入を許してしまったのです。騎士たちはきちんと城壁で止めたと思っていたそうなのですが、暗闇に紛れて町へと入ってしまったらしく、東側に多く集中していた食糧倉庫、そして商店、飲食店の食材が根こそぎやられました」
「うえぇ」
それは辛い。巨大ゴキブリの体液が付着した食糧とかどんな病気になるかわかったものではない。
「あいつらに食われた食糧は汚染されてしまいとてもではありませんが使い物になりません。食糧庫は全て廃棄、焼却処分といたしました」
なるほど。焦げ臭いにおいはこっちも入っているのか。ううむ。
「ラザレ隊長、食糧はどのくらいもつのだ?」
クリスさんの問いにラザレ隊長は眉間の皺を深くしてから答えた。
「食糧自体は五日はもつだろう。節約すればもう少しはいけるかもしれん。だが、この夏の収穫がほぼ全てダメになってしまったのだ。そして外に居座る魔物どもを何とかしなければ森に採集に出ることも他の都市から輸入することもできん」
苦い表情で吐き捨てるように言ったラザレさんに私は理解を示した。
「なるほど。皆さんを飢えさせる訳にはいきませんね」
「はい、その通りなのです。聖女様」
そういって深くため息をつくと、意を決した様子で私に協力を求めてきた。
「ですので、今日で決着をつけるべく、我々は準備が整い次第、我々は打って出ます。どうかお力をお貸しください」
「はい。もちろんです」
私は頷くとラザレ隊長の目を見てそう言ったのだった。
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さて、私たちは今日も西門へとやってきた。昨日との違いは、西門と東門には二個小隊だけを残して昼間に戦う予定だった残りの戦力は全て殲滅部隊に割り振られている事だ。ある意味、捨て身の作戦だ。
魔物暴走を退けない限りは隣町から食糧を運び込むことなどできない。飢えて死ぬか、敗れて死ぬかの違いでしかないのだ。
「総員、出撃するぞ! アイロールの民の命はこの一戦にかかっている! 総員、奮起せよ!」
「「「「おおぉー!!!」」」」
攻撃部隊の指揮を執っているラザレ隊長の指示で西門が開門され、跳ね橋がゆっくりと降ろされていく。
私はそこを狙われないように結界を張り、魔物たちの動きを押さえる。そして跳ね橋が降りきると騎士たちが次々と出撃していった。
騎士たちは上位種のほとんどいない魔物の群れに突っ込んでいき、次々と魔物を蹴散らしていく。
「私たちも行きましょう」
「はい、町を守りましょう」
「腕が鳴るでござるよ」
「ご飯を確保ですっ!」
三人はそれぞれ三人らしい台詞で私に答えてくれた。
こうしてこのアイロールを襲った魔物暴走を終結させるべく、私たちは森の中へと
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